食わせ犬と未熟な炎

(スモーカーさんが立派に彼氏をしているけど、海軍と海賊という立場でありながらなぜここまでの仲になっているのかは謎。愛がある人なのかな。※明確に付き合ってはいない)



  ポッと炎が灯るように現れたエースは、ベッドで眠りにつくスモーカーの上に馬乗りになった。

「起きろよ」と揺すり、「起きてんだろ?」と頬をつねり「なァ、スモーカー?」と顔を覗き込む。それでもスモーカーは沈黙を続けたが、エースは構わずにバタバタとしながら欲求不満を訴え続けた。
狸寝入りを決め込むスモーカーは、睡眠を妨害された怒りよりも呆れが勝っていた。海賊がノコノコと軍人の元に出向き、グズっている子供のような言動を晒すなど信じられないほどにアホだ。このまま寝たフリをし続けていれば、いずれ赤ん坊のようにパタリと寝てしまうのではないかとも思える。
しかし、さすがのエースもそこまで単純ではない。これ以上の無視ができないように、スモーカーの鼻をきゅっと摘んだのだった。
呼吸を阻むうざったらしいその指先に、スモーカーはとうとう負けてしまった。呼吸を阻む手を叩き落とし、ついでに上に乗っているエースも払うように退かす。そうしてベッドヘッドにもたれ掛かるように座り直し、欲求不満のエースに向き合った。

据え膳食わぬは男の恥。とは言え、すぐに眠気が飛んで性欲が沸き立つほどの若さや元気は今のスモーカーにはない。ましてやひと回りも離れたクソガキに乗っかられピーチクされたところで我を忘れるほど飢えてもいなかった。

「やるっつっても……ここにはゴムすらねェんだが」

眠さと億劫さが前面に出ている口調でスモーカーは言った。
船や基地ならともかく、ここは物資補充のために立ち寄った島のホテルの一室だ。それなりに大きな島で、探索を兼ねて一人飲みに出向いた帰り道、船まで戻ることが億劫になったから部屋を借りたのだ。当然、それ目的で出かけていたわけでもないのでスキンも持っていない。

「そんなのいらねェよ」
「いらねェって……慣らしては来てんのか?ケツにローション仕込んでるとか」
「キレイにはしてきたぜ」

エースが得意げに言ってもスモーカーの表情は浮かないままだった。
そんなスモーカーに構うことなく、エースは彼の首に腕を絡める。熱い眼でスモーカーの視線を奪い、愛嬌たっぷりに笑った。
スモーカーは眉を潜める。やっている事こそはそれっぽくても、表情や細部がまだ未熟だと感じた。ちぐはぐで陳腐な幼い誘惑。だからこそ、絡む腕を無下に振り払えうことができない。
「なあ、しようぜ」と上機嫌に言ってからのキスを、スモーカーは拒むことなく受け入れた。チュッチュッと、軽い音を立てながら戯れのように落とされるそれにただ従順に応えてやった。
エースは次第に声を出して雰囲気を出しながらスモーカーの股座を弄り、まだひとつの反応もないスモーカーのものを取り出した。
まったく、何処ぞの娼婦のようなことをいったい何処で覚えてきたのか。ひっぺがして問い詰めてやろうかと思って、やめた。こいつが何処で誰と何をして遊んでいようが、遊び相手のうちのひとりである自分には関係のないことだと、目を瞑った。

整った指が竿の根本から先端に向かって優しく撫で滑っていく。数回指を行き来させてスモーカーの反応を楽しんだあと、握り込んでやわやわと扱いて刺激を続けた。徐々に勃ち上がっていくそれを見て、エースは口元に弧を描いた。

しばらく好きに遊ばせていたスモーカーは、ようやく主導権を奪いに出た。上機嫌な彼に白旗を挙げた瞬間だった。
スモーカーは手慣れた所作でエースの片膝の裏に腕を通して抱き抱え、そのまま身体を反転させてからベッドの上に下ろした。最小限の動作で上下の位置を入れ替えたスモーカーは、エースの、腰が細いがために余りすぎているオレンジ色のベルトを外していく。

「そうこなくちゃな」
「……」

スモーカーは何も答えない。ジロリと一瞥を寄越しただけで、すぐに視線を落としてエースのズボンを抜き取った。露わにした後孔を確認する。言っていた通りキレイにはしているようだが、ぴっちりと閉じていた。指の腹で押し触ってみれば、思いのほか柔らかい。なんとか少しの質量なら入りそうな感覚はする。遊んでいるのか遊んでいないのか、スモーカーには判断しかねる状態の穴だった。

「……抜きたいとかじゃなく、挿入られてェんだよな?」
「当たり前だろ? 抜くだけとかつまらねェこと言うなよ」

面倒くせェ。スモーカーは反射的に、されど心の中でだけ呟いた。
脳裏に浮かんでいるのはスキンとローション。それらがないことが初めからずっと引っ掛かっているのだ。濡らして慣らす分は時間をかけるか何か代用品を探せば問題ないが、スキンなしはあっちが良くてもこっちの気が引けた。自分が折れるか、買いに行くか。片手間にエースの入口をグリグリと弄りながらどうしたものかと頭を悩ませているが、なかなか答えが出ない。
そんなスモーカーの引っ掛かりにカケラも気付いていないエースは、「なァ」と間延びした声を掛ける。

「そんな擽ってェことばかりしてないで早くしろよ」

言うや否や、エースは空いているスモーカーの手を取り自分のものを握らせた。スモーカーの手を上から抑え無理やり扱かせながら、中途半端にしたままだったそこを脚で撫で弄る。

「チッ、お前なッ!」

あまりに節操のないやり口だった。瞬間的に考えていた労りを放り捨ててしまう。元々、自分のペースを乱されることは好きではないのだ。そっちがそうならこっちだって好きにやらしてもらう。
感情が高まった勢いのままエースの脚を開かせ、全てを曝け出させた秘部に舌を這わせた。

「っ! はァ?! っおい! そ、れッやめろ!」

 舐められた。そう理解した瞬間、エースは飛び跳ねるように抵抗を始めた。つい先程までの余裕ももうない。

「やめろだァ? そりゃまた何で……ヤリてェんだろうが」
「何でって、汚ねェだろ!」
「キレイにしたって言ってたじゃねェか」
「そっ、そういうことじゃねェ! とにかく、それは嫌だ」エースは犬を躾けるかのように人差し指を立てる。「やめろ」
「あれイヤこれもイヤ……じゃあ、どうしろってんだ」

やる気になった故の行為を全力で拒まれ、スモーカーはいよいよ溜息が出た。抱えていた脚を乱暴に投げ下ろす。

「そんなのいいから早く挿入れろよ」
「本気で言ってんのかお前。挿入るか」
「挿入るって、ちょっとは慣らしたし」
「だから……!」

確かに少しは自分で慣らしたのかも知れないが、濡れてもいない場所に突っ込めるわけがない。状況を全く理解できていないエースに、どんどん苛立ちが募っていく。同時に、自分とは違って気遣いのない男の影にも向かっ腹も立った。勝手なことをしやがってと思うその心は、獲物を横取りされたかのような野生的本能によるものが強い。
自分でもそれがわかっているスモーカーは、感情任せに青筋が浮かびそうになるのを目を瞑り深い息を吐き出すことで堪えた。
エースは仮にも一船の長だ。時々突拍子のない行動でクルーを振り回すことはあれど、基本的にはしっかり船長の務めを果たしている。考える力も危機察知能力もそれなりに備わっているのだ。少し考えれば、本来の用途ではない穴が勝手に濡れないことも、濡れていなければどうなるかもわかりそうなことだ。
にもかかわらず、わからないでいるのは初めから考えていないからだった。エースにとってのセックスは、まるで湯船に浸かっているときのように心地がいいだけの行為でしかない。それは全てスモーカーの気遣いによるものなのだが、エースはそれに気付けない。
スモーカーの考えと反して、彼としか経験がないエースは比べる相手がいないからだった。

スモーカーは気を落ち着かせるように深い呼吸を繰り返した。徐々に冷静さが戻ってくる。

「もういい。わかった」

平常に戻ったスモーカーは、エースを見据える。だったら、およそ他の男がやっていないであろうやり方で、少しばかり痛い目に遭わせてやる。おれはお前の言いなりになる気はない。

スモーカーは指を舐め濡らして入り口付近だけ解かし、自分のものを使えるようにしてと、手際良く進めていき挿入まで至った。といっても、入れたのは先端だけだ。
その後、スモーカーはそこだけを入れたまま、表情も変えずじっとエースを眺めていた。動き出す気配がまるでない。

「……早く奥まで……動けって」

 さすがのエースも彼の異変を感じ取った。どこか様子がおかしいなと思いながら、様子を窺うように口を開く。

「舐めんなだの、早く入れろだの動けだの……本当に注文の多い……動いてもいいが今度は止まれつっても止まってやらねェぞ」
「は……臨むところだ」

エースは生意気な口振りで言い返す。やっぱりいつものスモーカーだと考え直したエースは、安心して枕に頭を戻した。
まだかまだかと期待すればするほど沸く自己の欲求と興奮に茹だされ、エースは鼓動を早くしていく。その間、スモーカーは何もしていない。だというのに、エースの身体は焦らされることにすら感じてしまっている。

「なァって、寝ちまうだろ?」

熱っぽい吐息を零し、疼く身体を持て余しているエースは、早々に次を急かした。
恥ずかし気もなくひとりで盛り上がり煽ってくる彼に、スモーカーは呆れのため息が出た。そこまで言うのであれば、多少痛いめに合うのも承知のうえなのだろう。少し遭わないでいた間に、激しいのがお好みの身体になってしまったらしい。
身体を折り、むっとしている顔の近くで「てめェ……絶対だぞ」と念を押した。

「はァ?」
「絶対止まってやらねェからな」
「ッ!」

眉間に皺が寄った力強い目元と、骨に響くような低い声にエースの肌はゾクリと泡立った。

「いいんだな?」
「もちろん」なんでも受け止めてやる。とでも言うようにスモーカーの背中に手を回して抱き寄せる。「いいぜ?」

小生意気な笑みを浮かべて見せるも、エースは期待でいっぱいだった。ようやく望んだあの刺激を与えられる。太く熱く硬いもので中を開かれる感覚、奥をえぐられる衝撃。早く早くと急く感情に呼応して締まったままの蕾がヒクついた。
もっと奥まで飲み込みたいと訴えるその動きには、スモーカーも息を詰まらせる。
素直に期待を顔や身体に出して誘っていても、押し倒して自ら上に乗って来ずに大人しく待っているあたりまだまだウブな証拠で、スモーカーは余計に痛い目に遭わせてやりたくなった。
顔にかかっているエースの髪の毛を払い上げ、エースの唇に吸い付く。

「んっ、ふ…」

上擦る声を聞きながら、キュッと結ばれている唇を舐め開かせた。時々リップ音を鳴らしながら、意図を持ってなるべく丁寧にキスを施す。太く逞しい両腕の中にエースを閉じ込め、額に頬に耳に首筋に唇を押し当て、時折り歯を立てながら好きに愛でた。

「ふッ、ぅ……んッ」

かつてない程に優しく甘いキスの雨に溺れてしまわないように、エースはぎゅっとスモーカーにしがみ付いて耐える。
しかし、いくら待っても先端だけ入っているものが奥まで進んでくる気配がない。焦れたエースは拳を握ってスモーカーの背中を叩きつけた。

「っも、なんで…! ぅむッ、っンン〜〜ッ!」

開いた口をすかさず塞がれる。声にならない抗議と共に再び拳を打ち付けても、何も変わることはなかった。
キスの雨になんて、今まで降られた事がないエースの身体は、対処の仕方がわからずガチガチに強張るばかりだ。
しだいにキスを落とす度に怯えたような反応をみせる。エースが受け流せる容量を超え、溢れる愛情に溺れかけているような姿に先程までの生意気な表情の面影はない。
スモーカーは、自分がこいつの仮面を剥がしてやったのだと、男としての性が満たされたような気分になった。もっとしたい、もっとみたい。スモーカーのなかで、元々発散させる気のなかった性欲よりも、自分の力を誇示したい欲求のほうが遥かに大きく育っていく。

しかしながら、もうエースの限界だった。早く奥を突いて欲しいというよりも、これを続けられることの限界。どれだけ続けられても一向に慣れなど来ず。むしろ、嫌だ嫌だと降りかかる唇を拒み続けることで、体力を削り自らを追い込んでしまっていた。
スモーカーの腕の中でバタバタと暴れた。両腕を振り上げ見境いなくスモーカーの身体中を殴り付け始めたところで、ようやく雨が止んだた。

「ゔーー!! も、いい加減にっ、しつこい!」
「痛ってェな……」
「やめろって、言ってんだ!」
「止めないって言っただろうが」

「う……」スモーカーの返答にエースはハッとなって言葉を詰まらせた。「でも、こんなの聞いてねェ……」

エースは一変してしゅんとなってしょげ込んだ態度を見せる。でもと言い訳をしつつ、一度了承したことをあっさり覆してしまったことを反省していた。
スモーカーは、エースのこの悪どさのかけらもないこの素直な態度に弱かった。悪心のない者を一方的に傷付けるなんてことは、彼が背中にまで背負っているポリシーに反している。海賊はどこまでいっても海賊。憎むべき悪。頭ではわかっているが、まだ大人になりきれていない表情と、何色にでも変われそうな心を見るとクラリと揺らぐものがある。

「あー、はいはい……」

スモーカーは揺らぐ頭を抱えながら上体を起こす。
ようやくひと息付けたエースがグズグズと鼻を鳴らしながら滲んだ涙を拭っている隙に、スモーカーは中途半端に先端だけ入れていた男根も抜き取った。瞬間、エースの額に青筋が浮かぶ。

「はァ!? なんでッ……!」

やめろと言ったのは、焦らしてキスばかりしてくることについてだけで、行為自体をやめろと言ったわけではない。
だというのに、散々焦らされた挙句、勝手に終わられるこの始末。こんなにも惨めな話があるのか。
さっきはやめないと言ったのに。大体にして初めから乗り気じゃなかったし、そんなに自分とのエッチが嫌だったのか。そんなにしたくなかったのか。久しぶりにスモーカーと遭遇できたことに舞い上がっていた自分がバカみたいだ。
言いたいことや言うべきことがたくさんあっても、あまりにショックでどれも言葉にならなかった。瞬間的に沸いた怒りは悲しみと恥ずかしさに変わっていく。

「おれが悪かったよ……」
「待て待て、お前は……」

 枕を抱いて塞ぎ込もうとするエースを、スモーカーが枕を引っ張って止める。

「たいして慣らしてもねェし、十分に濡れてるわけでもねェのに動けるわけねェだろうが。ちょっとは考えろバカ」
「……そんなの、気にするほどのことじゃ……」
「他の男がどうだったか知らねェが、気にするに決まってんだろ。痛てェし切れたらどうすんだ」
「他……? よくわかんねェけど別に……構いやしねェよ……」
「よくねェよ。仮にお前はよくても、おれも痛てェんだよ」

溜息と一緒に「どこまで勝手なんだ」と悪態を吐かれ、エースは少しだけムッとしてしまった。

「そもそも、あんたが色々持ってないのが悪いんだろ……」
「あァ?!……あー、はいはい、おれが悪いおれが悪い。お前が突然来るのを見越して準備を怠ってたおれが悪かった」

悪いと言いながら、全く悪びれていない口振りだった。謝ることに納得がいっていない心の声は、「お前が来ることなんざおれが知るか。どれだけおれに甘える気だ」とボソボソと続けられたセリフに全て宿っていた。

「う……」

言われる通りだ。連絡もなく押し掛け、もうすでにベッドで休んでいるスモーカーに「しよう」と迫って、我がままを言って。と、自分勝手な行動をしていたことに気付いたエースは、枕を抱えて縮こまっていく。返す言葉がなかった。
おまけに身体を気遣われていたことを知って恥ずかしさが募ってくる。自分はスモーカーの気持ちなど考えてもなかったのに。
エースが押し黙っている少しの間で、スモーカーは着衣を整え終えていた。今はベッドの下に落ちていたブーツに足を通し、簡易的に靴紐を結んでいる。

「おれが……悪かった、あんたのことを考えもせず……」
「……別に、すること自体が嫌だったわけじゃあねェ……、だから、なんだ……安心しろ」

あまり慰めの言葉を言うのは得意ではないが、落ち込み反省しているらしい様子のエースには、なにかフォローをしてやらなければ。スモーカーはそんな気持ちになって言葉を選びながら慰めるが、彼は彼で意地悪をした。それで既にチャラになっていることについては触れなかった。

「わかってる」エースは頷き、顔をあげた。「どこ行くんだよ」

どこに何をしに行くのか、検討が付いていても聞かずにはいられなかった。

「買ってくるからちょっと待ってろ」

ぽんぽんと、あやすようにエースの膝小僧を撫で、彼は部屋を出て行った。
ドアが閉まり切るのを待ってから、エースは長い溜息を吐き出す。
ひとりで居たたまれない気持ちになりながら、ぐるぐると自分の失態を思い返しているうちに、そもそも、スモーカーに買いに行かせるべきものなのかと思えてきた。
自分が押しかけてしたいと誘ったのに何も用意してきていないなど、言われた通り自分勝手だ。身体はキレイにして来たとはいえ、道具については頭が回っていなかった。スモーカーはこういった部分についても、我がままで甘えていると言ったのだ。
 思い返せば、今までだってそうだったことに気が付いた。行為に至る全てをスモーカーに任せていた。おんぶに抱っこだった。

「あーーー……」

エースは呻き声を上げながら髪を掻き毟った。いっぱい自分を恥じて後悔をして。やがて気合いを入れ直し、勢いよく上げた顔はいつもどおりの平然としたものに戻っていた。
素早く衣服を着直して窓に駆け寄る。

「あっ!? 窓が空いてたのか……」

これでは声がダダ漏れだ。エースは口元に手をやってたじろいた。
それでも、エースが足を止めたのはほん一瞬で。窓枠に足をかけると勢い良く飛び出した。向かいのバルコニーに飛び移るかのような跳躍だった。
宙に浮かぶしなやかな体躯。やがてその姿は炎と成り、悠々と歩むスモーカーの横に降り立った。







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