蛇足の5.4
ラハと冒険に出るために私が何をしたのかというと、別になにもしていない。と思う。
……いや、その、戦力にはなったよ? エリディブスと戦ったし。原初世界と第一世界を生身で移動できるのが私だけだからみんなの魂と記憶も運んだし。クルルとタタルさんとの連絡係とかもしたし。タタルさんが作ってくれた完全再現の賢人パンも届けたし。
その賢人パンをラハに無理やり食べさせたのはさておき。
賢人位どころか勉学の分野に興味の欠片もなかった私にはアリゼーが使い魔を得たことも罪喰い化の治療への第一歩を踏み出したことも、ラハとベーク=ラグのしていた魔器の開発だって何をしているか理解しきれなかった。ラハには「まああんたはそうだよな……」とため息を吐かれた。毛ほどの興味でも芽生えていることを期待したのだろうか。残念ながら無理である。私には向いていない。本当に。
そういうわけなので、私が何かをするまでもなくラハはベーク=ラグたちの力を借りて第一世界から原初世界に帰るためのすべを作り出し、無事暁の賢人たち、および暁の血盟新人たるラハは元の身体へと帰還を果たしたのであった。
暁の血盟に入りませんか、と勧誘したのはウリエンジェだったし、調子を整えるのに使ってどうぞと石の家の一室を開けたのはタタルさんだったし、クリスタルタワーが悪用されないよう結界を張る手伝いをしたのはクルルだったし、それから鈍った体を鍛えるのに付き合いなさいと鍛錬に連れ出したのはアリゼーとサンクレッドだった。
私はといえば、みんな無事ですよと第一世界と原初世界の各地に報告して回ったり、溜めていたお得意様方への納品作業やら何やらに時間を割いていた。実のところ、あれから石の家へは寝泊まりと様子見くらいでしか帰れていない。
タタルさんがラハに作った旅装はとても動きやすそうで良かった。
「やっぱりね、サンダルはよくないよ。前衛もこなすなら足の踏ん張りききにくいし」
「あー……まあ、うん、そうだな」
まあ前衛には私が出てたんだけど。製作者のタタルさんはラハの隣で肩を竦めていた。
タタルさんがラハの意向を聞いて旅装を制作していたのは知っていた。靴がこういう、私が履いているみたいなブーツがいいっていうのでモデルサンプルに貸し出したりもしていたので。
それで、出来上がって真っ先にお披露目にお声がけいただけたので、上から下までしっかり眺めてからの私からのコメントがこれ。水晶公、サンダルなの気になってたんだよね。
武器は杖の素材にクリスタルタワーの一部を使ったらしい。タタルさんは戦々恐々としていたが、ラハって実質持ち主みたいなものだし、ラハがいいならいいんじゃないかなあ。
そうしてラハがすっかりオールラウンダーとして動けるようになった頃、数年越しの生身の身体のリハビリに時間を費やしていたみんなの調子も戻り、私たちは暁の血盟として本格的に活動を再開すべく話し合うことになった。
サンクレッドとウリエンジェは帝国へ潜入調査――の前に、その帝国の件で同盟軍で会議を行うのだとリセがやってきたのでそちらへ。
アリゼーは罪喰い化の治療を生かしてテンパード化の治療を目指したいというので、会議は欠席ということになった。まあ全員が全員行ってもね。
「よければ、あなたも手伝ってくれない?」
「そりゃ勿論。じゃ、会議のほうは私とアリゼー、ラハは欠席ってことでよろしく」
「えっ」
「え?」
声を上げたのはラハだった。
ぴんと耳が立っている。ミコッテのリアクションは私はいまいち分からないのだけれど。
「え、会議のがいい?」
「い、いや、オレもそっちでいいのか?」
「なんで? 一緒に行こって言ったじゃん」
まさかラハも会議好きになったのか。まだ運動派寄りだと思ったんだけど。
ラハが何かを言うより先に、ヤ・シュトラがふふ、と笑った。
「誰も反対なんてしないわよ。思う存分、英雄と冒険してらっしゃい」
「そっ、そういうつもりじゃ……」
どういうつもりだかなんだかはよく分からないけれども、特に異論がないなら、そういうことで。
ヤ・シュトラには「ようやく出番ね」と声をかけられたけれども。違うんだって。みんなが先にやってたからだって。……出番といえば出番だけど!
しかし手伝うよ、とは言ったものの、私は理論的に罪喰い化の治療とテンパード化の治療を結び付けることが出来ない。説明してもらってようやく理解できる程度である。なのでこれからどうするかの話はほとんどアリゼーとラハの間で進み、私はそういえば闘神の呼称を聞いた気がするなあ……と思いだしながら久しぶりに魔大陸、アジス・ラーへ足を踏み入れた。タタルさんたちありがとう。こんど私も素材集めにいくね。
「ここがポート・ヘリックスだから、アルファ管区……ならあっちがベータで……」
「まずどこ行ったらいい?」
「ああ、たしかこの先に情報端末があるはずだ。まずはそれで、テンパードについて検索してみよう」
あのまるっこいやつかしら。私も何度か来たことはあれども、そう詳しいわけではないので案内役はラハに任せきりになりそうだ。
クリスタルタワーに記録が残っていただとかでこの場所の知識のあるラハは迷うことなくその情報端末のもとまでたどり着き(まるっこいやつじゃなかった!)、操作をし、蛮神のテンパードもとい闘神の汚染者についてのレポートを探し当て、そしてそれを開くために住民の居住区があのへんにあるから、とまで言うので話が早くて助かった。
「そういえば、あなたもシャーレアン出身なんだっけ」
……はい、実はそうです。
ラハがレポートを直接取りに行ったので私たちは手持ち無沙汰に待機することになり、アリゼーが言う。
「だったら知ってるかしら。レポートで思い出したんだけど、シャーレアン魔法大学では卒業時に自由なテーマでの論文提出が求められるの」
「ああ、そうらしいね」
アリゼーも論文を提出したらしい。どちらかというと私のように体を動かすほうが得意なアリゼーは、アルフィノと比較するとというだけで、十分秀才なので魔法大学を出ているのである。その年にして。文武両道というやつか。
そうしてアリゼーの口から語られるアルフィノの話は、彼の強さを示されるようで、どうにもあまり物事を深く考えない私には出来ない芸当だなと実感させられる。
「……聞いてもいい? あなたって、いつシャーレアンを出たの?」
「あー……いつだっけ…………? 十年くらい前……?」
住んでいた記憶は遠い昔だ。あれから一度も帰っていない故郷に対して、故郷だという感覚はあまりない。
「ま、そのくらい前の話にもなるわよね。あなたってシャーレアンの人っぽくないもの」
難しい話キライだし、と付け加えられた言葉にまったくその通りですと苦笑する。
もちろん場は弁えているつもりだ。私が理解しなければいけないことはちゃんと聞くし、私なりの結論を出すことだってある。だけれども向き不向きがあるのは仕方がないことで。
「言いたくない気持ちも少し分かるけど。でもちょっとくらい、教えてくれたっていいじゃない。同郷の人に故郷の話をしてたの、恥ずかしいんだから」
「や、どのみちシャーレアン本国よりバル島にいた時間のほうが長かったから……」
「やっぱり! だからクルルともあんなに仲良いのね」
「でもオールド・シャーレアンにあんたの知らない場所、ほとんどないだろ」
げえ。タイミングが悪い。戻って来たラハはしたり顔で、アリゼーが過敏に反応する。
ほとんどないと言ったって、ラヴィリンソスの奥だとか大書院だとか魔法大学だとか、部外者の立ち入りが禁止されていたりそもそも私の興味が湧かない場所はよく知らないままだ。
「なんならルヴェユール家の邸宅だってよく知ってるくせに」
「はあ!?」
「ばっ、バカやめてよそんな不法侵入したみたいな言い方! してないからね! 遠くから見てただけだから!」
「はあー!? なによ、じゃあ私たちのことだって知ってたんじゃない! なのに黙ってたの!?」
「やっ、違う、違うんですよ、だって会うのは初めましてだったじゃん……」
「そうだけど!」
そりゃまあ、ルヴェユール家は有名だし、議会だってあの街に住んでいたら知らないほうが無理だし、フルシュノさんのご子息のことだって知ってましたけれども。
でもなんか、そういう有名な人として会うのはなんか違うでしょう。私はあまり、そういうことに興味がなかったのもあるし。
アリゼーは「もうっ、なんかむしゃくしゃするわね!」と言ってから、ラハの持ってきたレポート――とおもわしき端末に話を向ける。
私はほっとしつつ、それからラハに余計なことを言うなと睨んでから戻った本題に乗った。 [
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