さようなら、わりと平穏だった日々

窓からの突然の来訪者に3人で顔を見合わせたのも束の間。サボとそっくりな顔をした男は、「アンタ可愛いな?」と、エースの髪に触れながら言った。

瞬間的にサボが突っかかって行ったし、エースもすぐにその手を払い距離を取った。 しかし、次の瞬間には、角を生やしたサボとそっくりな顔をしているその男の足元に2人は拘束されて転がっていた。
抵抗をする暇などなかった。男がごちゃごちゃと聞き慣れない言葉を発したかと思えば、植物のツタのような触手が宙に出現したのだ。それらは角を生やした男の指先に合わせて動き、状況を飲み込めていない2人の全身に纏わり付いた。
ぐるぐると体中に巻き付くそれは、引きちぎろうとすればするほど強く締め付けてくる。エースとサボがどれだけもがこうと、逃げ出すことはできなかった。
手が出せなくなると、反動で口が動く。お前はなんだ?何者なのだと質す2人を前に、そいつは余裕綽々な態度を崩さないまま考えるような素振りを見せた。

「そうだな……悪魔?」
「……見りゃわかる。そりゃそうだろうよ」
「目的とかなんとか、もう少し何かあるだろ」

やがて考え出されたであろう回答は疑問符が添えられた一言。エースは頷き、サボは忌々しげに突っ込みを入れた。
呆れたように肩をすくめる自称悪魔は「ない」と言う。

「偶然、散歩中に通りかかったら可愛い子がいたからお邪魔してみた。それだけだ」

悪魔は言いながらエースを肩に担いだ。それから、もう一本出現させたツタの先端部をサボに絡ませ、引きずるようにしてベッドルームまで移動した。


鈍い音と呻めき声。壁際に置いているベッドの上にサボが無造作に投げられた。エースがベッドへと降ろされながら見たサボは、体制を整えるように壁に背中を付けて座り直すところだった。
サボはこの部屋に移ったことの意味に察しがついていた。激昂するサボは、今にも悪魔に向かって飛び掛かって行きそうな様子をあらわにする。しかし、サボに絡んだツタが壁に張り付き、そんなサボの動きを制止させた。引けば引き返され、数回ツタとの引き合いを繰り返したうちに、どうやっても動けないことを悟ったサボは忌々しげに舌を打った。
しかしとして、縛り付けられ動きを封じられたくらいでサボの怒りが収まるわけもない。悪魔を睨み付けているその眼力は、ただの人間であれば退かせることくらいはできそうだった。
対峙する悪魔は、興奮して荒くなっているサボの鼻息を軽くあしらうように笑う。
それが開始の合図だった。

「うっ」

悪魔に後ろ髪を掴まれたエースは、頭を勢いよくシーツに押し付けられた。膝立ちになっていたため、尻だけを高く上げた体制になる。押さえ付けてくる力に抵抗を見せれば、後で組まされている腕の拘束がギリギリと締め上がった。
エースは痛みに眉を寄せ、苦しげに息を吐き出した。

「うぅ……」
「エースっ!てっめェ……エースに何しようとしてんだっ!」
「お前らそういう仲なんだろ?だったら見てわかんだろ?」

唸り威嚇するような声を出すサボに対し、悪魔は軽やかに言ってのける。言い方や高低差があれども、エースの耳に入る音はどちらもサボの声そのものだ。頭上から降ってくる二つの声を、エースはつくづくよく似ていると思った。
痛みに耐えながらでは、そんなことをぼんやりと考えることが精一杯だった。エースは自分のズボンのゴムに指を掛ける悪魔にまで気が回らない。

「ちょっと気持ちいいことすんだよ」
「っ!」

言いながら下着と一緒にズボンを引き下げられ、エースは秘部が晒されたことに顔を赤らめている暇もない。悪魔は晒しだされた後孔を指でなぞり、細いツタをそこに這わした。
悪魔の意のままに動くツタの先端からは分泌液が流れていた。きゅっと締まっている後孔の上を数回行き来し、分泌液を塗りたくるようにしたツタは、やがて中へと侵入していった。

「ッん、ぅ…」

エースは自律して動くそれはツタであるとすぐに思い至った。
指よりも細いツタでは、入口をこじ開けられ擦られることによる刺激は生まれない。しかし、好きにうねり動き内壁を引っ掻き回される刺激にエースは快楽を感じていた。
しだいに頭がぼうっとして痺れるような感覚がしてくる。それは主にツタの分泌液に含まれる催淫効果によるものだった。

「ひッぅ…ン、ふっ」
「エースっ……!」
「んっ、あ…あぁ…ッぅ、ぅは、ぁ」

エースはサボの声にびくりと肩を震わせた。
得体の知れないものに弄られ、感じている自分をサボが見ている。頭を押さえ付ける手はもうなかったが、顔を上げる気にはなれなかった。恥ずかしさと悔しさとでサボの顔を見られる気がしない。声を抑えようにも、中からツタが出ていくことはないし、それどころか中に侵入している本数が増えている状況に、エースはじっとして耐える。ツタの分泌液が体に回り、ぼうっとなった頭と気怠さを感じる体では、それ以外にできることがなかった。

「ひ…ぅ、ンっ!はっぁ、あ」

ツタは数本が歪に絡まり合い、でこぼことした表面を作っていた。それが出入りしてひだを刺激するたびに、言いようのない感覚が押し寄せた。エースはこれ以上の醜態を晒してしまわないように唇を噛むが、ほとんど意味がない。代わりに鼻から抜け出る声が、エースがどれだけ感じているかを物語っていた。
ツタの分泌液により水気を帯びたそこは、エースの意思に反してぐちゅぐちゅと卑猥な音が響かせた。否応なく出るそれによってエースの羞恥心が一層煽られる。
ぎゅっと目を閉じたところで、耳を塞ぐことは出来ず、目元にじんわりと涙が滲んでいくのがわかった。

「しかし、たったこれだけの刺激でお尻振って……随分淫乱だな。気持ちいいか?」
「んぅ…ッ」
 
悪魔はエースの髪に指を差し入れ、指先で軽く撫でた。頭皮を這う指にさえ、エースはゾクゾクとして体の熱を高ぶらせていく。
悪魔は気を紛らせるようにシーツに頭を擦り付けるエースの上体を上げさせ、膝立ちの格好にさせた。
なす術もなく、ただただエースの乱れようを眺めることしかできないサボがそこにいた。
サボは、のぼせたように顔を赤く上気させているエースの顔を見て、生唾を飲み込もうとしている自分を叱咤した。そうではないと、呑まれるなと、下唇を噛んでエースの後ろにいる悪魔を睨め付ける。

「そんな怖い顔するなよ。一緒に楽しまねェか?」
「ふざけんな、死にてェのかテメェ」
「こっちはその気っぽいけどな」

言われて、サボはエースを視界の中に戻す。ぼんやりとして唇を薄く開いているエースは、悪魔の言うとおりサボを物欲しそうにしていた。サボは絆されたように眉を寄せるが、それも一瞬だけですぐに悪魔だけを視界に映すようにする。

「ぅ、ふっ…ッ!ぁ、ンぅ」

悪魔とサボがそんなやり取りをしている間にも、エースはツタによる愛撫を受けていた。下から這い上がってくるツタの動きに、エースは上に伸びるようにして背中を仰け反らせた。その背中を悪魔が支えながら前に押す。サボと顔を付き合わせるような体制となった。
涙で滲むエースの視界のすぐ向こうに、ギンとして背後を睨むサボがいた。息がかかる程の距離だ。額に青筋を浮かべ鼻息を荒くしているサボをエースが呼ぶ。エースが思っていた以上に弱々しい声が出た。

「っ……エース、」

か細いエースの声に、呼応するようにサボもエースを見て呼んだ。険しい顔をしたままであるが、その声音には可能な限り、悪魔に対する怒気が隠されていた。エースを愛おしく思う反面で、怒りを落ち着かせることができない。頭ではエースを心配しているが、心の中には怒りしかない。そんなサボにとって、せめて声には不要な感情が乗らないようにすることが、今エースにしてやれる精一杯だった。

「あっ…、サッボ!サボ…」

そんなサボの思いやりを漠然と感じ取ったエースは、より一層サボを恋しく思う。
悪魔は抵抗が少なくなったエースを縛り上げていたツタから解放してやった。
エースは解き放たれた両手でサボの頬を包むと、欲に任せてサボの唇に吸い付く。サボは驚き一瞬だけたじろぐように顔を引くが、すぐにエースからのキスに応じた。目を閉じ、エースとのキスに集中していくと、心内に渦巻く感情は一先ず置いておくことができた。

「ンぅ、…んっふぅッ…」
「…っ、ん」

2人はお互いに深く吸い付き、何度も舌を絡ませる。今までにないほど濃厚なキスに2人は没頭した。もう悪魔の存在も気にならないし、エースは中に入り込んでいるツタも気にならない。2人の耳に入るのはお互いの息づかいと唾液が絡まり合う音だけ、感じるのはお互いの体温と甘い感覚だけだった。
ただ、そんな中でもサボだけは自分を縛り付けるツタを忌まわしく思っていた。本当は自分でエースを引き寄せてもっと深いキスを交わしたい。腕を動かせばギリりと音を立てるツタに、サボはちくしょうと脳内で唱える。
そんな不自由な状態で、動けるだけ体を前のめりにしてさらにエースを求めた。
普段、あまりしつこくし過ぎると機嫌を損ねるエースだが、今は催淫効果によって自制が利かなくなっている。そのためにサボへの好きが余すことなく溢れている状態であるエースは、嫌がることなくサボからの噛み付くようなキスにに応えた。

お互いを求めるだけのキスを交わす2人に、悪魔は疎外感を味わっていた。自分がやったこととは言え、こんなにも熱く没頭されるのはあまりにおもしろくない。
まるで子供のようにあからさまな不機嫌を顔に出した悪魔は、エースをサボから引き離した。

悪魔はエースを手前に引き寄せると、仰向けに転がした。サボが何かを言う前に、視線で制して黙らせる。その目はサボの熱くなった目とは正反対に冷たく鋭いものだった。サボが一瞬だけ怯みを見せている間に、悪魔はツタでサボの口を何重にもして覆う。
サボが何も言えなくなったことを確認し、悪魔はエースの脚を割り開いた。それから、すでにガチガチに固くなっている男根を取り出すと、ツタとエースの分泌液で艶めかしく濡れている後孔へと一気に挿入した。

「ンあああ!あっぁ!」

ツタと比べものにならない程の質量と熱を持った男根がいっきに奥まで入り込む。弱い部分を押し上げる固い亀頭の感覚にエースは軽く達してしまっていた。
エースは解放された両腕を振り上げ目元を隠しながら、体を仰け反らしてビクビクと腰を揺らす。揺れるたびにエースの肉壁は収縮し、悪魔の男根を締め付けた。
腕を目元に持っていくのは、達している顔を自分に見られないためなのか癖なのか、悪魔には判断できなかったが、無意識にも自身を締め付け口を開け拡げて感じいった声を溢すエースの様子に、悪魔は口角を上げた。

「あ、あ…ハぁ、あ…」
「挿れただけでイッちゃったか?そんなにこれが好きなんだ?」

悪魔は奥まで挿れたそれを緩い動作で揺する。
これと言われ、エースは自分の中で動く肉棒に意識を向けた。馴染んだそれは、紛れもなく恋人のサボと同じ形で同じ固さ、同じ熱を持っていた。

「ぁ…サボ……サボ」
「そう、あいつのと同じだろ?おれからしてみれば面白くねェけど、拒絶されることのほうがシュミじゃねェからな」
「ん、サボの……」
「好きなんだろ?」
「ぅン…さぼ、さ、んっン」

ツタの分泌液により、未だに頭がぼうっとしてのぼせているような感覚のエースは、うわ言のようにサボと繰り返した。
動かない肉棒に対して、エースは無意識に腰を揺らして自ら弱い部分に刺激を求める。
その頭上では、エースが想い感じているサボが、今にも切れてしまいそうな血管を額に作っていた。口を塞がれ声を出せないでいるが、何を言いたいのか、その様子と目が全てを語っている。

「よかったな、好きだってよ」

悪魔はサボの怒りや悔しさを見透かして笑った。それからエースへと視線を戻す。エースの脚の付け根に両手を添えると、ツタで探った弱い部分に鬼頭が当たるように狙いを定めてストロークを開始した。

「あぁッ!あっ、あー、っはー」

ゆっくりとして余裕たっぷりな悪魔の律動は、エースにとっては新鮮だった。激し過ぎないが気持ちのいいポイントは的確に付いている。その心地のいい快楽に、エースは体の力を抜いて浸った。薄く開かれた口からは、脱力し切った喘ぎ声が押し出された。

「ァ……は、ぁ…、さぼ…?」

それでも、少しばかり長く続くその動きにエースは疑問に思う。
サボにしては、随分と余裕があって落ち着いた動作だった。

「ん?……あぁ、物足りないって?」

悪魔はエースの両手首を掴み目元から外させると、開いている脚の間へと伸ばし下げさせた。
解放されたはずの腕は、今度は悪魔本人によって再び拘束される。目を閉じて快楽に浸っている姿は可愛いらしいが、ずっと顔を隠されてしまっていたらつまらなかった。
そうして悪魔は、緩く突いていた動きを一変させて強く突き上げた。

「ああッ!」

急な刺激に、エースは大きく喘いだ。無意識に上へとずり上がるようにして逃げを打つが、両腕を引かれているために逃げ動くことはできなかった。

「あっ、あ!っんはッ!ぁ、ぁア!」

弱い部分を的確に強く突き上げてくる悪魔の先端部に、エースは喉を仰け反らして喘いだ。
その先で恋人であるサボの姿が目に映る。サボに抱かれているはずであるのに、そのサボが離れた場所にいたのだ。

「ぇ…、ぅあッ…さ、ぼ…?ッぁ、あ!」

なんでと思うと同時にエースはもう1人、悪魔の存在を思い出した。
エースは自分を抱いている男に目を向ける。サボとよく似ているが、サボではない。エースは浸っていたぬるま湯が、突如として冷水に変わったかのような錯覚を起こした。熱を持ってとろけていた眼に輪郭が戻る。

「どうした?」

悪魔は前屈みになってエースに顔を近づけ覗き込んだ。律動は緩められないままだが、エースの両腕は放される。
近距離で見る悪魔は、外見の違いもさることながら纏っている雰囲気そのものが別人だった。サボにはない行為中の余裕。それによって伴う大人びた色気。サボではない。
鮮明になった視界が、今度は水気を帯びてじんわりと歪む。

「あぁー、ッ、は、あ…、や、ぁあ!」

エースは途端に悪魔の肩を押して拒み、暴れ始めた。

「っサボ…!」
「なんだよ、ちゃんと“サボ”だろ?」

悪魔は暴れるエースの手を取り、指を絡めて握り込んだ。
その手さえもサボと同じだった。よく見知っているサボの手の感覚に、エースはほっとして息を吐き出しかける。落ち着きを取り戻そうとしていた矢先、その手の向こうに見えるサボを見て涙が流れた。目元の傷、それを隠すように伸ばされた髪、存在感のある角。どれもが、エースが想い恋し愛しているサボと違う。
エースはそれを主張するように「ちがう」と首を振った。

「ちがっ!ッんあ!ふッん…、ッやっ嫌だっ!」

悪魔はエースの拒みようにムッとなった。さっきから、いや今でさえ感じて善がっているくせにと、苛々する。

「やめっ、やめろ!ぃやだ!」
「ちっ、わかったよ」

悪魔はダルそうに言うと、エースから男根を引き抜いた。
思いのほかすんなりと解放され、エースは拍子抜ける。きょとんとして悪魔を見上げれば、彼は「さっきも言っただろ?無理強いはシュミじゃねェんだ」と複雑そうな顔をして言った。
本人の言うとおりこの悪魔は、善がらせ泣かせるシュミはあれど、嫌がられ泣かれることは苦手だった。だからこそ、エースを見つけた時から、エースが1番好んでいる姿に探り化けて現れた。

悪魔はエースを一度抱え上げてからベッドの端に放ると、サボを縛り付けていたツタも解いた。
サボは悪魔の様子を伺い、どちらを優先するべきか迷いながらも、一先ずはエースの側に這い寄る。

「エースっ!」

大丈夫かと問いてくる声にエースが頷ずこうとした瞬間、悪魔が遮るように呪文のような台詞を発した。身構える2人の前に出現したのは、今度はツタではなくヒトだった。
2人の目は、突然に現れた第4の人物に釘付けとなる。そこにいたのは、まさにエースそのものだった。違いと言えば、黒い獣の耳と細く長い尻尾を生やしていることくらいだ。まるで、エースと黒猫を足して割ったような容姿をしている。

エースとそっくりな姿をしたそれは、金色の瞳をしていた。金色の中に丸く浮かぶ黒い瞳孔が真っ直ぐにエースを見てくるので、エースも見つめ返す。空いた口が塞がらず、ポカンとして目をしばたかせるエースに反して、そいつはゆっくりと瞬きをした。

「可愛いだろ?おれの世界にはこういう姿をした種族もいるんだ。せっかくだから、アンタに似せて創ってみた。おれのだ」

悪魔は後ろから黒猫をぎゅっとしながら、軽やかな調子で言ってのける。エースが冗談じゃねェと吐き捨てるよりも先に、「エース……?」とうわ言のように呟いたのはサボだった。
エースがハッとして見やったサボは、まるで心奪われたかのようにそれを凝視していた。

「いや……あれはおれじゃねェよ」
「え、エースだろ?」
「エースはおれだろ?」
「そうだけど、あの子もエースだ」
「サボ……」

サボは黒猫を指差しして言った。そして「……エースにベタベタしやがって」と苦虫を噛み潰したかのような顔をして悪魔を敵視する。
悪魔は眉根を寄せて心底軽蔑の色を顔に出していた。

「お前……他人のもんを取ろうとするなよ……見境いねェのか」
「うるせェ、なに棚上げしてんだ。てめェだけには言われたくねェんだよ……とっとと消えろ!」
「ぅあッ!」

悪魔とサボのやり取りの中、あっと声を上げたのは黒猫だった。
サボが悪魔に飛びかかるより先に、悪魔が黒猫の首筋に歯を立てたのだ。悪魔に造られた黒猫は、悪魔の思い通りになるようにできている。悪魔に対し従順であるし、全身の感度もすこぶる高い。首筋にじっとりと舌を這わされるそのほんの少しの刺激だけで黒猫の全身には力が篭り、カタカタと震え出していた。
力が抜けてへたり込もうとする黒猫を、悪魔が支え込んでそれを許さない。

「んッ、ふっ…ぅ、」

毛が逆立った耳をへたらせ、与えられる刺激に声を抑えて耐える黒猫の姿にサボは怯んだ。サボの弱点は良くも悪くもエースだった。普段から何かにつけてエースに弱いというのに、目の前にいる猫耳姿のエースの姿は反則だった。金色の輪が縁取る黒くまんまるとした目は、妖艶さと可愛いらしさを絶妙な比率で孕んでいる。その目に見られると、サボは文字通り心を奪われ動き出すことができない。
そんなサボを一瞥した悪魔は、エースに目を向ける。黒猫に舌を這わせながら、視線だけをエースに向けて見せ付けるようにした。
サボが黒猫から目を離せないのと同様に、エースも悪魔から目を離せなかった。
エースは黒猫が舐められている箇所がぞくりと疼いたような感覚がして首筋を抑え込んだ。

「っああ!あっ…やっ、あ!」

悪魔に後ろから挿入をされた瞬間、猫の様子が急変した。肌の赤みが増し、金色の瞳からはボロボロと涙を溢し始める。

「ンッん、っン、ん…っア!」

激しく揺さぶられるたびに、小さな牙がある口からはエースのものと同じ喘ぎ声がもれた。結合部から聞こえる肌がぶつかり合う音と卑猥な水音。いやと言うほど聞いてきたそれらは、エースの耳に入り込んできては身体中に回る。まるで熱と疼きを伝えるそれは毒のようだった。
目の前で自分がサボに抱かれている。そう思わずにはいられない。自然と息が上がっていくエースは、自分を抑え付け耐えるように自分を抱き締めた。

「ほら、これ、さっきまでアンタの中に入ってて、奥の気持ちいいとこ突いてたろ?」

悪魔はそんなエースから目を離さない。思い通りの反応を見せているエースに、悪魔はまさにアクマのような笑みを浮かべる。
悪魔は黒猫を横たわらせ片脚を担ぎ、結合部を見せつけるような体位に移行した。

「ナカ、締め付けて」
「ちがっ!んなこと…!」
「違わねェって」
「んッは、ぁア…っんん、あ!ぁあ、ぅ」

エースは悪魔の言葉を否定するが、被さるように掛かる悪魔の落ち着きはらった声と、自分の喘ぎ声に言葉を失う。耳を塞ぐように頭を抱え、首を左右に振るが、目を逸らすことはできなかった。

「こうやって緩く突いてたら、あんた同じように喘いでたじゃねェか」
「あ、ッんあ…ぁ、ひ…ァあー、ぁ、あ…」

悪魔は激しい律動から、先ほどエースにしていたような緩いストロークに動きを変える。黒猫は投げ出していた手でシーツを握り、悶えるように体をを捻った。
エースは先ほどまで中に入っていた悪魔の肉棒の感覚を思い出す。エースはの肉壁は無意識にうずいた。
緩く揺さぶられている黒猫を見て、まるで自分が挿入されているよな感覚に陥って腰が揺れる。エースの後孔は肉棒を鍛え込み奥まで誘うように中を締め上げていた。

「あ…ぁ…っ!んッ、ふっ」
「エース、」

擬似的でも確かに感じる肉棒の感覚に、エースは小さく喘ぎ声を溢した。そんなエースにサボが気づく。
エースは悪魔の視線に射止められ、震え感じていた。サボが肩を揺すっても、エースは拒むように首を振り自分を抱いて縮こまっていく。

「エース!なにあんな奴に……!」

エースはすっかり悪魔の手中に堕ちていた。
エースの視界に入らないことにサボは苛立ち、力任せにエースを押し倒す。分泌液に濡れヒクヒクとしている後孔に、迷うことなく自身を突き入れた。

「ああっ!あ、はっ、ぅあ…さ、ぼっ」

エースの目がサボの姿を捉えるよりも先に、激しい突き上げが開始された。何度も何度も、ガツガツと容赦なく奥を突く動きに視界が歪み、エースはサボの顔さえもよく見ることができない。

「あっ!や、ぁ…サ、ボっ…ッん、あ!まッて、っあ!ぅぁあ!っや…は、お、奥ッいた…ッ!ンぅう」

お腹を破かれてしまうのではないかと思うほど力任せに欲を打ち付けられ、エースは思わず痛いと口にする。実際に痛いわけではなかったが、他に形容するべき言葉が見つからずに思わずそう言った。
エースに無理を強いるのが好きではないのは、なにも悪魔だけではなくサボも同じだった。今までエースが本気で拒めば、サボは少しでも理性を取り戻して自分を改めた。
いつも通り、エースは今回もそうなることを望んでいたが、サボの様子に変化はない。エースの崩れた表情が、一瞬だけ悲しげなものになった。

「あ…やだッ、うっん、ンあ…苦し…、く、るしッ!サボっ、サボ!」

落ち着いて欲しくて、エースは苦しみを訴え何度も声を張ってサボを呼ぶが、聞き入れられることはなかった。今のエースには呼び掛ける事でしかサボを止める術がない。エースは仕方なく、自分で労わり守るようにお腹を押え込む。それが通じないのであれば、耐えて凌ぐしかなかった。
ぎゅっと閉じられた目には生理的な涙が滲んでいた。

「ッ!ぅはぁ、サっ…ァあっ」
「ひ、うぅ…ンぅう、ぁ、はあ」

部屋の中には、結合部から響く卑猥な水音と2人分の喘ぎ声で溢れていた。
黒猫には最初から抵抗をするという選択肢はなく、シーツを握り締め与えられる快楽に従順に耐える。その一方で、エースは激しい行為に耐えきれず暴れるように体をくねらせる。
2人ともに共通しているのは、欲望の赴くままに好きに揺さぶられ、どうしようもなく口を開け放って淫らに喘ぎ声を上げていることだ。

つらく苦しくとも、エースの体は次第に快楽を拾って高まっていく。エースの様子に変化を感じたサボは、先走りに濡れるエースの男根に手を伸ばした。竿を扱かれ射精を促されると、エースは背を反らせる。

「んあぁ…っあ、や、ぁあ、あ…く、んッあ」

お腹を押えていた手が無意識に男根を握り込むサボの指へと掛かり、そこから離させようとしていた。しかし、力の入らない手ではただ添えるだけになる。
男根を扱かれる速度が増していき、エースは耐え切れずに白濁を吐き出した。
絶頂を迎えたことにより、サボを鍛え込む肉壁がぎゅうと締め上がった。その動きに促され、サボもエースの中に欲を放つ。奥に熱いものを掛けられる刺激にエースはまた体を震わせた。

お互いに達した事により、2人はしばし無心になって息を整えた。ふと、さっきまで聞こえていたもう一つの喘ぎ声が聞こえないことに気がついたエースは、ふとそちらの方に目を向ける。そこでは、悪魔と黒猫がキスを交わしていた。
身体が柔らかいらしい黒猫は、身体を捻って悪魔の唇に吸い付いている。いくら身体が柔らかいとはいえ苦しい体勢であるはずなのに、黒猫は自ら必死になって悪魔を求めているようだった。その姿に健気さを感じてエースは少しばかり嫌気がした。サボとキスをしていた自分もこんな風だったのかと恥ずかしくも思うし、純粋に自分そっくりな黒猫が気に入らなかった。


唐突に、部屋の中に1羽のカラスが入り込んで来た。そのカラスは、悪魔が入ってきた窓から同様に侵入してきたものだった。悪魔が使役しているものだ。
カラスは悪魔の頭上に止まると、鋭く尖ったクチバシで悪魔の頭を突いた。悪魔はキスを止め、ゆっくりと前かがみになっていた上体を起こす。黒猫は支えを失い、べたりとベッドに沈み込んだ。大した魔力を籠められることなく簡潔に造られた黒猫には、あまり体力が備わっていなかった。倒れ込んだまま肩での呼吸を繰り返したまに腰をビクつかせるばかりで、その他に黒猫は動かない。

カラスを腕に移した悪魔は、これ以上ないほど不機嫌な表情を浮かべていた。カラスが鳴き声をあげるたびに、悪魔は「いやだ」と「あとでする」と繰り返し首を左右に振った。

「知らねェって」

悪魔がそう言ってカラスを払った瞬間、カラスは分裂した。十数匹の大群となったカラスは、一斉に悪魔に襲いかかる。あっとなった悪魔が抵抗を見せるより先にカラスが悪魔の全身を黒く覆い隠し、悪魔共々、瞬く間に消えてしまった。
強制送還と言ったところだろう。カラスと悪魔のやり取りをぼんやりと眺めていたエースとサボはそう察し付けた。もうここまで来たら何にも驚くことはないが、ようやく嵐は過ぎ去ったのかと、2人は複雑な表情で顔を見合わせる。そんな2人の前には、黒猫がひとり取り残されていた。



悪魔が去っていってから、2人は取り残された黒猫をどうするかでもめていた。このままここに置いておかなくてはいけないのは仕方がないとして、問題は呼び名だった。

「なんでもいいだろ、“ネコ”とかでいいって」
「いや、エースだよ!ネコじゃない、ネコだけど!エースだ!もっとちゃんとした名前にしよう、エースに失礼だ」

疲れと気怠さから投げやりになって言うエースに対して、サボは黒猫を抱き寄せ反論を示す。サボの腕にぎゅっとされる黒猫は、小さく反応を示せどもぐったりとしていた。中途半端にされているにも関わらずウトウトとしている様子に、エースは黒猫がいかに疲れているのかを悟った。哀れにも思ったエースはその手を引いて、ベッドから降ろそうとする。早いところ風呂に入れて休ましてやろうと思ったのだ。何より自分も早く休みたい。
しかし、サボが離さない。首に回された腕に加え、足でも絡ませるようにてがっちりとホールドしていた。

「サボ、」

エースは咎めるようにサボを呼ぶ。それでもサボは、ホールドを解くことなく「エースに何するつもりだよ」と困り顔で質した。

「だからエースはおれだろうがよ」
「そうだけど、この子もエースだ」

力強い目をして淀みなく言い切るサボに、エースは戸惑いを感じた。[エースはおれで、それはおれではない]という主張の自分が間違っているかのような気分になって、狼狽しながら縋る思いで周囲を見渡せども、誰もいない。

「たしかに、目の色も違う、耳も尻尾も生えている。でも、こんなにも可愛い。おれがこんなにも可愛く思っている。したがってこの子はエースだ」

サボが言う主張のうち、[目の色も違う、耳も尻尾も生えている]その事実までは理解できた。しかし、そこから先の主張にエースは宇宙に放り出されたかのような感覚を覚えた。突拍子がなさ過ぎてついていけなかった。エースが放り出された宇宙空間で迷子になっている間に、サボは見事に主張点に着地している。
よく分からないが、つまりサボは「可愛い=エース」の定義が成立している世界に自分は生きているのだと、そういう主張をしているのだ。
そうやってエースは自分を無理やり納得させた。

「サボ……もうお前はダメだ。客観的に判断してダメだ」
「エースだって!エースなんだって!」

完全に理性も論理性のかけらもない願望じみた主張を始めるサボに、エースはうんざりとした。こんな風に駄々を言われてしまえば、その面倒臭さから「はいはい、わかったよ、」と言って受け入れてしまう他がない。

「それがおれなら、なおさら離れろ」
「どうするんだよ……」
「風呂に入れる」
「おれが入れたい」
「はァ?ッざけんなよ」

サボはエースが自分の主張を受け入れたことにより、黒猫をホールドしている手足の力を緩めていた。
エースが黒猫を譲り受けるかのように抱き上げると、少し目を覚ました黒猫はエースにしがみつく。それから体制を整え、今度は安心仕切ったようにエースの肩に頭を預け目を閉じた。
エース自身、自分と同じ体格、顔をした男を抱っこするのはどうかとも思ったが、手っ取り早く風呂に篭ってしまいたかった。

「こいつに構うくらいならおれでも入れてろよ」

自分から風呂に行くと言っておいて、我ながら矛盾している台詞だった。しかしとして、そう思ったのだから仕方がない。先ほどの行為中、辞めろという声をことごとく無視されたことに、エースは今でも不満に感じていたのだ。
こんな素性もわからないやつに構うくらいならば、自分に構って先ほどのことを詫びるべきだとエースは思う。

廊下に続くドアに向かいながらポツリと言いこぼした台詞は、果たしてサボに届いたのか。いや、間違いなく届いていた。

「エース……!」

エースが振り返り見たサボは、何やら感激しているかのような表情を向けていた。エースの嫉妬心が垣間見えるデレを嬉しく思っているのだ。
そんな顔をされれば、エースは居心地の悪さから口元がムズつく。しかし、そんなサボの様子にエースは、自分が何に不満を感じているのか彼がわかっていない事を悟ってため息した。それでもエースは必要以上にサボを咎める気はなかった。許せないのではなくて、許してしまうのだ。そんな自分をどうしようもなく思った。
エースに向かって駆け出そうとしているサボは、足をシーツに引っかけワタワタとしてもたついていた。捕まってしまえばどうなるかわかったものではない。エースは急いで風呂場に逃げ込もうとしてドアを開けた。

開けたドアの前にはあの悪魔がいた。
まさかエースは悪魔がここに立っているとも思わずに、驚き後ずさる。エースの背面に来たサボは「なんだよ、何しに帰って来たんだ」と声を低くして言った。

「もうやるべきことは済ませたし」
「お前のやるべき事ってのは随分簡単なんだな。大した身分じゃねェんだろ」
「優秀なんだよ」

喧嘩を売るサボに反して、悪魔はやっぱり涼しい顔をしている。
悪魔は口元に弧を描いてじっとエースを見つめた。サボであってサボではない。見ていると、エースは先程抱かれていた記憶が蘇り気恥ずかしく思った。
抱っこしている黒猫に隠れるように身を縮ませると、悪魔はふっとして笑う。
この余裕めいた所作は背面のサボにはないものだ。悪魔だから、もう何百年も生きているのかも知れない。それ故に落ち着き払った態度でいられるだろうかと、エースはぼんやりと思う。
エースはどこか大人びている雰囲気がやりづらいし、にじみ出ている色気にドキリともした。悪魔はそんなエースを見透かして「そんなもの欲しそうな顔すんなよ」とエースの顎を救って囁いた。

「第2ラウンドといこうか?」

その台詞はエースにというよりも、背面のサボに向けて言われたものだった。視線がサボに向いて睨みを利かせている。
エースは背面からの返答には始めから期待していない。
舌を打った次には、サボは「上等だよてめェ」と、いとも簡単にこの喧嘩を買った。すぐ側まで歩み寄ってきているサボが醸し出すそのどす黒いオーラに、エースは肌が泡立たせた。これから起こるであろう悲劇にエースは恐怖し鼓動が早まる。
目の前にもサボ、すぐ後ろにもサボ。どっちにしろ、もう逃げ道はない。
震えるエースは、少しばかり気に食わないが、こいつがいて良かったと黒猫を抱き締める力を強めた。




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