こい/だって愛だからさ


※サイレント映画さまへ提出しました。


――。
よく、少女漫画やゲームでは、幼なじみや腐れ縁の間柄の登場人物が出て来る。
そして大体、その間柄にいる登場人物が男子と女子であれば、恋愛模様へと発展したり、泥沼へと発展していったりするのだ。
けれど実際は、現実は、そんなことにならない場合が多い。
私と実琴がいい例だ。
小学校低学年からずっと、果てや高校までも一緒の関係であるが、一度も恋愛模様に発展したことはない。
泥沼はなんていうか、まあ、実琴を好きになった女子に嫉妬されて、どうこうなったこともあったけれど……それがきっかけで、あれ……この気持ちって、恋!?となった場面もなかった。


「えーと?先週は水族館にいっただろ……? 名前!今日はどこに行けばいいと思う!?」
「……えー?期末が近いから、図書館とか」

実琴の焦った声に、私は遠い何処かから現実世界にへと戻ってきた。
休日、野崎のアシスタントとしての仕事がない実琴は、大体ギャルゲーをしていたりする。
ギャルゲーとは、平たく言えば、二次元の女の子と恋愛するゲームのことだ。
真横であわあわと二次元の女の子相手に悪戦苦闘している実琴は、私のよく知っている、普段通りの実琴だ。
……昔、私に突っかかってきた人が、思うに一生知ることのない実琴。
極度の照れ屋で、努力家で、乗せられやすい。
そんな奴だ。
今日もギャルゲーの選択肢に悩んで、何故か私を呼び出した実琴……それにしても私の家が近所になかったら、どうしていたんだこの子。
前みたいに電話してきたりするのか。
野崎に選択肢の相談をしたりはしないのだろうか。まあ、いいや、誰に相談するのも実琴の自由だし。
……そういえば、なんで私は幼なじみどうこうって考えたんだっけ。
テレビ画面を見ていると、ピンク髪を二つに括った女の子が可愛い声をあげて、突如登場してきた。
そうだ、この子だ。私は、ピーンときた。
いま実琴がプレイしているギャルゲーのこの女の子が、名前は忘れたのでAちゃんが、私にそう思わせたのだ。Aちゃんは『実琴』くんの幼なじみである。
だから、つい幼なじみについて考えたのだ。
私と実琴は幼なじみでなく、腐れ縁なるものだが――。
しかし、まあ、Aちゃんは随分と甲斐甲斐しい子だなあ。
朝は『実琴』くんを起こしにきてくれて、お昼は一緒にごはんを食べようと誘ってきてくれて、下校も帰ろうと誘い、たまに夕食を作りにきてくれる。
なんて健気なんだ。
これは好きにならざるを得ない。

好きに、なる。
恋に、落ちる?

正直好きも、恋、も私には分からない。
初恋は五歳のとき。そして、それきり恋をしていない私に、恋がどんなものか知る由もなかった。
好きになったら、仲を深めて、告白するのが恋?
私はうーん、と首を傾げる。
ああ、でも、恋をすると、相手のことしか考えられなくなるというなあ……。
それは、困るなあ。
私は扱いが雑になったりもするが、実琴を大切に思っているのだ。
実琴が困ったり、悲しんだりするのは見たくない。
どんな時も、実琴を一番に選びたい。
自分勝手だけど、それがいい。
……うん、私はまだ恋をしなくとも、考えなくてもいいかな。
結論を出したからか、漠然と安心してような気もするし、心に引っかかりが増えたような気もした。
ぐるり、肩を回してみると、関節が音を立てた。

「……名前は、出かけたりしなくていいのか?外出んの好きだろ」
「うん?まあいいよ。実琴がギャルゲーやっているの見ているの好きだし、たのしいよ」

実琴の言葉に、思ったままを返す。
真横でぐだぐだし始め、薄ら笑う私の方を見てから、実琴は「俺も、名前が付き合ってくれるの、……その、好きだ」とボソボソ小さな声でそう言った。
私はその実琴の言葉を、ただ単純に嬉しかった。
――すこし、頬と耳が熱かったのは、きっと気のせい。


「というわけで、まだ私には恋とか愛とか早いかなーという結論が出たんだ!……あれ?どしたの千代ちゃん」
「ううんっ!なっなんでもない!なんでもないよ!名前ちゃん!」

休日明けに、休日をどう過ごしていたか、という千代ちゃんの問いに答えた私は、急に顔全体を発熱させた千代ちゃんを心配に思った。
なんでもないというのなら、なんでもないだろう。けど、心配だな。
ちらちらと様子を伺う私は、千代ちゃんが「名前ちゃん、それは恋だよ……っ!」と脳内で興奮しているなんて微塵も考えてなかった