ちゃんとまた行った

 朗らかな笑みがじっと己を見つめている。弟とは異なり会話好きの面がある彼は一足先に食事を終え、一口が大きく見ていて気持ちの良いほどの食べっぷりな江澄を眺めていた。
 目は口ほどにものを言う。藍曦臣よりよほど大食らいな(江澄に言わせてみれば向こうが少食すぎるのだが)江澄はどうしても食べ終えるまでに時間を要するので、目の前の男がちまちまと食べ終えた頃にも未だ腹がくちくなることはない。
 紆余曲折、食事の時間を取ることを惜しむほど忙しい生活から解放され、徐々に食事量の増えて来た江澄は大食らいであること、どうしてこんなに食べるようになったのか、それらをこの頃には自覚していたので居心地の悪さに目を逸らした。
 この年になるまで浮ついたようなこともなく、姉夫婦の忘れ形見を育てて来た己に対して愛を告げた男がさっきから向けてくる笑みの理由は察している。
 与えられる側だった江澄も、姉がどうして弟たちにものを食べさせて自分は眺めているばかりだったのかを金凌を育てるうちに理解し、共感できるようにまでなった。
 だからこそ居心地が悪い。今更素直にその視線を受け入れられるような性分でもなければ、視線の理由を察していれば拒否もなかなか難しくなってしまう。
 もぞりと背中のあたりを動かし、空いた小皿にひょいひょいと藍曦臣の箸がよく進んでいた味付けのあっさりしたものをひと口ずつ分けて目の前の男のほうへ寄せた。
 まだ入るだろう。そういう意図でもって分けて寄越した小皿を受け取り、藍曦臣は笑みを深める。
 食事中の会話を良しとしない家規に従って藍曦臣が言葉を発しないので、江澄もまた同じように話さない。
 雲深不知処で勉学に励んでいた一年の間に散々見てきた食事風景を正気ではないと江澄は未だに思っているが、さすがに藍曦臣との沈黙には慣れるだけの月日が経っている。
 食べている。
 目の前の男は上品に箸を運んでいる。江澄にとってのひと口を半分に分けて。頬いっぱいに詰め込むでもなく、時間をかけてゆっくりと。
 誰かが、特に己にとって大事だと言い切れるような人が食事をしているところを見ていると心が穏やかになる。
 いつかの過去に戻ったかのようでそうではない。何も気付いていなかったあの頃の江澄ではない。
 生きている。
 命を繋いでいる。
 そう思えるのは死ぬかもしれないという時を過ごしたからか。だがそれだけではない。
 口が裂けても決して言うことはないけれど。

「やはり好いた人とゆっくり過ごせるのは嬉しいね。美味しかったしまた来ましょうか。……あいたっ、ふふ、どうしたの江澄」
「うるさい」

 ……代わりにこの人が言ってくれるので。

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