学校帰り、夕食を家ではなく外でミサキと済ませていた。これから画塾だ。冬休みに入れば学校も休みが多くなり特に受験シーズンの三年は殆どを学校にいかずに済む。といっても代わりに、朝から晩までモチーフと睨めっこしに画塾へと通うハメになるが。

「この前のデミニーのデッサン見てビックリしたんだよね…。すっごい綺麗なデイダラ君だったね!先生からも褒められてたし。ほら、モデルさんを交えて生徒を描いてる人はいるけどさ…まさかデイダラ君ピックアップして描くとは思わないでしょう…しかも魂宿しすぎ」

「あぁ、うん。流石は芸術の先生っていうのか…全くモデルさんを描かなかった事叱りもしないしちょっと拍子抜けだったけどね。良い絵が描ければそれでいいんだろうね。ちょっとは叱られるの覚悟してたんだけどっ…ッて!デイダラ君は、色々ね…。本当はモデルさんを描こうとしたんだけど…なんて説明すればいいのか」

頼んだポテトを三本ずつ口に放り込んでは、指についた塩をペロリと舐め上げるミサキ。私はそんなミサキを眺めながらナゲットをバーベキューソースに付け口に放り込んだ。デイダラ君に好意を寄せている事は一切口にしない方向で話を進める。あの日あの時恋をしてしまった、というのか。惹かれる余り目を離せなくなったというのか。もしかしたら全てなのかもしれないが、もしもこの事が広まってしまえばデイダラ君と顔を合わせにくくなる。口を噤む理由としてはこれだけで充分だ。


「ふーん、あ、画材買ってから今日は画塾行くからさ、先に向かうね。ごめんデミニー!んじゃゆっくり食べて」
「あ、うん!それじゃまた後でね!」

食べ終わったポテトの箱をオボンと共に片し、一度振り返って手を振ってから店を出て行った。口元が弧を描きながら小さく頑張ってね、と言った気がする。何を頑張ってなのかさっぱり分からずに頭にハテナを浮かべた。

「……そういやミサキ、画材ってこの前買ったばかりなんじゃ…」
「何一人でブツブツ言ってんだよ、デミニー」
「わっ!!!!!」

「またその反応か…」
「デ、デイダラくん…心臓に悪い登場の仕方しないでよ」
「今から話しかけますね、とでも声掛けりゃ満足なのか?」

ミサキには敵わないな…まだ何も伝えてないし寧ろ避けて話したのに全てを察されていた。店から出て行ったのはデイダラ君の姿を見つけたからだろう。私の後ろ、ミサキから言えば目の前からデイダラ君は姿を現した。

「そうじゃないけど…って、学校こっちの方にあるの?」
「そんな所だな。今日は画塾行かねェし腹減ったから此処で油売るって決めたんだよ、うん。」
「…!珍しいね。何か用事でもあるの?」
「一人で作品作りしたくてな」
「あぁ、そういう時ってあるよね」
「まぁ、な。……だけどよモチーフ、まだ決めてないんだ、うん」
「そうなんだ…」

会話が一旦途切れ、デイダラ君はさっきまでミサキが座っていた椅子に腰かける。

「そういや…まだ女モチーフに何かを造った試しはなかったな…」
「ん…?」
「彫刻、奥行き把握すんのにジックリやってみたくてよ。お前俺のモデルやってくれねぇか?うん」
「…あ、えっといいけど。それ私でいいの?」
「あ?なんでだよ。頼んだのは俺だ。いいに決まってんだろ。よしっ!」

座ったばかりのデイダラ君が意気込みと共に、ガタッと勢いよく立ち上がった。食べかけの私の手を取り引きずり気味で歩く。急いで椅子の背凭れに掛けていたカバンを手に取った。

「ま、何処いくの!?」
「俺の作業場」
「ちょっ!?私これから画ー「デミニーの作品みてインスピレーション駆り立てられたんだよ、うん。お前ならいい作品になりそうな気がする。善は急げってヤツだ」

私の発言は何一つ聞き入れられない…というより耳に入っていないようだった。そのまま握られる手の先は駅に向かっていく。作業場というのは一体どこなのだろうか。序に言うと定期内での下車なら助かる。彫像というのは一日二日で完成する代物じゃない。それこそ、その作業場に通うのに金が掛かるのは学生的に避けたかった。

「デミニー、定期いくつ先まで持ってる?」
「5つだよ」
「なら平気だな、うん」

握られた手はそのままで、改札を抜ける。電車は丁度到着していて駆け足で乗車した。

車内は空いていた。もう夕方だからだろう、上りより下りが混んでいる時間帯だ。座席に二人で座り、乱れてしまった呼吸を整える。普段鍛えていない私にはキツイ運動だった。未だに繋がれている掌が汗で滲み、シャツがやんわりと染みを作る。

「デイダラ君歩くの早いよ…」
「そうか?」
「うん」

出発する反動で金髪が垂れる肩に少し寄り掛かる。

「髪、長いよね。いつから切ってないの?」
「んなもん覚えてねェよ、一々」
「手…温かいんだね」
「体温高い方だからな、うん。つか、重ェ。離れろ」
「だってデイダラ君が手ずっと握ってるんだもん」
「………、ほらよ」

掴まれていた手がパッと離されてしまった。自分から指摘したにも関わらず名残惜しく思う。夕焼けに照らされるデイダラ君の爪は少しばかりオレンジを反射した。走っていた時は意識できずに感触が上手く伝わらなかったが、造形師らしい痛んだ手をしている。しかし、指は長く関節のくぼみがなんともセクシーで、今更この手と繋がっていたのかと思うと体が熱くなるのを感じる。ゆっくりと上目遣いで、手に向けていた視線を金髪が掛かる顔に向けた。蒼い瞳に夕日の赤が揺れた。髪の金色に、瞳の青。それに夕日の赤はずるいじゃないか。似合いすぎるよ。余りの美しさに震えが走る。

「綺麗…」
「夕日がか?」
「デイダラ君がだよ」
「…」
「好き」
「はぁ!?!?!」
「デイダラ君の綺麗な所本当に好き」

「あのよ………」

言いにくそうにデイダラ君が親指を向かいの座席に向ける。私は頭にハテナを浮かべながら顔事視線を向けた。今さっき車内に乗り込んできた赤髪がそこにはいる。

「よォ、デイダラ。彼女か?」
「チゲーよ」
「ふーん、まぁ興味ねーがな」
「なら聞いてくんじゃねー、空気悪くなるだろうが」
「そんな気を回せる餓鬼だったとは恐れ入った」

「デイダラ君…この人は誰?」
「今から行く作業場の持ち主だ、サソリの旦那ってオイラは呼んでる」
「サソリさん…、デミニーです。初めまして」

言うと、不愛想に肩を竦めた赤髪のサソリさん。この後三人で私たちは電車から降りた。第一印象は、デイダラ君を口説いてる女、とかなのだろうか。そう思うと後悔の念が尽きなかった。一応誤解は解かなくては。私がデイダラ君を綺麗だと思っている事に関して一切の偽りはないが、これから作業場を貸す身として盛った学生を二人置いとくのは不安だろう。

作業場は駅から徒歩で15分そこそこだった。色々な材料が揃い、画塾でも見かけないようなマニアックな代物で満ちている。サソリさんといった人がどんな人か窺える、そんな作業場だ。

「デミニー、始めるぜ」
「うん」