その1

含まれているもの
・不明な時系列・季節感
・けっこう仲が良い安室さんとベルモット
・赤井=沖矢だと安室さんが知っているご都合主義時空
・捏造たっぷり



組織内では秘密主義ツートップとも言われるベルモットとバーボンはコンビを組まされることも少なくない。そしてふたりはわりとフリーダムなところがあったので、仕事の指示がない限りは気ままに食事をしたり遊んだりショッピングしたり情報収集をしていた。
弁解しておくと遊び呆けているわけではない。頻度的には情報収集>食事>ショッピング>遊ぶである。安室名義の家は組織が用意したものだし家賃は組織持ち、かつ、情報収集においては殆どを組織が負担してくれるのでなんというか案外ホワイトだなというのが潜入中の降谷零の感想だった。見た目は真っ黒の癖にな。
片や元女優、片や隠しているとはいえ公安警察。
表向きも内情も置き去りにしてわりと自由に遊んでいた。この場合遊ぶ、というのは純粋にテーマパークやら動物園やらである。美術館にも行くし植物園にも行く。息抜きしてなきゃやってらんねーですよとはトリプルフェイスの言。かつてスコッチと呼ばれた男に振れ幅大きいなあと言われた過去はさておき。
今回、降谷零はごく普通に安室透として、ベルモットはあの女優とはぱっと見わからない程度の変装を施して早朝から出かけていた。
安室が車でホテルまで迎えにあがり、首都高を湾岸線沿いに走り、某テーマパークの入園列に並んでいた。グッズでもあるサングラスをかけて髪型をちょっといじればあの女優とは判別がつかないだろう。

「どっち取ります?」
「トイマニじゃないかしら」

前に並んでいたカップルがちらりと振り返った。それぞれ色合いの違う金髪の男女。静かに正面に向き直り、格好良い、日本語上手いな、モデルか?と小声で言い合う。
いや僕日本人なんですけど、とばっちり聞こえていた安室は思ったが外見を思うと到底信じてはもらえまい。外人と思われて当然である。慣れていた。
手持ち無沙汰に広げた園内マップで安室が指したのは3Dシューティングゲームのアトラクションと、フリーフォールのホラー系アトラクション。どちらも人気が高くスタンバイ列に並べば長時間待つのが基本である。
そして時間指定の優先入場パスが開園後すぐになくなってしまうものだ。どうせどちらかのFPを取った後にもう片方に乗る。了解と返して安室はマップをトートバッグに仕舞う。期間限定でもっとスリリングになっている時はこちらを優先するのが常だが、ふたりはどっちのアトラクションも気に入っているので真っ先に取るFPはわりと気分次第だった。長時間待つようなものに直行し空いているうちに何度も周回することもザラである。

「あなたの用事のせいで久しぶりだわ」

ベルモットの返答は完全に嫌味である。赤井生存説調査のあれこれで中々暇が取れなかったのは事実だったので安室は頬をかいた。

「その節はお世話になりました」
「べつにいいけどね、いつも車出してもらってるもの」

こういうところではお互いの二人称は大抵あなた、である。バーボン、ベルモットとコードネームを呼ぶわけにもいかないし、かといって表向き名乗る名前を呼ぶような仲でもない。まさかシャロンともクリスとも呼ぶわけにいかないし、ベルモットはベルモットで安室とも透とも呼ぶ気はさらさらなかった。

「バケット変わりましたよね」
「ああ、デザイン良かったわねあれ」

グッズも一新されているし、ワゴンもチェックしなければ。
そうして開園を待ってふたりは真っ先に3DシューティングのFPを取って、空いているうちにすぐそばのフリーフォールに並んだ。そんなところで、前に居た集団に安室は内心頬を引きつらせた。

「……思いっきり知り合いがいるんですけど」
「変装してるし声かけてもいいわよ。気付かれるだろうし」

あなた目立つから。いやいやお互い様でしょう、というやり取りはさておき、ベルモットは安室が気付かなかったことに内心ほっと息を吐いた。安室の知り合い、の中にベルモットもよく知る顔がいたからである。
暗黙の了解でこういう時ばかりはお互い余計なことは言わないようにしていたがしかし、ちょっと面倒臭いことになる、かもしれない。
安室は安室でベルモットの言う通りだと納得していた。もう数十分で乗れるとはいえすぐ前に並んでいれば、そもそも同じエレベーターに案内される確率が高い。

「あれ、君たちも来てたんだね」

安室が先手を取って言えば、真っ先にぎょっとして振り返った眼鏡の子供の表情が目に入った。大袈裟すぎるリアクションに、まあ気持ちは分からなくもないと内心で頷く。

「あーっ!安室のお兄さん!」
「安室さんも来てたんですか?」
「スゲー偶然だな」

元太の言葉に心底同意した。屈んで目線を合わせて、お休みだからねとにっこり笑む。バイトだとか仕事だとかそういう意味である。いや、スパイに休みというのは基本ないので、そのあたりは念頭に置いているが。
安室が三人の子供と話す間にじゃあ隣の女性はとコナンが安室の隣にいたサングラスをかける女性を見た。ルージュの唇が笑みを形作る。

「ハーイ」
「なんで……」
「よく来るからね」

コナンの呟きは両者に向けられたものだった。安室がにこーっと笑ってちらりと専用のパスケースを見せればコナンは頬を引きつらせた。何やってんだ公安って?それは言うなよ遊びたいお年頃なんだ。
ところで保護者が目に入らないわけだがと思ったのだがそれは単に安室が完全にシャットアウトしていたからだったようで、にっくき沖矢昴は恐らく久方ぶりのベルモットとの邂逅だろうに平然と挨拶をかましてきた。
うるせえテーマパークが世界一似合わねえスナイパー野郎と言いたくなったが悪態の諸々はどうにか飲み込んで、どうも、お久しぶりですと安室は愛想笑いを作ることに成功した。握った拳が震えていることを唯一目撃したコナンはそっと視線を逸らす。
安室は会話を無理に続けることもないと話題を変えた。

「今日は阿笠博士とは一緒じゃないんだね」

近頃専ら引率係と化していた阿笠は風邪を引いてしまい、代わりに沖矢が運転手に借り出されたらしい。哀は看病のために家に残ったようである。結果的にベルモットと遭遇しないで済んだので正解だったなとコナンは内心阿笠にナイスと叫んだ。完全に偶然である。
だから哀ちゃんもお休みなんだよ、と言う歩美の言葉に、そっか、じゃあまた次はみんなで来れるといいね、と返した安室はようやく友人のベルですとベルモットを紹介した。その場しのぎであることがバレバレだった。
そのベルモットの目を盗んでコナンは安室に、なんでベルモットと、と耳打ちする。何かの任務かと聞かれて安室はなんもないよと答えた。

「いやね、ほら、仕事の都合上友人って早々作れないからその辺気にせず遊べて比較的性格に問題がないのって彼女くらいなんだよねえ」
「ハハ……それでいいの……」
「案外楽しいよ」

大きく頷くとコナンはそお、と空笑いを浮かべた。
このアトラクションはバックグラウンドのストーリーが強く打ち出されているのが特徴である。事前に案内演出があることは陸側のホラーアトラクションも同じだが、こちらのほうが怖さは上かな、と安室は思っている。絶叫系だし。
怖がる歩美がコナンの背に隠れるのを微笑ましく見守りながら暗唱できるほど聞いた内容をおさらいして、安室は特に怖がることもなくさっくり進んだ。
後ろのほうで組織のふたりがこっそりと笑いあう姿にコナンはもう何も思うまいと無心を心がけた。仕掛けは夢を壊すので指摘しない。――仕掛け?そんなものはない。
そして案の定同じエレベーターに案内されたわけだが、安室もベルモットもしっかりグッズのサングラスをかけて目元を隠しつつもおもいきりポーズを決めていた。ハートで。了解。隣でそんな会話が聞こえた時は、ん?と首を捻ったコナンだが、アトラクションから降りて出口へ向かう途中にあるライドショット一覧を見てあーっ!と声をあげた歩美に自然注目してしまい、思わずげんなりした。
安室とベルモットはふたり揃って親指と人差し指をクロスさせたハートマークを作っていた。光彦が僕たちも何かポーズやればよかったですねえとこぼすのを尻目に、いや、そういうのいいからとコナンは全力で遠慮したかった。写真を撮るタイミングを熟知しているのだろう。一体何度乗っていることやら考えるのも嫌になる。っていうか仲良すぎじゃないか?

「はしゃいでますねえ」
「ソウミタイダネ」

沖矢の声にコナンはカタコトで返事をする。ふむ、と沖矢は首をかしげた。彼も彼でどんな顔で絶叫マシンに乗っているかと思えば普通に真顔だったので逆に恐怖である。

「案外自由にやっているようだな」

まあそも組織に潜入してるNOCが悪人とつるんで遊んでる時点でどうかと思うのだけれども。二人とも出来を見て満足そうにするとさっさと出口へ向かっていった。
安室とベルモットはそもそも最初に乗るアトラクションと取るFPを決めた後はいつもその場その場で決めているようで、殆どノープランと言ってもいい。哀と阿笠博士がいないことに気落ちしていた子供たちは安室と思わぬ遭遇をしたこと、最初のアトラクションに乗り終えたことでテンションがあがったのか、一緒に遊ぼうと誘いをかけて、安室もベルモットも快く了承した。

「この時間ならまだラグーン空いてるんじゃない?」
「でもショーリニューアルしたから人が流れてるでしょう」
「そうね、でも夜に行くこともないだろうし」
「あー確かに。いつも行きませんしね」
「要塞も行ってもいいんじゃないかしら」
「先に要塞行ってラグーンかな。待ち時間かかるのはFPで後は少ないとこ行けばいいかと」
「そうしましょ」

完全に常連客の会話である。手馴れていた。
子供たちの要望のなかから比較的空いているであろう場所を選び、よっし要塞探険行こうか、と号令をかける安室の姿は沖矢を差し置いて引率係だった。
子供たちはいつもは陸側に行っていて、海側は初めてだと言う。それならば子供向けのそこに行くのは自然かつ必然。と安室は思っている。

「なら私FP取ってくるわ、どれがいいかしら。っていうかこの子たち身長制限どこまで?」
「タワテラは乗れましたけどね。僕が行きますよ?」
「あなたのほうが子供慣れしてるじゃない。ほら身長聞き出して頂戴」
「ああハイ。君たち身長順番に言ってー」

同行は了解したわりに子供の相手は面倒臭いらしかった。元気よく身長を教えてくれた子供たちは制限に引っかからないようだった。フリーフォールに乗っていたのを見るに絶叫には強そうだが、さて。

「クリスタルスカルがいいんじゃないですかね、少年探偵団だし」
「探偵?いいわね、クールだわ。でも探検家でしょうあれ」
「似たようなものじゃないですか?」
「あなた自分の職業思い出したら?」

ブーメランだった。
本来の職業はさておき安室は屈んで子供たちに視線を合わせた。片手を顔の前に挙げる。

「探検したい人!」

我先にと挙手する子供たちの無邪気さといったら。ここ最近の荒んだ心が癒されるようである。よしよし、と安室は頷いた。次のFP決定である。
FP取ってきて貰うからパスポート貸してください、と計7枚をベルモットに預ける。

「じゃあ行ってくるわね。あとで連絡入れるから」
「よろしくお願いします。あ、カプチーノで!」
「了解」

ベルモットがかつかつとヒールを鳴らしながら行ってしまうのを見送りながら、慣れるとむしろヒールないほうが違和感あったりするらしいな、と安室は思った。別れてじゃあ僕たちはあっちですね、と誘導をすると、隣に流れを見守っていた沖矢が並ぶ。

「要塞?」
「入って来たときに火山のすぐそばにあったでしょう?」

沖矢のほうも海側は来たことがなかったらしい。まあ海外暮らしが長ければ当然でもあるが。ああ、あれですか、とピンときたらしい沖矢はのんびりと子供たちの後を追っている。振り返った元太がどっちだと聞くから、安室はあっちーと指差した。また子供たちはたかたかと走って行ってしまう。こらあはぐれるぞーとコナンが言いながら追いかけていたので迷う心配はなさそうだ。まあ、みんな携帯も持っていることだし。

「しかしいいのか、あの女と呑気に遊んでいても」
「遊んでる時は遊んでる時です。呑気?なんですかそれ?」
「……そうか」
「ほら見失わないうちに行きますよー子供たちは飽きるのが早いんですから」

早歩きで数歩先を行く安室は振り返る気配もない。沖矢はええ、と頷いて、足を速めた。
遭遇したばかりは何でここにとか国へ帰れとか思っていた安室だが、アトラクションひとつに乗ってしまえばころりと夢の国を楽しむモードに切り替わった。因縁?しがらみ?憎悪?そんなのどうでもいいから遊ぶぞ!という感じ。逆にどうして楽しむ気持ちを邪魔されなきゃいけないんだ?
刺々しい言い方は抜けないがそれでも態度は穏和になったもので、沖矢は内心夢の国効果は絶大だなと考える。
入口正面のほうまで戻ってきて水上イベントも行われる湾にかかる橋を渡り、火山のふもとまで来る。要塞とはいうものの、どちらかといえば中身は遊べる博物館に近い。
配られている地図を兼ねたチャレンジシートをもらい、ダ・ヴィンチから直々にミッションを受ける。探索型アトラクションなので少年探偵団を結成するほど好奇心旺盛な子供たちにはぴったりだろう。謎解きというよりは探し物、という感じなのでコナンに引けを取ることはないだろうと考えてのものだったが、案の定。1グループにつき1枚のシートと子供たちは睨めっこをして、あっちだ、こっちだと言い合う。
ミッション達成にだけ専念するのならそう時間はかからないが、一通り遊びながらだと結構時間がかかるだろう。

「塔のポールについていない旗はどれか……あ、あれですね!」

シートに書かれた問題と見比べて、これだと言って早速次へ行こうとする子供たちをよそに、コナンはなんか見覚えが、と首を捻っていた。

「あの旗はなにを意味しているでしょう?」
「あ、やっぱり何かあるの?」
「あるよー。雑学王コナンくんなら分かるんじゃないかな」
「ざ、雑学王……」

人のことを言えないのはさておき年齢を鑑みるにコナンは雑学王に相応しいと思う。
なんとなく刺さるものがあったのかコナンは頬を引きつらせたものの、謎解きともあれば気になるようでじっとポールに吊り下げられた旗を見る。どうやらコナンは今回は保護者的位置で見守るつもりのようだから、安室は写真に撮ったら?と声をかけた。▼子供たちが次の場所へ行きたそうな目でこちらを見ている。
コナンは頷いて写真を撮り、早速画面を見つめながら考え事を始めた。すぐに分かりそうなものだったが、知識量の多さから逆に答えを引き出すのに時間がかかるのかもしれない。

「詳しいですね」
「まあ。沖矢さんは分かりました?」
「ええ。凝ってますね、これ」
「国際信号旗か!」
「お、正解」

ぱっと顔を上げたコナンへ安室がぱちぱちと拍手をする。五つ並んだ旗は上から順にアルファベットに置き換える。というのはさておいて、達成感に満ちるコナンを誘導しつつ安室は他の子供たちも駆け回るそこを器用に避けて次の場所へ向かう。
そうして遊びつつもミッションを達成して、それをお褒めいただき、チャレンジシートにミッション達成の証を捺して一通りクリアである。

「これゴールが何箇所かあるの?」
「ああ、シートにも種類があるからね。違うとこに差し込むと、」

もう一回外の遊び場に行きたいというので後を追いつつ、安室は適当な場所にシートを入れる。
残念じゃが、という声が聞こえてきて、コナンは芸が細かいなと感心した。折角なので持っていたトートバッグに折れないように仕舞ってあげて、安室は屋外に出た。持って来ていたレジャーシートの間に挟むようにすれば綺麗な状態で持ち帰れるだろう。今日はショーを待つ気でもあったのだ。
繋がって置かれた船でも遊べるようになっている。駆け回る子供たちを見守れる位置で安室は壁にもたれかかった。安室さん、と呼ばれたのに手を振って返してやる。
コナンは既に見た場所でもあるので遠慮するらしく、沖矢と安室の間に並んだ。

「安室さんってたまにベルモットと遊びに来てるの……?」
「たまにだけどね」
「ああ、突然本場のピッツァが食べたいと言い出して一人でイタリアへ行ったこともあったな」
「えっ」
「呼び出しをすっぽかしただろう」
「根に持つ男は嫌われますよ」
「それ、大丈夫だったの?」
「別に平気だよ。従順でいるより多少自由でいたほうが疑いがかけられにくいからね」

そういうものだろうかとコナンはリアクションに困った。
しかしまさかベルモットとテーマパークに来ているとは思わなかったから、こればかりはコナンだけでなく赤井も驚かされた。何があったのかと勘繰ってしまう。何しろ秘密主義同士で腹の探りあいをしている、といった様子だったのだから。

ひとしきり遊び尽くす前、くらいに安室はそろそろ行こうかと声をかける。遊び足りない子供たちは反対しかけたが、一日がまだまだ始まったばかりなのですぐさま次に向かう場所へ興味を示した。
火山の中を通り抜ける最中にもあれやそれやと興味を示す子供たちの相手をしてやりながら、安室はようやく来た通知に携帯を取り出す。トーク画面を開けば違うところにも並んでいるらしい。了解の代わりにスタンプを送ってバックライトを消した。

「ベルモット?」
「ポップコーン列が結構長いみたい」
「ぽ、ぽっぷこーん……」
「バケット新しいのになったから欲しいんだよね」
「集めてるの……」

わりと普通に綺麗に洗って保管してあったりする。気に入ったデザインのものは持ってくることだってあるし。まあ今回は子供優先で、また今度買いに来ようと思っているが。
シュールな光景に思考が停止しかけているコナンへ、安室は人差し指を立てた。

「逆に考えるんだ、ジンが並んでるよりマシだと」
「ぐっ」

何故かウケたのは沖矢に、だった。口元を抑えて肩を震わせる様子に安室はぽかんとして言葉を失う。
赤井さんが笑ってる、とコナンは思った。

「言っておきますけどあなたが並んでても相当シュールですからね」
「そこじゃないと思う」
「クレープなら並んだが」
「そこでもない……並ぶんだ……」

並んだらしい。正気かコイツとでも言いたげな安室の表情に、どちらかといえば犯罪組織の連中と遊んでるほうがどうかと思うんだとコナンは心底思った。


火山を抜けてすぐにある海底王国をテーマに作られたテーマポートは主に女性受けするものである。男児三人はどことなく居心地の悪さを感じたようだが歩美は可愛いと喜んでいた。
子供向けの規模の小さなアトラクションの数々はコーヒーカップに乗りたいというのでそこに並ぶ。子供四人をカップのひとつに乗せて大人二人は乗り場を抜けて外で見守る位置に立つ。

「あれ、これ回せないよ」
「四人くっついて座ってごらん!」

ここのアトラクションは一般的なものと違い、中央のハンドルは回せないのだ。外から安室が声をかけると四人は顔を見合わせ、対称的に座っていた位置から一箇所に集まった。
すると少しずつスピードがあがって、速くなりました!と光彦が声をあげた。段々早くなるにつれてバランスが保ちにくくなる。

「遠心力、か?」
「ええ」

遠心力で回るコーヒーカップは普通に座ってもそうスピードは出ないのである。ちょっと変わったコーヒーカップに子供たちはきゃあきゃあと笑っていた。ポケットに入れていた携帯の震動に、取り出して通知を確認した安室は手早く居場所を送ってやる。幾度かやり取りの後、周囲を見渡し片手をあげた。

「こっちです」
「ああ、いた。ほらポップコーン」
「ありがとうございます。半分沖矢さんも持ってくれますか」
「いいですよ」

ポップコーンバケットを二種類計四つ、プラスレギュラーボックスが一つ。それを一人で持つとかなりかさばる荷物である。つけられたストラップの紐をまとめれば持てるが移動のたびにがたがたと落ち着かないだろう。
最近は円筒形のバケットが減って、キャラクターを模したものやリボン型など可愛らしいデザインのものばかりだ。なもので、沖矢がそういうものを持っている姿はどうにもシュールで安室はおもわずふきだした。

「あなた、そういうメルヘンなもの似合いませんね」
「いえいえ、安室さんには及びませんよ」
「可愛さで言ったらあなたが一番だから安心していいわ」
「当然でしょう」

沖矢とベルモットの言葉に安室はフンと鼻を鳴らす。自分の顔立ちは自分が一番よく理解していたし、ベルモットにあなたが持ったほうが可愛いんじゃない?とかなんとか言ってバケットを持たされることも多々あったので慣れている。

「まあ今日はあの子たちが持つのが一番愛らしいですけど」
「異論ないわね」
「その通りですね」

乗り終えて出口にかけよってきた子供たちがポップコーンバケットを見て目を輝かせていた。まあ、コナンは一つずつ持たされるだろうと予測してげんなりしていたけれども。

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