後編

 それでもまあ、冒険をするというのはもはや私の本能みたいなものなので、懲りず故郷へも帰らず、各地を歩いて回った。
 英雄と呼ぶには不相応だったはずの私の肩にはいつしかその称号が馴染み、相応しくあれとそれらしい振る舞いまで身に着けることになり。
 その英雄と呼ばれた私の力がいるらしい。届いた言葉に、その声に、あれ……? と思った。

 光の氾濫が起こった第一世界に召喚されて、この目で見てようやく光の氾濫がどういうことかを理解した。
 世界から夜を遠ざけてしまうほどの無尽蔵な光は罪喰いと呼ばれる化け物を生み出して、そして、第一世界は滅びかけている。
 それを何とかするために私を呼んだのだ――と言う、水晶公と名乗った男は目深にフードを被っていたが、しかし見える範囲でも腕や首元、頬のあたりが水晶と化して異様だった。
 まずはこの世界のことを知ってほしいと言われクリスタリウムの街を案内されながら、私はずっともやもやを抱えていた。まるで初対面のように振る舞い、素性を隠す水晶公。

「……で、何やってんの?」
「何、とは……?」
「いや、ラハでしょ、どう考えても」

 クリスタルタワー内部に執務室があるからそちらで話の続きを、と言われて、流石にそろそろ突っ込みを入れたかったので入れた。この気持ちを解消せねばまともに今後の話も出来ない。
 塔の調査をしたとき、数年越しの再会だろうと一目でラハじゃん、と気付いたように、フードで目元まで隠してたってなんとなく分かる。ぎくっと肩が揺れ動いたのならなおさらだ。

「し……らない、名前だな。その人物がどうかしたのだろうか?」
「…………ふうん?」

 あくまで自分は水晶公である、としらばっくれるつもりらしい。
 バレバレなんだよね。声が同じだし、誤魔化すの下手だし。

「私はラハが人の名前だなんてひとことも言ってないよ」
「えっ」
「で、その身体のことくらいは聞かせてくれるんでしょうね」
「え、あ、あー……」
「人前で聞かなかっただけ慈悲だと思ってくださる?」

 今すぐそのフードを引っぺがしてもいいんだけど? と、付け加えれば、ラハはフードの奥で「わかった、わかったから」と苦笑した。
 クリスタルタワーの調査には掃討役として参加したものの、内部をまじまじと見たことは実はない。ゆっくり見ている暇がなかったのだ。
 古代アラグの皇族が関わった建造物なだけあって、高くそびえる外観も、内部もすごく綺麗だと思う。よくもまあ執務室になんて使えるものだ。私なら逆に落ち着かない。……寝てたからか?
 星見の間とやらに案内されて、大層な部屋だこと、と思った私にはこの部屋の歴史的価値が分からない。

「私のことはどうか水晶公、と呼んでくれ。素性は伏せているんだ」
「それは、いいけど……なんで第一世界にいるの?」
「それは言えない」

 原初世界で塔と共に眠ったはずのラハが、何をどうして第一世界にやってきたのか。
 言えないと断言したからには絶対に教えてくれないだろう。それを私は知っている。それでも私がその正体を見抜いたことに、誤魔化すことは出来ないと悟ったらしい。
 口調も違うのは水晶公として振る舞うためだろう。確かにラハみたいなタイプが素のままで水晶公って呼ばれてたら、ちょっと恰好つかないなって思うけど。
 そして彼は、己はもう百年以上を生きていて、クリスタルタワーの力を使うために塔と同化したのだ、と言った。
 すべては光から、罪喰いから、世界を守るために。そしてそれは原初世界を救うことにも繋がるから、と。
 第八霊災が起こる、ということを告げられても、いまいちピンとは来ない。でも第一世界でそれを回避することが出来るなら当然やるし、第一世界を守りたい、というのも分かる。

「協力するのはいいけど。他のみんなは? ラハがこっちに喚んだんでしょ?」
「いや、だから、私のことは水晶公と……」
「あー、はいはい、わかったわかった、水晶公ね。で、他のみんなは?」
「絶対わかってないだろ……」

 ぼやいたラハ――水晶公は、みんなは各地で調査をしている、と言った。
 光の氾濫からかろうじて逃れることの出来た一部地域の地図を出して、簡単に説明してくれる。
 アルフィノとアリゼーは比較的行きやすい場所にいるから会いに行くといい、と付け加えて。

「寄り道はいいがあまり長居をしすぎないように。合流を優先すること」
「……あんたも隠す気ないじゃん」

 はっとしたように水晶公が咳払いをするものだから、やっぱりラハは誤魔化すのが下手だな、と呆れた。

 ラハはアルフィノたちにも自分の素性を隠しているらしい。というか、私が気付いたのが想定外なだけか。
 水晶公なんてまんま怪しい人物だろうに、みんなが協力しているのはウリエンジェが第八霊災が起こる未来を次元の狭間で見たからだそうだ。
 第八霊災が起こると言われたって何がどうしてそうなるんだか、とさっぱり分からない私にしてくれたラハの説明がやたらと分かりやすかったおかげで、じゃあ光をどうにかしなきゃダメじゃん! という結論はすんなり理解出来た。
 罪喰いを束ねる一帯の主――大罪喰いを倒せば闇が戻る。だけど、大罪喰いを倒せるのは光の加護を持つ者だけ。
 ホルミンスターにいた大罪喰いを倒したら、レイクランドに夜が戻った。私でなければほかの何かしらが次の大罪喰いになるのだという。
 だから私を喚んだのか、と納得をした。それで十分だった。

 水晶公について。得体のしれない人物ではあるけど助けたい気持ちとかは本当みたい、というアリゼーの総評を聞いて、そうだろうなぁと思う。
 英雄譚が好きだったことを覚えている。強大な悪から人を守るとか、世界を救うとか。
 作り話だろうと伝承だろうとそういった類の本を好んで読んでいたラハのことだ。そういう憧れを動機に第一世界を救おうとしているに違いない。
 だから、べつに仰々しい言い回しで頼まなくったっていいのに。

「どうか、私たちに力を……世界に闇を、取り戻してほしい」
「はじめに協力するって言ったと思ったけど?」

 だってこの世界を大事に思ってるのはよく伝わってる。
 滅んで良いような世界があるわけでもなし、第一世界で光の氾濫をどうにかしないと私たちの住む原初世界で災害が起こるというのならなおのこと。

「……ことの重大さを理解してないみたいな答え方するわね」
「分かってるって。元々助けを求められたのに応えて来てるんだから、今更の話ってだけだよ」

 それに、そこらへんはいつものことだ。呆れたようなアリゼーに返す。
 そもそも私なんて、ちょっとした手助けをしてはおおごとに発展して、みたいなことばかりだ。――この世界を救おうとした光の戦士がいたように。
 困っている人を助ける。私がしてきたことって結局は、それでしかない。

「ま、あなたのノリが軽いのも今更よね。……それにしても水晶公は、どうしてそこまでして戦うの? 最初の切っ掛けはなんだったわけ?」
「困っている人がいる。それを無視する理由もないだろう?」

 どうせどこかの英雄譚からの引用だろう。そういうの、好きだから。
 ……性根が良い奴だよねえ、ラハって。
 それで長い時間を過ごして、召喚だって苦労してやってたんだから、とんだお人好しだこと。

 みんなが水晶公の正体を知らない以上、私は彼にラハとして接することは出来なかったし、向こうもまた私をたまたま召喚した英雄みたいな扱いをするものだから、違和感がすごい。
 水晶公はあんまりクリスタルタワーから離れることは出来ないから、私たちばかりが外を駆け回る。
 みんなの前で水晶公に接する時間が短い、ということに安心する一方で、ラハを置いて知らない土地を歩くことに罪悪感があった。
 本当はあんただって冒険が好きなくせに。知らない場所に行きたいくせに。
 あのあと、何年後に目覚めたの? だとか、ここでどういう暮らしをしてたの? とか。
 聞きたいことはたくさんあるのに、私はそれを口にすることが出来ない。
 あんたが眠ってからちゃんと手紙を出したよ、とか、水中で呼吸が出来るようになったんだよ、とか。
 言いたいことだってたくさんあるのに、なんにも言えない。
 私が置いて行っちゃったから。


 光を掃う、というのは、光の加護があっても負担が残るものらしい。
 私のなかには掃いきれなかった光が溜め込まれていて、いつか器が耐えきれなくなったら、今度は私が大罪喰いになってしまうのだそうだ。
 ヤ・シュトラはそれをエーテルを視て気付いていて、ウリエンジェも知っていて黙っているみたいだった。
 じゃあたぶん、ラハも気付いているはずだ。気付いていて何も言わないってことは、何かあるんだとおもう。大丈夫な何かが。
 何も言えないし、何も聞けない。
 でも教えてもらえないから、もしかしたら置いて行ったことを根に持たれているのかもしれない。
 光を溜め込みすぎたせいなのか分からないけれど、眩暈を感じたとき、私はそんなことを考えていた。

 報告は私たちに任せてあなたは先に休みなさい、とヤ・シュトラにもリーンにも言われたので、ちょっと眩んだだけなんだけどとは言えずにおとなしく居室へ戻る。
 アム・アレーンへはついてこなかったらしいアルバートにあったことを話していたら、ラハが訪ねて来た。

「……あれ、どしたの?」
「ああ、ええと、リーンたちから具合がよくないと聞いて……」
「ちょっと眩暈がしただけだから、たいしたこと、」

 ああ、タイミングが悪い。
 さっきよりも酷い眩暈に襲われて、立っているのもむずかしくて、思わず膝をついてしまう。
 ラハの慌てた声が遠くで聞こえる。

「おい、しっかりしろ……!」

 はっきりと内側から吐き気がこみ上げて来た、みたいな気持ち悪さだ。
 怪我をした痛みだったらともかくエーテル酔いだとかに近い体調不良は勘弁してほしい。
 ちょっとの間ぐらぐらしたくらいで収まったけど、これがしょっちゅう起こるんだったら流石に嫌だな。

「……うえ」
「……おさまった、のか?」
「たぶん……? 水飲みたい」
「無理に立とうとしなくていい。オレが取ってくるから座っててくれ」
「ん」

 …………お互い何も言わないけど、でも二人きりだと昔みたいに喋ってくれるんだよね。
 勝手知ったる、というか、多分ラハが用意してくれたっぽい部屋だけど。
 迷いなくカップを取り出して水を注いで戻ってきたラハが、私がちゃんとカップを握れているか確認をしてから手を放した。念入りに見られている気がする。
 少しずつ口に含んで飲めば、気持ち悪さもやや落ち着いてきた。

「ありがと。落ち着いた」
「良かった……今日はもう休んだほうがいいな。ベッドまで行けるか?」
「もう何ともないから大丈夫だよ、元気」
「寝ろ」
「……ハイハイ」

 急にすごく雑になったラハにカップとか着たままだったコートを取り上げられて、ちゃんとベッドにたどり着くまでを見張られた。
 何かが内側で暴れまわっているような感覚はあったものの、収まってしまえば本当に何ともない。しいて言うなら普通に一日の疲れがあるくらいか。
 ラハがコートを畳んで枕元に置いたり、シンクでカップを洗っているのをぼんやりと眺めていた。

「水差しも置いておくから」
「助かる。報告は聞いた?」
「聞いたよ。あんたはちゃんと休むこと、いいな?」
「わかった、わかったから。寝るってば。おやすみ」
「……ああ、おやすみ」

 これが本当に光を溜め込んでいるせいなのだとしたら、私は本当に罪喰いになってしまうんだろうか。あんまり実感は湧かないけど。
 その時の私は呑気だったのだ。

「どうか、無事で……あんたは第八霊災の起こらない世界で、冒険を続けるんだ」

 そんな言葉は、聞こえなかったんだから。


 第八霊災の起こった未来で、私たちは死んでいたらしい。
 ラハは遠い未来から、それを変えに来たらしい。
 そんなこと、私、知らない。聞いてない。
 でも知らないで済まされることではなかった。

「なんで、ラハ……!」

 罪喰いになりかけている私に、ラハは大丈夫かともしっかりしろとも言わず、ただそこで杖を構えている。
 被ったままのフードは取らなくたって気にならなかった。だってラハはラハだったから。
 なのにそこにいるのは変わり果てた姿の彼だ。水晶に侵食された水晶公。クリスタルタワーと同化したその人は、ラハの顔で、ラハの声で、私に言う。

「手紙、ちゃんと出したんだろ」

 今する話じゃないでしょ、とか、確認してないのかよ、とか、そういうことも言えず苦しさに呻くばかりの私に、どうしてかラハが泣き出しそうな顔をしていた。

「あんたはずっと、冒険を続けてくれ。オレの……一番、憧れの英雄」

 遺言みたいに言わないでほしい。そんなこと、一度も言ったことなかったくせに。
 置いていった私を恨めばよかったのに。
 薄情者だと罵ればよかったのに。
 あんただって冒険をしたかったくせに。
 英雄の話だけじゃなくて冒険の話だって好きだったこと、知ってるんだよ。
 私があんたを置いていったから私のことを置いていくんだって、そう言ってよ。


 アルバートは私についてくることのほうが多かったから、ラハと喋っているところも見ていたし、なんなら水晶公を名乗るそいつが本当は原初世界の人間で、私の幼馴染だったというところまでこちらで会って間もない頃に話していた。
 どうせ相手は幽霊みたいなものだし、と思って思い出話に付き合わせたりもした。

「英雄の話はなんでも好きだったんだよ、あいつ。目の色が違うのを気にして引っ込み思案なとこあったけど、英雄の出てくる本とか、吟遊詩人の詩には目を輝かせちゃってさ」
「仲が良かったのか?」
「わりとね。うちの親とあいつの後見人が同じ組織だったってのもあるし、故郷の大人はだいたい研究熱心だったから子供だけで遊ぶなんてしょっちゅうだった。英雄ごっこなんかもしたっけ」

 秘密基地を作ってみたり、本の挿絵を真似た飾りを作ってみたりとか。
 ラハは次第に自分の生まれについて悩むようになって、そして私は街を出たいという欲求を強く抱くようになっていた。
 そこからどんどん道が逸れて行って、私は冒険者になるべく街を飛び出して。

「やっぱり怒ってるのかなあ」
「そうか? お前のことを心配しているようにしか見えなかったぞ」

 どうだろう、と苦笑する。
 そうだったら嬉しいけど。

 時々そういう話をしていたから、アルバートは痛ましいものを見る目で私を見ていた。
 無理やりラハが持っていこうとした光はエメトセルクに邪魔をされたせいで変わらず私の内にあって、私がそれをきちんと抑え込めないせいで一度取り戻したはずの闇は再び失われてしまった。
 空には光が溢れている。
 だけどそれでまだラハが生きているっていうのなら、私は「良かった」と言うほかないのだ。

「……エメトセルクは、テンペストってとこにいるって言ってた」
「行くのか?」
「そりゃもちろん、行くでしょ」

 だってそこにはラハがいて、エメトセルクがいる。
 この際、私が罪喰いになってしまうかどうかはどうでもいい。光の加護があっても罪喰い化してしまうというのなら、それはたぶん、光の戦士と呼ばれる存在でも手に負えないというだけだ。
 だからラハはここではないどこかへ行こうとしたのだろう。ラハが光の戦士を召喚して、大罪喰いを倒させて、蓄積されてしまった光をはぎ取って行こうとしたんなら、それ以外に方法はないってこと。

「私が罪喰いになる前にエメトセルクを止める」

 私に唯一分かること。アシエンが世界を統合したいというのなら、相容れないということ。敵か味方か、正義か悪か、もはやそういうくくりにはないということ。
 唯一出来ること。エメトセルクを、止めること。

「期限はもう残り少ないみたいだけど、行かなくちゃいけない」
「……ああ、そうだな」

 アルバートは多分、私が何を言いたいか察していたのだと思う。
 言ってやれよ、と背中を押してくれたから。

 私がベッドで寝こけていて、かつ街を歩き回って現状の把握をしている間にも罪喰い化を止める方法を探してくれていたらしいみんなは、実は水晶公の共犯者だったらしいウリエンジェから話を全て聞いていた。
 水晶公の正体が、原初世界でクリスタルタワーと共に眠りについたグ・ラハ・ティアだってこと。ラハは第八霊災の起こった先の未来で目覚めて、その霊災を回避するために過去を変えようとしていたこと。
 ラハが一体何をしてきたのかって深慮の間に入れてもらって、そこで知った過去には頭を抱えたけれど。

「私は、あなたが出かけることに賛成出来ません。なんのきっかけでまた光が暴走してしまうか、わかりません。だからどうか、少しでも安静にしていてください……!」

 みんながどれだけ私を案じてくれていたのか、と思うと申し訳ない気持ちになる。みんなのことを考えれば、じっと休んで、少しでも罪喰いになってしまうその時を遅らせるのが一番なのだろう。
 だけど私はもう、自分が罪喰いになることを半ば受け入れてしまっていた。
 だって、それよりも優先したいことがある。

「……昔ね、ラハを置いて冒険に出ちゃったんだ」

 もはや当人は私を送り出すことばっかり意識してるみたいだったけど。

「英雄の話をしてもらうか、冒険の話をしてもらうかで喧嘩することもあったけど、ラハが冒険の話だって好きなことくらい、気付いてて……なのに、私だけあの街を出たこと、ずっと後悔してた」
「幼馴染、だったんですか?」

 律儀なことに、黙っていてくれたらしい。私があまりシャーレアンに対する愛着がなかったから。
 頷いて、リーンと目を合わせる。優しい子。私が罪喰いになることを耐えられないと、きちんと伝えることのできる人。

「誘いに行きたいんだ」
「……いまじゃないと、だめなんですね」

 死期を悟って自棄になったように見えるだろうか。
 だけどあいつが私に冒険を続けてくれというのなら、会えるのなら、誘えるのならば、言えなかったあの言葉を伝えたい。


 道中は存外穏やかだった。
 リーンが応急処置をしてくれたおかげのようだ。
 なんとなく身体の中に光があるのかも? くらいの違和感はあったけれど、気にならない程度だったので戦闘に問題がなかったことが大きい。
 暗い海の底を訪ねて、エメトセルクの根城を探して、見つけて、古代の人々のことを知って。

 結果的に私は生き永らえたらしい。
 エメトセルクが闇を纏っていて、私は光を纏っていたから、それがぶつかり合うことで相殺されたのでは、というのがヤ・シュトラの見立てだ。アルバートにもラハにも力を貸してもらって、私はみんなに助けられて生きている。
 なんなら、それこそ私たち以上にボロボロな有様で、ラハは足を引きずりながら歩み寄ってきていた。疲労はあれど私たちはきちんと立つことが出来ていて、だからこそそれだけラハが無理を通してきたのだと分かる。
 何しろクリスタルタワーから離れれば調子が悪くなると言ったラハのことだ。いま、ここにいる瞬間も、あんまり身体によくないのだと思う。
 ひょこひょこと気まずそうに耳を動かし、それから腕をさする仕草は、そんな殊勝な態度を一度も見たことがなかったから珍しいなと思って。
 けれども。
 胸にこみ上げてくるものがどうしたって堪えられなかった。
 ずっと後悔をしていた。後ろめたさを見て見ぬフリしてきた。
 本当はずっと言いたかったんだって、信じてくれないかもしれないけど。
 遅すぎるとは、思うけど。
 今からでも頷いてほしい。どうか。だって本当は、ずっと言いたかったんだ。

「一緒に……冒険に、行こうよ」

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