memo

  更新や拍手お返事

▼2019/06/13:天地戦争長編・SS

お待たせいたしました。追記でお礼SSです。シャルティエ参戦おめでとうの気持ちも込めて。
---------------------------------------------------
 少女が地上軍基地に来てすぐのこと。
 稀に見る吹雪の朝だった。いつもはうっすらとでも見えるはずの通り道も、背の低いものは塗りつぶされてしまっていた。
 だから、雪のないあたたかな場所で育った彼女が道を見失ってしまうのも仕方のないことだった。ただこの状況はそんな言葉で片付けられるほど良いものではなかった。


「うわっ!?びっくりした…こんなところで何をしてるんですか?」


 座り込んで膝を抱える少女に降りかかってきたのは、先日聞いた覚えのある声だった。
 確か――シャルティエ少佐。
 彼は眉をしかめて少女を見ていた。


「そんな風に座ってて冷たくないんですか?」
「………動けなくて」
「え?ああ…、深みにはまり込んじゃったんですね」
「そちらから引っ張って頂けませんか。動くほど沈んでいくのです」
「え?僕が?…いや、別に嫌だとかじゃなくって。ただ人手を集めてきた方がいいんじゃないかなって」
「お任せします」
「任せないでほしいな…」


 ブツブツと何かを呟きながらも、彼は手を差し出してきた。
 自分よりも大きな手のひらをしっかり握って、そして――


「えっ!?うわああああ!」
「…!」
「な、なんできみが引っ張るの!?」
「す、すみません…まさか倒れてくるとは思わず」
「ああもう!ディムロスに呼ばれているっていうのに…どうしていつもこうなんだろう…っていや、そんなあなたのことを責めているわけじゃないんですよ!?ただちょっと運が悪かったなとかやっぱり見栄張らないで人を呼んでくればよかったなとか思ってただけで」
「ひとまず私の上からどいていただけませんか」
「わわっそうですよね!ごめんなさい!」


 と、少女の上で頭を抱えていたシャルティエは、慌ててそこから飛び退いた。
 …退いたと思ったのだが、そこは深い雪の上。余計に彼の足を沈ませてしまったのだ。
 必然、少女 は押し倒されたようになってしまう。
 今度は肩まで冷たさを感じながらシャルティエを見上げて、その向こう側に誰かがやってくるのに気づいた。


「…シャルティエ、来るのが遅いと思ったらそんなところで何をしている?」
「ああああ違うんです!これは不可抗力で!決してやましい気持ちがあったわけでは」
「シャルティエ殿、そんなに押されては余計に雪に沈んでしまうのですが…」
「待って!いや、あの…ディムロス!助けてください!!」


 すっかり顔を赤くして慌てるシャルティエに、ディムロスが深々とため息を吐く。
 少女は良くならない事態にぼんやりと空を見ながら、自身もまたハロルドに遅刻を責められるのだろうなと考えていた。
 余談だが、ディムロスはあんなに素直にシャルティエに助けを求められたのは後にも先にもこの時だけだった、とのちに語ったという。

←前へ | 次へ→
Top