受け止める腕
そら、と江澄に両手を差し伸べられ、金凌は目と口を固く閉じるとそこを目掛けてえいっとふちを蹴った。
「目を閉じるやつがあるか、それでは何も見えんだろうが」
江澄は呆れ口だがしっかりと金凌の両脇を掴んで支えている。波立つ水面が落ち着いたと感じてからようやく金凌は目を開いた。
雲夢江氏は水に慣れ親しんでいる。蓮花塢と湖が隣合っているからだ。現れる水妖のこともあり、水泳は江家の者にとって必修の一つである。
金凌は金家と江家を行き来しながら育てられたが、まだ泳ぎを教えられたことがなかった。
江家の者は暑さに負けて湖に飛び込んだり川遊びをしているうちに泳ぎも上達していくが、そういえば阿凌が湖に飛び込むようなことはなかったな、と思い至った江澄が「泳いでみるか」と声をかけ、金凌は恐る恐る水中に足先を差し入れることになったのだ。
なるべく浅い場所を選んだが、それでもまだ幼い金凌には十分深く感じられることだろう。
「そう身を固くしては浮きにくい、もっと力を抜け」
そうは言っても金凌は水に怯えて江澄にしがみついている。
水中に慣れない人間はこんなものだったか、と久しく見た記憶のない怯えように、江澄はあえて金凌をひっぺがして己の手を掴ませた。
「掴んでて! ぜったい離さないで!」
「分かった分かった、掴んでるから顔を水につけてみろ」
えいや、と勢いよくばちゃんと水面に顔を伏せて一瞬で上げた金凌の目と口は固く閉じていた。顔を拭いたいが両手を離したくない金凌は勢いよく左右に頭を振って水気を払う。
「おまえな、それは顔を洗ってるのか?」
思わずといったように江澄が笑い、金凌は「だって!」とむくれるものの、それより先の言葉は紡げない。
「だっても何もあるか。ほら、もう一度。十を数えるまで」
いくらか躊躇したあと、おおきく息を吸って顔を伏せる。江澄がわざとゆっくり数えたので、五にもならないうちに金凌が顔をあげて「意地悪!」と叫んだ。
ほう、と江澄が底意地の悪い笑みを浮かべる。
「それならこの手はいらんか」
「要る要る要る! うそだよ! 絶対離さないで!」
「なら今度は水中で目を開けてみろ」
「…………目に水が入らない?」
大丈夫だ、と江澄は呆れ顔で言ってやった。
いつ泳げるようになることやら。 [
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