その3
二階建てのメリーゴーランド、というのは、滅多に見ないようで実はそこそこあったりする。流石に全国各地にあるわけではないが。そのうちのひとつであるアトラクションは宮殿の中庭にあった。
ドーム屋根のそれは宮殿と一体化しており、まさしく千夜一夜の物語に入り込んだようでもある。
一般的なメリーゴーランドといえば乗り物は馬だ。もちろんこのアトラクションにも馬はいるが、ゾウやラクダ、ランプの魔人などもいる。
二階に行きたい!と子供たちが熱望したのでアトラクション内の階段をあがり二階へ。並んで順番を待つなか、どれに乗ろう、あれがいい、と口々に言っていればすぐに通された。
走らないように、との言いつけを守って、けれども一目散にお目当てに向かって行く。魔人は人気があるのですぐ埋まってしまい、どれでもいいやと言ったコナンを除いた三人のうちだれが乗るかじゃんけんをした。勝ち抜いたのは光彦だ。
子供たちの身長ではひとりで乗れないので、保護者の面々でサポートしてやる。何かあっても対応出来るようそばについてやれば、歩美が不思議そうに言った。
「ベルさんたちも乗らないの?」
「え?……そうね、私たちは遠慮しておくわ」
ベルモットは肩を竦めた。とはいえ大人が乗ってはいけないもの、というわけでもなし、実のところ安室たちは過去来たことはある。魔人を取り合うなどと大人げない真似をしたことはないが。ただ今回は子供たちの手前、流石に乗る気はしなかった。
エキゾチックな音楽と共にゆっくりと回りだし、子供たちが無邪気にはしゃぐ声を聴きながらなんとなく以前乗った時のことを思い返してみる。
たまには普段乗らないアトラクションに行こう、という話になって、しらみつぶしに制覇していた時のことだ。空飛ぶ絨毯のほうは大人が乗るには心もとない乗り物に加え遠心力でちょっとひやひやしたので楽しむどころではなく、もっと安心安全がいいとメリーゴーランドまでやってきて、思いのほかはしゃいでいた記憶もある。
しかし子供たちの前でそんなところを見せるわけにもいかないし、子供が乗っている時は保護者がついてやらなければならないので。
何周かしてゆっくりと止まったところでベルモットは馬の上にいた歩美の安全ベルトを外し降ろしてやった。
「ありがとー!」
「どういたしまして」
無邪気な子供と接するのはいつぶりだろう。懐かしいような心地になりながら、先を行く子供たちの後を追った。
「さて、お次は?」
「はい!僕、あのシアターに行きたいです!」
手をあげた光彦がすぐそばを指さした。マジックショーを見れる場所だ。現実と3D映像を組み合わせたものでもある。
待ち時間は日によってまちまち。すぐさま入れることもあれば、一時間ほど並ぶ必要がある日もある。今日はすぐに入れるようだ。
一度安室がどんなアトラクションか説明していた際に興味を引いていたこともあり、揃ってそこへ向かうことになった。
さて、このショーは自称世界で一番偉大なマジシャン、実際は三流もいいとこである男がマジックを披露する。
召使いと共にマジックをしながら旅をする男はある日、召使いの見つけたランプを取り上げ、魔人を呼び出し、世界一偉大なマジシャンにしてくれ!と願いを叶えた。
だがどんなに凄いマジックが出来てもエンターテイナーには向いているのかいないのか、人気は相方にした魔人に奪われるばかり。
そこで男は魔人をランプごと箱に閉じ込め鍵をかけ、ワンマンショーを目論む。魔人を開放するべく召使いは鍵を探しており……というところからワンマンショーが始まる。
この背景はショーが始まる前にあるコブラが教えてくれるものだ。入口で魔法のメガネを受け取り、その話を聞いてから改めてショーを行う会場へ案内される。
入るとすぐに鍵を探す召使いが現れた。会場のゲストたちに見ていないかと尋ねる。
「コナンくん、はいこれ」
「え?」
「鍵を探してるんだってさ」
おもむろに安室に手渡されたのは彼の車のキーだ。ええ?とコナンは困惑しながら、とりあえず言われるがままに声をあげてみた。
「ねえ、これはどう?」
「えっ、あった!?」
見せて、と言いながら近寄ってきた彼はコナンの掲げるキーを見て、ううん、と首を捻った。
「これはちょっと違うかも。もっと大きな鍵を探してるんだ」
言うなり彼は他のゲストたちへも呼びかける。誰か見てませんか?と言いながら、誰かが鍵を見せればそれは違うとコメントする。
観客も参加出来るショーなのだ。最後に彼は席の下にはなかったか、見てくれないかと声をかけた。
「ないよー!」
「ありません!」
「こっちもなかったぜ!」
ひとりでずるい!とコナンを羨んだ子供たちが喜々として座席の下を覗き込み、結果を報告する。
「そっかあ……みんなありがとう」
がっくりと肩を落としたところで音楽と共に彼の主の声が響く。マジックショーの始まりだ。
どのような展開だったかは端折っておこう。
ショーも終わり、魔法のメガネを返しながら感想を言い合う。楽しんでくれたようで何よりだと安室は内心で深く頷いた。
ベルモットが取りに行ったFPの時間も近づいて来ている。余裕はあるが子供もいることだし、遠くへは行かないほうがよさそうだ。そこまで近づきつつ空いている場所に寄り道をするのが無難だろう。
「そういえば火山大丈夫そうならFP取ってくるわよ」
「あ、そうか。まだ残ってます?」
「ギリギリ8時台ね」
「んー。君たち門限何時?」
安室が聞いてみれば、閉園時間までいられるようだった。沖矢あるいは博士への信頼が厚いらしい。まあ折角のテーマパークだ。どうせなら最後まで遊んで行きたい。
「じゃあお願いします。後で連絡しますから」
「はいはい」
再びベルモットは一時離脱。彼女の向かう先は地底探検の舞台である火山。なお子供たちは急発進と急降下は存外問題ないようだった。乗り気ですらある。まあタワテラもいけたし。
「実は取っておいたFPの時間までまだ少し余裕があるんだよね。あんまり離れるといけないから、どうするか君たちに選択肢だ」
1.この付近のアトラクションに乗る
2.夕飯をきちんと食べれると約束出来るなら、食べ歩き
3.ゲームワゴンに挑戦する
言いながら近くのアトラクションは、とマップを出してやる。付近でまだ乗っていないものは比較的短時間で乗れるものが多いし、選び方によってはふたつは乗れそうなところもまあ、ある。
子供たちは顔を突き合わせてどうしようか話し合った。顔ぶれに混じることには混じっていたコナンだが、さほどこだわりはないようでお前らに任せるといったスタンスだ。
結局子供たちはアトラクションを選んだ。とにかくたくさん乗りたいようだ。ひとまず気になっていたのはこのエリアに来る前に通りがかった、ラグーンの外側にあるジェットコースター。
子供向けのちいさなものだ。人魚姫の親友がトビウオを率いて作ったジェットコースター。オッケー、と頷いて、安室は我先にと向かう子供たちの後を追った。
さてさて、先ほど遊んだエリアに戻って来た一行は目的のジェットコースター列に加わる。あとはあれに乗りたいこれに乗りたいという話を聞きながら、安室は移動ルートを考える。
シー。海と呼ぶだけあって園内は水路が多く、掛けられた橋を渡る必要があったり中央には火山があるものだから移動の負担は大きい。苦ではないがあっちへ行ったりこっちへ行ったりして移動に時間を割くのも勿体ない。いや、ベルモットが文句を言うものだから。安室としては遊べればなんでも良いのだけれど。グリーティングとエンカウントすることもあるし。
子供たちはいかにアトラクションに多く乗るか、遊ぶかに重きを置いているようだったので、まあそっちは運とタイミング次第かな、と考えないことにする。陸のほうだと会いに行くことも多いようだが、今回海は初なので、とにかく色んなところに行きたいのだろう。
現在並んでいるジェットコースターは周囲が見渡せない位置に列があることもあり、暇を持て余した子供たちが手遊びをしているのに混じりながら(いつの時代も流行る遊びは変わらないなあ)などと思っているうちに順番がやってきた。ただし手遊びの名称には地域差がある。いっせーのせとか、ちゅんちゅんとか。
「ぐっとっぱーでわっかれっましょ!」
この掛け声も地域差がある。とはさておききっかり六人なので中々分かれきれず、「しょ!」を繰り返している間にキャストのお姉さんに人数を聞かれた。指定された番号の列まで行って、前がいいとかはじゃんけんで決められた。なお安室、沖矢、コナンは余った個所に適当に入った。
ちょこっとスリルを味わうにはうってつけのアトラクションは楽しめたようだ。出口で待っていたベルモットと合流して、続いて船乗りと子トラと共に航海へ出発することにした。
「陸のほうでも思いますけど、結構滑らかに動きますよね」
「そうねえ」
ちいさな世界の海バージョンとも思われるそれは船乗りと子トラの冒険を追うストーリー仕立てだ。
「あー平和」
「陽気よね」
一度リニューアルしているのだが、以前は相当ダークな雰囲気であり、巨人と戦うし、猿は暴れて岩を投げようとしてくるし。
リニューアルされてからは巨人と陽気に歌うし猿は平和にバナナをくれる。それはそれで面白いし子供のトラウマにもならないしで良いのだが、こう、なんとなく、以前を知っていると物足りないというか。大人の余裕でもあるが。巨人の歌声は良い声だなと思う。
嵐のシーンでは雨に降られたりもする。下船する頃には乾いている程度のものだけれど。
沖矢が眼鏡を濡らしてしまったらしく拭っているのを横目に安室は内心ザマアと思っていた。
「ん?バナナの匂い……?」
ほんとだ!と子供たちは仕掛けに喜び、コナンは凝ってるなあと感心し、沖矢はホーとだけ呟いていた。
匂いの仕掛けは陸のはちみつ大好きなくまのアトラクションなどにもある。
閑話休題。
下船するとちょうどFPの時間に差し掛かったところだった。指定の時間内に列に加われば良いので、向かうことにする。
行先はパークの最奥に位置する、古代文明遺跡発掘現場をモチーフにしたテーマポートだ。分断する河に掛かった橋を渡り、魔宮に向かう。
列の入口でキャストに身長を図って貰って、FPを見せてから列に加わる。身長制限はギリギリだった。
これから乗るのは有名な映画シリーズが舞台となっており、博士が現在調査中の巨大な魔宮を探検するアトラクションだ。
ただし、博士の案内のもとではなく、その助手が勝手に企画した若さの泉を探す魔宮探検ツアーに参加する、というストーリーだが。
ハイスピードでの急上昇、急降下、急旋回などはないが、レールに沿って落下するジェットコースターとは違い、前後左右に大きく揺れる。結構、かなり。
FP待機列はサクサク進み、人数を告げてジープに乗り込む。スタンバイ列には博士の作業机と思わしきものもあり、かなり作り込まれていたりするのだが見ている暇なく進んでしまったのでさておき。
「若さの泉を探すんですよね!」
「誰が見つけられるか競争しよーぜ」
「ぜったいコナンくんより先に見つけるんだから!」
「俺が見つけること前提かよ」
無論探せそうなら探すつもりのコナンである。
「お、一番後ろ」
「両手を挙げやすいわね」
「後ろのこと気にしなくていいですからね」
賑やかな子供たちとは反面、安室は慣れた様子で荷物を納め、ベルトをつけ、サングラスをかける。ベルモットはかけっぱなしである。
かなり揺れるので荷物は手前の荷物入れに入れ、傘などは足でしっかり挟み押さえることをおすすめする。適当にひっかけておくだけだと振り回されて危ないからね。
では子供たちはノーヒントで若さの泉を見つけられたか、というと。
「…………あった?」
「見つけられませんでした……」
「あー楽しかった!腹減った!」
立ち止まってゆっくり探せるわけではないので、これはちょっと難易度が高いのかもしれない。
うーん、と首を捻ったコナンが、隣を歩いていたベルモットを見上げた。
「反射?」
「あら、一度で見つけたの?」
思い浮かべた個所で正解だったらしい。なるほどと納得していれば、聞きつけた歩美たちがやっぱりコナンが見つけたと落胆している。
「もっかい乗りたい!」
「今度こそ見つけます!」
あと写真もちゃんとポーズを決めてみたいらしい。ここでも撮られる個所があり、安室とベルモットは両手をあげていた。
今度はFPがないので普通にスタンバイ列に並ぶことになる。待ち時間は人気のアトラクションだということもあって長い。
それでも良いかと聞けば、構わないらしい。もう一度、並びなおすことにした。
夢の国雑学やら手遊びやらしりとりやらで時間を潰し、いくらかヒントを貰って若さの泉を見つけた子供たちは満足したようだった。
(インディまで乗ったのでここでおしまい!) [
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