明日からは何度でも言える

 グ・ラハに、また会えるって信じてくれるかと聞かれたから。
 他のみんなは魂が肉体に戻ったばかりでまだ思うように動けず、私だけがクリスタルタワーへ向かう。
 走って。走って。逸る気持ちに身体が追いつかない。転びそうになってでも、そこへ。まっすぐに。
 不思議と、失敗するかもしれないなんて不安はなかった。必ず会える。必ずあの人を冒険へ連れ出せる。そう確信していた。

 どきどきしながら扉を開く。そういえばグ・ラハってどのあたりにいるんだろう。奥のほうだとは、思うんだけど。
 そのとき、私が持っていたグ・ラハの記憶と魂を宿したソウルサイフォンから光が溢れ、ふわふわと塔の奥へ奥へと漂っていく。
 その先にいるのだ、と気づくなり、追って駆け出した。
 迎えに。起こしに来たのだから。

 眠るグ・ラハが見えた。光が降り注ぐ。次第にそのなかへ収まって、彼が、目を開く。

「…………良かった、無事に来れたんだな」
「〜〜〜〜〜っ!」
「うわっ!? ちょ、あ、危ないだろ!」

 胸がいっぱいになって、つい勢いよく抱きついた。衝動の行き場がなかったんだから、許して欲しい。
 起きたばかりのその顔を覗き込んで言う。

「おはよう、グ・ラハ・ティア!」
「──ああ、おはよう」

 間近で見た顔には結晶と化した一部もなく。
 腕だって、足だって。全身がクリスタルタワーと同化してしまったそれではない。
 こいつはほんとうに、ぜんぶ、ひとりで決めるから。
 クリスタルタワーを封印したときも、私を第一世界に呼んで闇を取り戻したときも。
 でも全部が終わって、いま、彼はこうしてここに“戻ってきた”。

「えっ」

 目の前が滲む。よかった、と、それだけの想いで胸が詰まって、言葉の代わりに涙が溢れ出たようだった。
 困惑したグ・ラハの声にもまともに返答出来ず、涙が頬を顎をと伝ってぼたぼたと落ちていくことだけを自覚していた。

「泣くなよ……なぁ」

 すっかり弱りきったように、グ・ラハが指で頬を拭うから、余計に泣けてきた。手の甲で目じりをこすったって止まらない。

「…………」

 なにか言ってくれたらいいのに、グ・ラハは無言のまま、泣き続ける私の涙の痕ばかりをなぞる。
 悲しいだけじゃない、嬉しいんだ。こうして彼が、私のとなりに並びたちたいって思ってくれることが。私と冒険したいって言ってくれることが。
 だけど、なのに、そんな他愛もないはずの願いは早々に叶うことなく、阻まれて。それがさみしいんだ。彼が他のことをやらなければいけなくて、冒険をしている余裕がなかったことが。それが無性に寂しい。
 だけどこれで、叶うんだ。
 いつかこの人がこぼした願いのひとつも叶えられなくて、なにが英雄か。そう思っていたけれど。

「良かった……」

 グ・ラハがじゃなくて、私が。
 私にそれだけの物を残してくれた人に何も返せないままなのが。この人が報われないことを、私が許せなかった。
 だから今、グ・ラハが私にくれたものを、私のために捨てさせてしまったものを返してあげられるのがとてもうれしい。うれしくて、つらい。

「信じてくれるかって、聞いただろ」

 そうだけど。そういうのじゃなくて。

「私だってあなたと冒険したかったんだよ」

 額を押し付けた彼の胸元からは早めの鼓動が伝わってきて、泣きながら笑みを浮かべる。
 あなたも喜んでくれていたらいい。私が喜ぶのと同じくらいに。私だって同じ気持ちだったことを知ってくれたらいい。
 明日もあなたに朝を告げるから。

[←戻る / top]