その2

バケットを持った子供たちは今度は付近の長蛇の列に興味を持ったようで、光彦があれは何の列でしょうか、というので安室は簡潔にこのエリアの舞台の主人公たちによるコンサートだと答えてやった。

「歩美見たい!」

目をきらきらと輝かせた女の子には敵わなかったようで、ここ最近リニューアルされたそこに並ぶことになった。一度に大勢を案内してのショーなので、ポップコーンを食べながら地図を見てこれは何、あれは何と言い合っていればすぐに席へ着けた。
おおよそ15分ほどのショーは海底王国で行われるコンサートだ。ところが主役の主人公が見当たらず、といういわゆる2.5次元ものである。歌い上げる主人公たちの観客がそこに招かれた人間たち、もとい安室たちゲストである。
一緒に手拍子をしたり、飛んできたシャボン玉を弾けさせたり、楽しめたようで最後には子供たちも自然拍手を贈っていた。

そうしてショーを楽しんだあとは安室が奥のプレイグラウンドへと案内した。
こちらもまた散策型のアトラクションである。凝った仕掛けのある公園、くらいの感覚だろうか。
海草の迷路に漁師の網を模して天井付近に張り巡らされた吊り橋。室内なので外の天候に左右されず、ほどほどに大人が休憩しつつ子供を遊ばせるには丁度良い場所でもある。身長制限などもないので親子連れには人気なのだ。
ちいさな子供に混じって女子高生のグループが遊びまわっていた。安室たちも走り回るまではしないがぐるりと一周見て回るくらいはする場所である。
迷路をお気に召した子供たちが駆け出すのを人が多くぶつかってしまうからと走らないよう注意して、監督代わりに安室がのんびりと後を追う。興味深いのか沖矢も辺りを見渡しながらついてきて、ベルモットも一人壁の花を決め込む気分ではなかったらしい。転んでも怪我をしないよう床が柔らかくなったそこを歩きながら、微笑ましいわねと呟いた。
まさかこうして保護者代わりになるとは思っていなかったからだろう、感慨深い気もする。まあそれはこの場にいる大人三人、共に言えることだが。

ひとしきり遊ぶ前に子供たちの興味が逸れ、あっちはなんだろうと海に沈んだ沈没船に入っていく。
薄暗いそこはさほどの広さはない。この船の船長だったのだろう写真が置いてあり、ちょっとした仕掛けに「おもしろーい」「でもちょっと怖いですね……」「どうなってんだ?これ」と子供たちが言い合う。
何をいじったのか、突如として何かがとんだような音がした。きゃあと悲鳴をあげて歩美が耳を塞ぐ。

「あはは、ここは怖かったですね。隣のところはちょっと面白いから、そっちに行きましょうか」

怖いところは怖いが、楽しいところは楽しい、そういう場所だ。
安室の言った場所は薄暗い洞窟だったので、歩美は恐る恐る足を運ぶもののそこに流れる曲は穏やかなものである。
時折ピカッと光るくらいで何があるわけでもない岩場だ。安室とベルモットがお手本のようにその岩に手を伸ばす。
一瞬の光のあとに離れると、岩にその形の影ができていた。そうやって影を作って遊べる場所なのだ。

「安室さんとベルさん、いっぱい知ってるね!」
「まあ、よく来るからね」

よく来るっていうレベルでなく熟知しているだろとコナンは内心で思った。持たされた愛らしいポップコーンバケットの中身を時折食べながら、なんだかんだ面白くてまじまじと見てしまう。
ケープオブシャドーというらしい洞窟を抜けて次の洞窟へ入ると、そこは人間の世界から集めてきた様々なものが置かれている洞窟だった。中にある道具は触れて遊ぶもので、音が鳴ったり、中を覗き込んたり出来る。

更にその奥にあるのはシードラゴンの骸骨で作られたトンネルだ。紫の照明とそれがあるだけでどこか異質な空間を演出しているその先は人魚姫に取引を持ちかける海の魔女の棲みか。
不気味な雰囲気のあるそこは明るく賑やかなラグーンらしさがない、と言っていいだろう。鏡からはその魔女が声をかけてくるし、怖いと思っても仕方がない。それでもぐるりと回って、「面白かった!」の言葉を引き出せたのは夢の国パワーか、安室のガイド力か。

「そろそろいい時間だしお昼にしようか。何食べたい?」

言いながらレストランガイドを出してくる辺り、そつがないという印象を受ける。ジャンルは幅広くあるようで、和食やピザ、パスタからハンバーガー、カレー、ブッフェ形式にコース料理を出す店まであるらしい。
子供人気といえば、と、満場一致でカレーになったので海底王国を出ることになった。カレーを出す店は比較的近くにあるのですんなりと移動をして、どのカレーにするかをあれこれ言い合いながら迷う。
暫くして各々が決まったものを口々に言うので、安室はそれを暗記してベルモットに席の確保と子供たちの引率を頼んだ。

「あ、沖矢さんはこっち。流石に全員分は持っていけませんから」
「ああ、はい、分かりました」

子供たち全員を任されたベルモットはいいわよとすんなり受け入れ、二人が列に加わったところでこっそりとコナンに「子供たちのことは頼んだわよ」と囁いた。丸投げである。

「…………いや、いいけどさあ」
「まあ、見るだけ見てるわ」

とはいえ仕切ってくれる光彦がいたので、このへんにしましょうか、と空いている机を引っ張り並べて7人が座れるようにする。
ねえねえ、と興味津々にベルモットを見つめたのは歩美だった。

「安室さんと仲良いの?おともだち?」
「ええ、そうね」
「何したりしてるんですか?」
「そうねえ、普段は食事に行ったりショッピングをしたりね。後はこうしてここに来たり」
「仲良しなんだね!」

にこにことしている歩美にええ、と頷いて微笑むベルモットの一方で、コナンはぞぞぞ、と背筋が粟立っていた。
そうやって敵と遊ぶのも情報収集とか潜入捜査の一環なのだろうか。そうだと信じたい。
何やってるの安室さん!というのがコナンの心境である。

「彼、コーディネートが上手いから連れて行くと便利なのよね」

分からなくもなかったが後半はあんまり子供の前で言って欲しくなかった。ハハ、と愛想笑いをして、「安室さんオシャレですよね」と光彦の相槌にそうだなと思う。

しばらくして沖矢を引き連れ戻ってきた安室は、自分が話題の渦中にあったなど知らずにひとりずつに配膳してやって、運んできたトレイを持つとお水貰ってきますねー先食べててどうぞ、と早々に席を離れてしまった。
沖矢が空いている適当な席に座ると何の話をしていたんですか?と首をかしげる。

「安室さんがおしゃれって話!」
「ああ……そうですね、たまに見かけますが、いつもセンスの良い服を着ていたような」
「でしょ?」
「なあもう食っていいか?腹減った!」
「だめですよ、安室さんが戻ってから一緒に食べるんです!」

安室は先に食べていていいと言ったが子供たちは律儀に待つつもりのようだ。
千夜一夜な世界観のレストランのカレーには、ライスとナンが付いてくる。安室の主観であるが一般的に売られている日本人向けのカレーよりは辛いほう。学校の給食カレーを食べ慣れていると辛いかもしれないと安室は思ったのだが、存外彼らは喜んで食べきった。
美味しかったと笑顔で言うなりすぐさま次はどこへ行こうと園内マップを広げる切り替えの早さは子供こそだろう。安室は食後の皿を纏めながら、マップ上の入口から見て右側中央をぐるりと円を描いて指す。

「今はこの辺り。ここのは全部待ち時間はそこそこだし制覇出来るんじゃないかな」
「メリーゴーランドとかもあるから子供向けね」
「来る途中にあったところ?」
「二階建てのあれですね!」

そうそう、と頷くと子供たちは喜び勇んで、次の目的地が決定した。

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