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  更新や拍手お返事

▼2019/09/23:TOD長編・SS

追記でお礼SSです。TOD幼少期編05の後の話。
天地戦争編やTOD長編を最後まで読んでいただくとヒロインの言葉の意味がわかるかもしれません…
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 エミリオがまだその小さな手に、買ったばかりのプリンの箱を大切に抱えて持って帰ってきた後のことだ。
 邸に着いてすぐ、食堂には紅茶が二つ用意された。
 砂糖をひとつだけ(ちょっと背伸びした)とミルクをカップに入れてかき混ぜていると、一度厨房へ預けられていったプリンがちょこんとクリームを乗っけられてテーブルへ運ばれてきた。
 より食欲をそそられる見た目になったそれを、め目を輝かせて一口ずつ、一口ずつ味わいながら咀嚼する。ちょっとかための、でもほろ苦いカラメルと絡んで口の中でとろけるプリン。
 その美味しさに夢中になっていて気付くのが遅れてしまったが、目の前に座っていた姉はエミリオのことをずっと見ていたようだった。


「あの…」
「そんなに好きなの?」
「え?」
「プリンが」
『そりゃあもう、坊っちゃんの大好物なんですよ』
「っ、シャル!」


 慌ててシャルティエを制止して、けれどこの姉には声が聞こえなかったのだと胸をなでおろす。
 そういえば前に食堂で、嫌々ながら食事をする姿を見られていたのだった。その時と比べたら喜んで食べていたものだから、気になったのだろう。
 まさか質問をされるとは思わなかったためうろたえてしまったが(おしゃべりのシャルのせいともいう)、なんとかコクコクと首を縦に振った。
 自分から聞いたにも関わらず、彼女はふうん、と感慨なさげに手元に目線を戻す。


「あの…もしかして」
「?」
「プリン、嫌いでしたか」


 あまりに淡々と食べるものだから、エミリオに付き合ってくれただけで本当は嫌いだったかもしれない、そんな不安を覚える。
 彼女は困ったように眉を寄せて、いいえと答えた。


「嫌いではない…特に食べられないものなんてないもの」
「えっと、じゃあ好きなものは?」
「好きな……」


 あたりに視線をさ迷わせて、遠い目をした彼女が呟く。


「――ビ、スケット…」
「ビスケット?」


 オベロン社総帥の娘にしてはあまりに素朴な名前が出てきて、一瞬聞き間違えかなと思った。同じ年頃のイレーヌなどは、いつもゼリーやケーキやマカロン…そんなものの話をするのに。


「そう…ずっと昔、一度だけ食べた」
『へえ、なんだか意外ですね』
「そんなに美味しいものだったんですか?」


 顔を伏せて大切な思い出のように言った彼女に、興味を抱いて再び質問を投げかける。
 途端、ゆっくりと小さなプリンのかけらを運んでいたスプーンを持つ手が止まった。


「――覚えて、いないの」


 語尾がわずかに震えたような、寂しそうな声。
 なんだかエミリオまで悲しくなってしまって、まじまじと彼女を見つめてしまう。それ以上何も訊けない。
 誤魔化すかのように彼女の手がティーカップへと差し伸べられ、口許を隠すように持ち上げた。何もこれ以上訊くな、と言われているような気がした。
 だからかける声など見つけられるわけもなく、エミリオは黙って残りのプリンを口に運ぶ。
 カラメルの残っていないそれは、ひどくぼんやりとした味がしたような気がした。

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