世界がもう違ったように見える

奴は悠長にヴァースをうろついていたらしい。出会い頭にばっちりと目が合った。
ちょうど青海から打ち上がってきた箱を持て余していた私と、青海からの不法入国者だ。はたから見ても、運命めいた出会いであるのではないだろうか。
男は私を不審に思うそぶりもなく、「あ、どうもこんにちは、おれはエースってんだ。よろしく」と帽子を取りお辞儀をしてみせた。それから何食わぬ顔をしてこちらに歩み寄ってくる。「あんたも探索してるのか? それ、何持ってんだ?」男が興味津々に指差すものは、私の持つ箱。
本来であれば、不法入国の罪を申し立てて退屈凌ぎのゲームに興じるところだ。しかし、いまの私はそれよりも手元のこの箱の中身の用途について疑問に思っている。ちょうどよかった。この男に箱の中身を質してから罪を裁くのでも遅くはない。

「私は神である。ちょうどこの箱の中身が気になっていたところだ」
「は?……神?……へェー、神様なんていんのか」男はまじまじとして私を見やる。「ふぅん。そりゃァ驚いたな」

男はそう言うが、さして驚いているようには見えない。それどころか信じてすらいないような口振りだった。それでも、「世界は広いんだな」と口元に弧を描かせて微笑みをみせた。信じてもいないが、否定もしていないといったところだろうか。扱いに困る反応だった。

「これは青海から来たものだ。中身がなにかお前にわかるか?」
「青海?」
「お前たちが来た青い海のことだ」
「この空島にはないものなのか? なんだろうな」

男が言いながら箱を開き、その中身を見た途端、その眉間にシワがよった。次いで、あーとかうーとか唸りながら徐々に顔を赤くさせていく。

「なんだ? これは何なのだ」
「なにってこれ……」

男は帽子を目深に被ってからゴニョゴニョと答えた。

「はっきり答えろ」
「だ、から! これは、バイブとか……そういう、おもちゃだよ……」

堪え兼ねるかのように威勢よく発せられた声は、下がる目線に呼応して尻すぼんでいく。何をそんなに赤くなって恥じることがあるのか、私には皆目見当もつかなかった。
バイブとは?おもちゃとは?と、何度も細かく聞き質して、ようやくこれらは性行為の際に使用するものであることを知り得た。
なるほど、似たようなものはこの島にもあるが、素材や種類が新鮮だった。

「ご丁寧に海楼石の手錠まである」

おもちゃの類を見慣れたのか、言い切って開き直ったのか、どちらなのか定かではないが、男は自ら箱の中を物色していた。

「それはなんだ?」
「どうもこうも、形から大体の想像は付くだろ? ここには手錠もないのか?」

男は訝しげに私を見上げて言う。
私は、“海楼石”が持つ効力を疑問に感じて訊いたのであり、手錠について訊いたわけではなかった。そのまま黙っていると、男は呆れたように息をひとつ吐き出してから話し出した。

「これは海楼石って鉱物で出来てて、悪魔の実の能力を封じるんだ」突如、そう言う男の手がふっと炎へと変化した。「これが悪魔の実の能力」
「お前、能力者だったか」
「悪魔の実のことは知ってんだな」
「私も能力者だ」
「へェー、そりゃ奇遇だな。で、これをはめると……」男は炎と化している自身の腕に手錠をかけた。「ほら、炎になれねェ」

瞬間、炎の中から男の手が現れた。
そんなもの、悪魔の実の能力を操れる者であればやって見せられるものだ。種も仕掛けもわかる。この石の力で能力が解けたとは信じがたかった。
半信半疑。私は疑いながら男の腕にぶら下がるもう一方の輪を手に持った。いつもの通りに能力を使おうと試みるも、使えない。それどころか、水に浸かったときのように体から力が抜ける感覚があった。

「これは興味深い……」

嘘でもなんでもなかったことに思わず感動した。青海にはなんて面白いものがあるのだ。少々、心躍る気分だった。

「他にはどんなものがあるのだ?」
「他は普通に……おもちゃだな……あ、これは多分、男の尻に入れるもんだ。うちのクルーが読んでた雑誌で見たことある」

男が取り出したのは、波打った形をした器具だった。
デカかったり、イボが付いていたり歪だったり、グロテスクな色と形状をしたものが多い中で、それは白色で余計な装飾も付いていないし、いたってシンプルだ。

「それを男の尻に入れたらどうなるのだ?」
「さぁ……?」男は首を傾げた。「なんだったかな……」
「使ってみせろ」
「は? 本気で言ってんのか? どんだけ興味あるんだよ」
「青海のものは新鮮なのだ。ただの退屈しのぎだ、暇が潰せたらお前たちの不法入国の罪を見逃してやってもいい」
「不法入国? そんなことしたのかおれは」
「しただろう。 この島に入るとき、お前たちは必要な金を支払わなかった」
「あぁ……そういや払えって言われたっけな。そりゃ、すまなかった」

男は再度頭を下げた。

「いまさら謝罪など不要だ。それより私の問いに答えろ」

「興味津々だな」男は難しい顔をして手にしているそれを眺める。「あ、お前が使ってみればいいんじゃねェか?」

男は閃き顔だった。名案だと男は顔で語っているが、仮にも神である私が何故そのようなことをしなければならないのか、名案どころか無礼が過ぎる提案だった。

「私はお前にどうなるかを聞いているのだ。手っ取り早くお前が試して、答えろ」私は男の腕を指差しして続ける。「その手錠をはめたときのようにな」

男は自分の腕にぶら下がる手錠を見やり、「……乗りかかった船ってやつか」と重々しく口を開く。

「よし、わかった。どうせ何もなりやしないだろうし、試してやる。その代わり、不法入国? だっけか?それは見逃してくれ。うちにはあまり金がないんだ」
「……いいだろう。せいぜい楽しませてみろ」



それ程おもしろいものは見られないだろうから期待はするな。
そう言い残して男が木の陰に消えていってから十数分。
宣言どおり、男は大したことのなさそうな様子で木の幹から顔を出した。なんの変化も見られない。拍子抜けである。

「すんなり入ったし、やっぱり大したことなかった」
「どうやらそのようだな。結局それはなんなのだ」
「一応、まだ入れてんだけどな……ちょっと違和感あるだけで何ともないな」
「動きを与えてもか?」
「あぁ、全然」男は飄々とした様子だ。「なんの意味があるんだろうな、これには」
「使い方が違うんじゃあないか? 他のものと掛け合わせて使うとか」
「そんなはずねェと思うけど……どうだかな」

いま一度箱の中を見直すべく、地面に膝を付いている男の前まで移動した。目の前にしゃがみ込んで箱を置くと、男は四つん這いになってその中を漁り始めた。

「それっぽいのなんかねェけど……ッ!? あッ!?」

突如、男が声を上げて手を止めた。息を詰まらせながら地面に上体を落としていく。

「? どうした」
「んっ……ふッ、なんっだ、これ」

男は、額を地面に付けて尻だけを突き出した格好になった。羽織っていたシャツが捲れ、細い腰から背中にかけて曝け出されている。一応ズボンは履き直されていたが、ベルトは外され緩んだままのズボンの隙間から尻の谷間が見えた。

「ぅくっ!……ぅんッ」

一定の感覚で腰がしなやかにビクつくたびに苦しげな声が上がっていた。

「おい、何が起こっているんだ?」尻の谷間に指を差し入れてズボンを下ろす。「見せてみろ」

半分ほどズボンを下ろすと、男は上体を起こして座り込んだ。
変わらず息は切れているし、体をビクついている。ほんの少し前まで涼しげだった顔も、今は汗ばんで真っ赤になっていた。額には泥が付けているが、それを拭う余裕もないようだった。
男は自らズボンを脱ぎ捨てると、膝を立てそこがどうなっているのか見せつけてきた。

「あ……、おれ、なんでっこんなになってッ……!」

男は勃ち上がって透明な汁を垂らしている性器を隠すように覆った。
そこを覆っても、白いおもちゃを咥え込んでいる後孔は丸見えだ。どうやら腸内が収縮を行うと、おもちゃの先端によって中が刺激され快楽を得ているようだった。男が体を痙攣させるたびに後孔はおもちゃを奥まで飲み込むように動く。

「ヤハハ! これはいいな、おもしろい!」
「やっ、やだってッ! ひッぁ……、ッとめ、とめて、て、っあ!ァあっ!」
「止めるもなにも、お前が動かしてるんじゃあないか?」
「っんなことッ、して、なッ、はッ、あッ!ぁああ!」

もう自分では後孔のヒクつきを止めることができないのだろう。どうしようもできない快楽に、男はすがるような声を出す。

「あ、は……、あッ、っくぅ、ぅあ、あぁ……ゃ、で、でるっ」

男は立てていた膝を下ろして地面にべたりと付けると、中心を隠すように背中を丸めた。

「出したければ素直に出せばよかろう」
「ぅ、ん、っふ…… んッ、」

声を抑えて静かになるが、代わりにクチュクチュと水音が聴こえてきた。もしかしなくても自分でシゴいているらしい。

「っ! ぅんんッ!ッ、あ! ぁああッ!」

膝に頬杖をついて待っていると、男は一層噛み殺した喘ぎ声を上げて体を跳ねさせた。達したのだとわかったと同時、男は仰け反って悲鳴に似た喘ぎ声を上げた。

「あっ、あ! っく、ァあ!」

男は背中を仰け反らしたまま痙攣が止まらなかった。達した際の締め付けにより、おもちゃに中を強く押し上げられるのだろう。

「ぁ、ま、て、まっ……ゃっ、……っ!」

男は何度も体を跳ねさせたのち、握られた性器から溢れるようにまた精液を吐き出した。

「ひ…、っ、い…はッ! は、ァ……」

しばらく経ったあと、男は徐々に背中を丸めていった。まだ痙攣は収まっていないが、動きが小さくなっている様子から、最大の快楽はやり過ごしたようだ。

「っう……フっ!……も、ゃ……っあ、あ、またッ、」

本当に刺激がやまないのだろう。完全に終わることのない快楽の渦にはまっている男の細い腰は、また動きが大きくなっていく。

「……手伝ってやろう、こっちに見せろ」

言うと、男は顔を上げた。涙が滲む真っ赤な目が私を見る。すがるようなその眼差しは助けを求めていた。
男は素直に頷き、膝を立たせて開脚をしていく。その間も止まない快楽を受け続けている体は、思うように動かないのか酷く動作が遅い。
男は脚を開くだけにとどまらず、膝裏に手を入れて大きく開いた。しかし残念なことに、そうした頃にはもう手伝ってやる気は失せていた。

「っ!? な、ぁッ、あ、ッんっあ! ァああっ!」

手伝ってやる代わりに、曝け出されている太ももに雷を走らせてやった。瞬間、男の体がビクリと大きく跳ね上がった。
何が起こったのか理解できていないだろうが、男の性器は受けた刺激によって素直に欲を吐き出していた。

「ひ、ひっぐ、ぅ、ふっ、ッ、な、なんでっ」

そして男は、再び襲ってくる強い刺激に耐えるように膝を擦り合わせるが、とうにそんな仕草でやり過ごせる刺激など超えているはずである。
思ったとおり、男が膝を擦り合わせたのはほんの一瞬だけだった。両手を地面に付くと、ぎゅっと雑草を握り込んでいく。
首をもたげる見せつけられる項に再度雷を走らせれば、大きく嬌声を上げて仰け反った。


「ンんっ!あっ!ァああ!」

そうして露わになった白い胸もと。そこにある赤い飾りにまた雷を走らせる。

「いっ!ッんン!」

男は中心から白濁液を吐き出した。勢いはあまりないが、ガクガクと全身を跳ねさせるものだから、吐き出された白濁液は、はしたなくポタポタと地面に飛び散る。

「ぅ、くっ!ふッ、ぅあ!」

また達するたびに後孔を締め付け、そのたびに入れ込んでいるおもちゃに中を責め立てられる。達しても達しても終わることのない責め苦に、男はいつしか涙をこぼしていた。

「ぅくっ、ぅ、も、むりッ、も、ぃきたくねッ、っぅ」

忙しない呼吸を繰り返して嬌声を上げていた男のそれが、しだいに吐息混じりでか細いものに変わっていく。

「あ、はぁ……、も、ゃ、ぁ、あぁッ、あー……っは、ぁ」

上向いて開けっぱなしになった口からは赤い舌が覗き、ダラダラと唾液がこぼれていた。薄く開かれた目はどこを見ているのか分からない。それでも、涙で濡れる目は光が反射していて輝きは失っていないように見えた。
しかしとして、そろそろ限界だろう。このまま気絶されるのも面倒であるため、入っているものを抜いてやろうと思った。
膝を立たせるようにすると、そのまま男は後ろに倒れ込んだ。白いおもちゃはほとんど全部飲み込まれていた。
おもちゃと後孔の間に無理やり指を入れ摘んでゆっくりと引き抜いていく。

「んんっ! ぅ、あ……ぁ、あぅ……」

男はしっかりとおもちゃを咥え込んでおり、引き抜かれるそれを離さまいとして後孔を締め付けていた。

「なんだ、抜いて欲しくないのか?」
「ぅ、っふ、ンん」男は頭を左右に小さく揺らす。「ぬ、いて……は、っあ」

半分ほど引き抜いたそれを再度奥まで入れようと力を込めると、男は下唇を噛んで首を振った。今度は大きな動作だ。左右に振り切って、朦朧としている脳がさらに揺れたのか、男は一瞬意識を飛ばしそうになっていた。
こうも反応が薄くなるとこちらもつまらない。私は嘆息していっきに引き抜いた。

「っんぅ!」

抜ける瞬間、男の体に一度だけ力がこもった。その後はダラリと力が抜け、か細い息を大きくゆっくりと繰り返すだけになった。
おもちゃを抜いた後孔は、いまだにパクパクと開閉を繰り返していた。おそらく男の意思は働いていないのだろうが、物欲しそうにしているようにしかみえない。
といっても、私には男を犯す趣味はないのである。私の興味はあくまでも青海からきたこのおもちゃだ。
視界の隅で男が動いた。見ればのろのろとしているが、起き上がろうとしている。

「限界ではなかったのか」
「ぐずッ、」

時間をかけて起き上がった男は、鼻をすすりながら羽織っているシャツで乱暴に涙を拭った。への字に引き結ばれた口はなにも語ろうとしない。
ただ、黙って泣き腫らして赤くなった双峰でじっと睨まれるばかりだ。その目でなにかを訴えているが、わざわざ私が汲んでやるわけもなかった。

「なんだ、はっきり言え。言っておくが、こうなったのはお前の責任だぞ?」
「おれが……浅はかだった……でも、人前で泣いたことなんかねェのに……! みっともねェ」

忌々しげに眉間にシワを寄せる姿は、私にというより自分自身を咎めている様子だった。

「だからなんだと言うのだ? だいたい、私は貴様らのような人間なんぞではなく、神だぞ」

立ち上がりながら言えば、男は目を丸くして私を追い見上げてきた。キョトンとして少しの間固まったかと思うと、自嘲するように鼻で笑う。それから、ポツリポツリと話し出した。

「おれは神なんざ信じちゃいねェし、そんな存在はくだらねェと思う。お前そうだと言うなら否定はしねェけど、ただ、おれには関係ねェって話だ。でも、そうだな、今日だけはおまえに神様ってやつでいてほしいな」
「ずいぶんと生意気な言い草じゃあないか」

男は口元だけで笑うと、手を伸ばしてくる。
「その箱を持っていなくなる前に、錠を外してくれ」

そういえばそうであったと、箱の中から鍵を探し出して地面に投げた。

「ありがとよ、神様。ちょっと、すっきりした気分だ」

男はそれを拾い上げ、自分で錠を外すや否や、全身を炎に包ませて一直線に飛び去っていった。
遠くになど行けてはいない。ほんの数メートル離れた先で、男は座り込んでいる。心(マン)綱(トラ)など使わずともわかる。男のいる方向だけ、赤い火花がチリチリと眩しいのだ。
背中を向けれども、目の中からその火花が消えない。辺りの木々に反射して眩しい。
瞬いてもこすってもそれはなくならない。どうしても赤い光はつきまとう。
気に入らない、目障りな光だった。
私は男の元へと一歩踏み出した。




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’18/5/4 超GLCにて無料配布したものの加筆修正です。
当日お手にとっていただき、ありがとうございました。







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