或いは後日談

閑話休題

 レオナルド・ウォッチの眼は本来人の目には到底うつらないものが見える。例えば壁の向こう。例えばだれかの視点でうつる物事。それらはレオナルドの眼孔におさまる神々の義眼がもたらす影響で、だからこそレオナルドはHLにいた。
 それはたまたまだった。血界の眷属の名を読み取るべく義眼を使い負荷をかけるレオナルドの視界の端に、なにかが見えたのだ。その時は緊急であったし名を読み取ることを優先したけれど、一通り落ち着いた頃合にレオナルドはもう一度義眼を開いて、上司であり仲間であるスティーブンをみつめた。
 ただしくは、スティーブンの斜め上を、だ。
 ふわふわと重力を無視してだれかが浮かんでいた。まさかと驚いて声をあげようとするレオナルドに気付いたのか、それはレオナルドのほうをみて、目を丸くする。そうしてレオナルドが声を出すよりも先に口元に人差し指を立て、シー、と、こっそりと笑んで。

 きっと害はないのだろう。何よりマグカップ片手に資料を睨むようにしているスティーブンを見つめる表情がとても心配そうなものだったから、レオナルドは自然強張っていた肩の力を抜いて、「スティーブンさん、たまには息抜きでもしたらどうですか」と声をかけた。



閑話休題

 どうにも彼女は怒っているようだった。ぐいぐいと背中を押されてつられるように歩く。鉛でも繋がれているかのように足は重く、きっと押されなければ一歩も動けずに座り込んでしまっていただろう。
 彼女が背を押している。なにかを言いながら、怒りながら、どこか泣きそうで、とにかく彼女は必死な様子だった。

 なにをいっているか、わからないよ。

 スティーブンはそう言ったつもりだったのだが、果たして彼女へ届いたのかどうやら。
 ただそうして彼女に背中を押されながら、スティーブンは機械的に足を動かしていた。ゆったりと、延々と。


閑話休題

「もしかしたらあの時、あの世に行っていたのかもしれないなあ」

 へ?とレオナルドは間の抜けた声をあげた。糸のように薄く細められた目はそのままだったが、なんです?と聞き返す。
 病院のベッドに横たわるスティーブンは生死をさ迷うほどの怪我を負った影響で、どうにか首だけが動く状態だった。いくら異界の医療技術が便利だろうと怪我を負えば自然それだけの影響は出てしまう。首だけを動かしてスティーブンは窓の向こうへ視線を向けていた。
 まるで夢見心地であるかのような口ぶりで彼は言う。

「前にね、死んでしまったあの子と話せたような気がして」
「…………それって」
「はは、不思議な夢も見るものだね」

 思わずレオナルドは口ごもってしまったけれど、スティーブンはそう言ってそれが夢であると自己完結したようだった。
 彼はそのまま窓の向こうを見つめている。病室には、いまはレオナルドとスティーブンしかいない。軽く息を呑んだレオナルドは、そうっといつも細めているまぶたを持ち上げた。青い瞳はさまざまなものをうつし出す。

 ベッドの脇に女の子が腰掛けていた。心底安堵したように微笑んで、彼女はただただスティーブンを見つめていた。

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