私の弟は、私のことを姉と呼んだことがない。小学校に入学する前から面倒を見ているのに、ずっと名前で呼ばれていた。それが今、小学生の姿になった弟が私を姉と呼ぶ。あまりにも可愛い。感動した。

「何かあったらいつでも頼ってね」
「うん!ありがとう!#名前#姉ちゃんのことは新一兄ちゃんから聞いてて、会いたいと思ってたんだ〜。こんなに近くに居るなんて知らなかったよ」
「そうなんだ。顔も似てないし、わからなくて当然だよ」

小さくて丸い頭を撫でる。新一が小学生のころを思い出す。当時彼はやんちゃな上に照れ屋だったから、こうやって頭を撫でさせてくれることはなかった。今もむずがゆそうにしているが、江戸川コナンを演じているので逃げようにも逃げだせないという様子だ。かわいい。

「失礼ですが、#名前#さんの弟さんというのは…」

安室さんがきょとんとした顔で話しかけてきた。私より先に毛利さんが答える。

「あの探偵坊主だよ」
「血はつながってないんですけどね。私、工藤#名前#といいます」
「なるほど。僕は毛利先生の弟子としてお世話になっています、安室透と申します」

手を差し出される。握手ってこと?差し出された手に応えようとしたとき、コナンくんが身を乗り出して安室さんと私の間に割り込んだ。

「そういえば!!!新一兄ちゃんから#名前#姉ちゃんに伝言があったんだ!!!」
「え?そうなの?直接電話くれればいいのに…」
「早く顔出しに行けって言ってたよ!」

無邪気な顔を装って遮る。どこに?と訊ねると、そこまでは聞いていないと言う。新一本人なのにどうしてそんなに回りくどいことを言うのだろう。何か不都合があるのだろうか、と考えたところで閃いた。そろそろいい加減に沖矢さんへ挨拶に行けってことか。
安室さんと赤井さんの相性が最悪だというのはぼんやりと記憶にある。安室さんの前で沖矢さんの話題を避けたいのだろう。

「伝言ありがとう。近々顔出しに行ってくるよ」
「思い当たるところがあるんですか?」

今度はコナンくんと私の間を遮るように安室さんが前に出る。コナンくんが恨めしそうに彼を見上げている。対して安室さんは余裕の表情だ。しかしここで毛利さんが助け船を出してくれる。

「年頃の女性のプライベートにあんま首突っ込むなよ、依頼でもねえんだから」

しっしと安室さんと共になぜかコナンくんも彼に追い払われた。毛利さんはわたしが養子だということも、その経緯もなにもかもご存じなので、気を遣ってくれたのだろう。失礼しました、と安室さんはおとなしく引き下がり、そのままポアロのカウンターの奥へ消えて行った。
その後毛利さんから名刺を頂戴し、困ったことがあれば連絡しても良いとお許しを頂戴した。素直に助かるのでお礼を伝え、お会計に向かう。レジでは安室さんがおつりとレシートと共に名刺をくれた。僕も探偵なので、と優しく微笑まれてしまった。毛利さんも安室さんも良い人だ。弟を含め、探偵に悪い人は居ない。未だに無邪気な小学生のお面を張り付けているコナンくんにもう一度手を振って、私はポアロを後にした。

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