後編

「最近ラハのこと甘やかしすぎじゃない?」

 じとりと不満げに見つめてくるのはアリゼーだ。
 毎日のようにグ・ラハと、大型モンスターが出たやら大量発生が起こったやらで西へ東へ。
 私は元々冒険者としてそういう暮らしをしていたのでいつものことだし、グ・ラハも鍛錬になるからとむしろ積極的にそういった情報を集めていた。

 そんなものだから、眠りから目覚めて新調した武器に慣れてきた暁の新人と私はすっかりニコイチ扱い。
 たまたまクリスタルタワー方面に用事があったついでにノアの調査拠点に顔を出したらラムブルースに「今日は連れていないのか」と言われてしまったほど。
 イシュガルドや東方へ行った時のように戦乱に巻き込まれ必要に迫られて、とは違って、平穏な日々にこんなにも長期間、同行人がいたことはない。単独行動ばかりだと私も自覚している。
 それが急にグ・ラハばかりを連れ回しているのだから、アリゼーが「甘やかしている」と表現するのも当然だろう。
 なにしろ、彼が百年ものあいだ、抱き続けてきた「あんたと旅がしたい」を叶えているのだから。
 思わず苦笑しながら、アリゼーに弁解する。だって、あんなことを言われちゃったらねえ?

「連れ回したくもなるでしょ」
「そりゃ、まあ……ラハが今まで何やってきたか、分かってるけど」

 だけれど、今日ばかりは別だ。本日の予定は女子会なので。
 近頃は石の家を中心にあちこち駆け回る日々だったので、ちょうど鉢合わせたアリゼーと一緒にグリダニアへ向かっている最中。
 他の面々とは現地集合だ。

「あ、リセはもう来てる。久しぶりー」
「ふたりとも! 久しぶり、元気だった?」

 原初世界へ戻って来た時に各所へ連絡を済ませたりはしたものの、グ・ラハを連れ回すようになってからはアラミゴ方面にもあまり訪れていない。なので私もリセと会うのはちょっとぶり。
 ましてや第一世界でかなりの時間を過ごしたアリゼーやヤ・シュトラからすれば、年単位で会っていない相手である。万感の思いを込めて、といったようにアリゼーは微笑んだ。

「ええ、本当に……久しぶりね」

 戦争の前線にいるような彼女だ。やるべきことは私の想像もつかないほどに多く、忙しいのだろう。
 無事に帰ってこれたのだから、と都合をつけてもらった形になる。
 アリゼーたちが倒れてしまったところを見ていたのだ、こうして無事な姿を見て安心してほしいし、リセはずっと頑張っているから、ちょっとくらい休んで欲しい。
 メ・ナーゴなんかもそう思っていたようで、快く送り出してくれたのだとリセは話してくれた。
 ややあってからヤ・シュトラにクルルとも合流して、カフェの一角を借りて改めて再会を祝う。

「無事だとは聞いていたけど、会えて本当にうれしいよ」

 さぞかし気を揉ませてしまったことだろう。特に彼女は仲間思いの優しい人だから。
 男性陣とはどうなのだろう、と聞けば、サンクレッドは諜報活動の折に顔を出していたらしい。
 アルフィノとウリエンジェとはまだ、と言っていたので、今度顔を見せに行けとせっついておこうと思う。まあ私が言うまでもなく、アリゼーががつんと言ってくれそうだが。

「そういえば、今日は連れていないのね?」

 ヤ・シュトラが目を細めて笑う。視線の先は私の隣。いつもグ・ラハがいる位置だ。
 それが何を指すかを聞くまでもなく察したアリゼーがフンと鼻を鳴らす。

「当然よ、女子会にまでついてくるって言うなら私がぶっとばしてるわ」
「そんな無粋な真似はしないよ」

 私も、グ・ラハも。今日だって「女子会だっけ? じゃあノアのとこ顔出してくるかな」とか言っていたから、多分あっちの調査に参加していることだろう。
 クリスタルタワーにまつわるものの大概は水晶公としていた頃に使いこなしていたようだけれど、すべてを解き明かしたというわけではないので。
 すっかり連れ回すのがデフォルトみたいになってしまったけれど。
 ヤ・シュトラの言葉で怒りが戻ってきたらしく、アリゼーはやや乱雑な仕草でミルクティーを混ぜていたティースプーンを置いた。

「この人に言ってやってよ、いい加減ラハのこと甘やかしすぎだって!」
「たしかに戻ってきてからずっと一緒よねえ」
「あら、我らが英雄さんと一緒にいられなくて寂しいのかしら」
「ばっ、違うわよ!!」

 アリゼーもアリゼーでけっこう、分かりやすく好意が伝わってくるので面映ゆい。
 理由はともあれ好いてもらえるのは嬉しいので、今後はアリゼーとも何かしらやるとする。よさそうなのあるかな。近頃は討伐系ばかりなんだけど。

「それって、噂の暁の新入りくん?」
「噂?」
「魔法にも武術にも長けている、っていう。サンクレッドからちょっとだけ聞いたんだ」

 なるほど、サンクレッドから。
 この場でグ・ラハのことを知らないのはリセだけだ。
 水晶公として過ごしたものを置いて、一介の冒険者になりたいと言った彼は、シャーレアンの賢人でもあれば白魔法も黒魔法も扱えて、剣も持つ大型新人。
 一部からはライバル視されているほどだし、どう説明したのかは知らないけれどサンクレッドだって水晶公だったグ・ラハを見ているひとりだ。
 クルルがくすくす笑いながら私を見る。

「連れ回しているあなたから見て、腕前はどうなのかしら?」
「んー……場数次第? ご飯とか睡眠おろそかにする癖ついてたみたいで、たまに力尽きてるから」

 石の家で寝泊まりしていればなんとなく他のみんなと合わせた生活になってくるので、生活習慣も戻ってきているようだけれど。
 クリスタルタワーの端末と化していると空腹感や眠気をほとんど感じなかったようで、水晶公として過ごした百年の間にすっかり悪癖として身についてしまったらしい。
 そこに賢人としての好奇心が加われば、声をかけるまで自分がお腹がすいていることや眠いことに気付かないのだ。
 しかも魔法を使うとお腹がすく、という感覚も百年ぶりなようで、うっかり使いすぎて腹が減ったと力尽きる。おかげで携帯食は多めに持ち歩くようになった。

「調子に乗って魔法使いすぎるところがなければねー」
「あら、思ったよりも辛辣ね」
「まさか矯正するために連れ回してるの?」
「三割ほどは?」

 ライナからも彼女にとってのおじいちゃんでありみんなにとっての水晶公をお願いされているので、百年間でついてしまった悪癖が抜けるまでは入念に確認するつもりである。
 それまでは長旅もお預け、というわけで石の家から離れすぎないようにしているのだ。
 私の返事にアリゼーとヤ・シュトラは呆れ顔になって、クルルは笑い声を上げた。リセはといえば。

「へえー、あなた自らって熱烈だね」

 でしょう、と笑みを返す。
 過保護だとアリゼーは呆れているが、私だってただそれだけでやってるわけじゃない。
 グ・ラハが私に追いつこうと、並び立とうと頑張っているのを見るのは楽しいし嬉しいから。

「あとは一緒に旅がしたい、次の冒険にはオレも連れてってくれって口説かれちゃったし」
「そんなことがあったの? ねえ、詳しく聞かせてよ」

 もちろんだ。
 あの人が背負ってきた二百年。あの人が費やしてきた百年。
 フードに隠した顔を明るみに晒す前から言動の節々に現れていた英雄への憧憬は思い返すたび、くすぐったい気持ちになってしまう。
 だから聞いてもらえるのなら、ありがたく喋らせてもらおう。
 私が感じてきたこと。あの人たちにしてもらったこと。
 それだけじゃない。第一世界での冒険は私たちにとって大切な宝物だから。

「長くなってしまうけれど」

 私の口から話させてほしい。色んな人からたくさんの想いを託されたことを。

「嬉しいことを言ってもらえたんだ」

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