オマケの例のパン

 タタルさんに幼い頃の記憶を思い切り掘り返された。
 原初世界へ帰る方法を探す第一世界のみんなのために、差し入れを作ったから味見をしてほしい――そう言われて、私は何も考えずにそれを口に入れたのである。
 だって相手はタタルさんだ。
 タタルさんの作るものに間違いはない。衣装だって冒険にピッタリ、イメージにもぴったりなんだから。

「…………!?」

 なので油断しきっていた私は悶絶したわけである。
 てこの原理で持ち上がる天秤のように、味覚への強すぎる刺激と共に記憶が跳ね上がるように蘇った。

 この味は……賢人パン……!

 あれを食べなくなって長い長い年月が経ち、その間に私の舌はこれへの耐性が消え去っていたらしい。
 昔から賢人パンが不味いことなんて分かりきったことなのだが、本当に、不味い。喉がヤバい。両親がこればっかり食べているからキレて私が作ったほうが早い! とフライパンを手に取ったことまで思い出した。
 食べ慣れている人はジャムを塗るなりサンドイッチにするなりしてしれっと食べてしまうが、そもそも普通に美味しいパンを食べればいいと思うの。

「この味、懐かしいわねー……」

 クルルがしみじみしていた。
 再現度高すぎるよタタルさん。

 そういうわけでタタルさんには暁のみんなに加え追加で一人分多めに包んでもらい(居合わせたクルルとラムブルースには意味深な視線をもらったので深々と頷いておいた)、クリスタリウムへ行けばちょうどみんな集まっていたので押し付けて行く。
 リーンが興味津々だったけどサンクレッドもいるし大丈夫だろう、たぶん。お茶と口直しを用意してお召し上がりください。
 それからもう一人、私にとって本命と呼ぶべきその人はソウル・サイフォンの件で根を詰めていると聞いたので、深慮の間に顔を出したらベーク=ラグと一緒に思考錯誤している最中だった――本で散らばっているのは変わらないようだ。片付けたらいいのに。
 私に気付いたラハが作業の手を止めたので、まあいいかな、と思って声をかける。

「ラハ、口開けて」
「えっ っ〜〜〜〜!?」

 勿論不意打ちで賢人パンを叩き込みに来たわけだ。

 味覚への大打撃と口の中で暴れまわる衝撃にむせてるんだかうめいてるんだか分からないリアクションは私にとって百点満点である。
 よーしミッションコンプリート、タタルさんに喜んでたよ! って報告に行かなければ。

「まっ、待て、おまっ、いま、これっ!」

 面白いくらいの大混乱。これにはタタルさんもにっこり。

「待て待て待て待て、なん、なんで賢人パン……だよな?」
「おかわり入りましたぁー」
「入ってない入ってない!」

 それでも私はパンを食べさせたい。
 両手にパンを構える私、宥めるように両手を前に出して距離を取ろうとするラハ。
 いくらラハが魔術の扱いに長けていようとも、接近して抑えてしまえば私の勝ちである。押し込んで終わりだ。

「わかった、わかったから待て! それを食べるには準備がいるんだって!」
「これは勝手に塔を封印した分! これは光のことを言わずに勝手に死ぬ気だった分! あとまともに寝食取らないで研究に没頭してる分!」
「リアクションに困るからやめろ! 怒るにしたってやり方があるだろ!?」
「突然何をしとるんだ、お主たちは……」

 あ、お騒がせしました。

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