出張から戻って暫く。ポアロには通っていたけど、沖矢さんに挨拶に行くタイミングを逃していた。わたしの実家だけど管理してもらうからには手土産を用意するのかとか、突然訪ねたら迷惑かもしれないとか、いろいろ考えているうち、あっという間に時間が過ぎた。
今日もポアロでコーヒーを飲みながら、毛利さんたちと昼食を食べるコナンくんを視界の端に確認した。本日も相変わらず、彼は元気に小さいままだ。毛利さんのおじさんが手を挙げると、安室さんが返事をして近づいていく。
安室さんがポアロのバイトに加わったのも最近だ。これもぼんやりと彼がいつかポアロで働き始めるということくらいしか覚えていなかったが、毛利小五郎の弟子になるためにこの店を選んだそうだ。
安室さんに関しても、正体が公安警察の潜入捜査官 降谷零ということしか知らない。毛利小五郎の弟子になる理由もきっかけもわからない。随分ハンサムな店員を雇ったポアロは、売り上げが順調に伸びているようだ。
コナンくんは、今日もさりげなくわたしから隠れるように顔を背けている。可愛い。あまりじっくり見ても不審がられてしまうので、できるだけ視界の端にとどめている。安室さんがコナンくんに向かって何か話しかけている。席が離れているので、会話の内容は聞こえない。安室さんの視線がわたしの方へ動くと同時に、毛利親子も私の方を見る。何だろう。目が合う。毛利さんは髭に触れ、不思議そうな表情を浮かべた後、おもむろに立ち上がった。

「ひょっとして、#名前#ちゃんか?」

彼はそう言いながら笑顔で近付いて来た。毛利親子とは蘭ちゃんが新一と幼馴染なこともあり、親同士も交流があった。わたしも学生時代数回顔を合わせたことがある。最近ポアロで何度か彼らと遭遇しているけど、毛利親子は今回初めて私に気付いたようだった。
化粧や髪色もあり、彼らの記憶にある子供のころの私とは大きくかけ離れているから、当然のことだと思う。今日は安室さんがきっかけで私に気付くに至ったのだろう。

「毛利さん、お久しぶりです。とはいえ何度かお見掛けしてたんですけど、ご挨拶せずにすみません」
「いや〜〜俺は全く気が付かなかった!すっかり大人になったなあ。」

蘭ちゃんは席に座ったまま、すこし気まずそうに私に会釈をした。彼女と話したのは数回しかないし、本当に幼いころしか碌に顔を合わせていないので、気持ちはよくわかる。歳も離れているし、きっと蘭ちゃんは私の名前くらいしか覚えていないのだろう。コナンくんは我関せずといった顔でジュースに夢中なフリをしている。かわいい。
安室さんもなぜか毛利さんに着いて来て、わたしに向かって微笑みかける。

「毛利先生とお知り合いだったんですね。いつもコナンくんのこと見てるので、不思議に思ってたんです」

うわ、ばれてる。

「そういえばあのガキ、親戚なんだってな」
「はい、時々様子を見て欲しいと頼まれていて。でも私は直接面識がないし、顔も似てないですから。話しかけても不審者になっちゃうと思って、このお店からたまに見てました。よく考えると十分不審で怪しいですよね」
「へえ、コナンくんの親戚なんですか。コナンくんもお話しにおいでよ」

安室さんが振り返ってあの子を呼ぶ。ついに小学生の姿になった弟と対面することになるのか。彼も避け続けるのを諦めたのか、私の方に向かってくる。

「こんにちは、コナンくん」

正面の椅子に座った弟に挨拶する。茶番だ。弟も決意したようにニッコリと子供らしい笑顔で挨拶を返してくる。

「はじめましてだね、#名前#姉ちゃん!」

02


/top