建物は三階建てで丸々一室をデイダラ君と私で貸し切れるらしい。元々作業場に人が多く出入りすることはなく、サソリさんとデイダラ君が主との話だ。階段を三階まで登り、縦に長い廊下の先の一室に入る。作業台が幾つか並びその奥に倉庫部屋がある。そこから必要な工具を二人で取り出していく。
「旦那は二階で作業してる。オイラ達は毎回この三階集合な。一階は人形の山で気色悪ィから見に行かない方がいいぜ。特に夜な、マジで目が光って怖いなんてモンんじゃねぇ。不気味で不快だぜ、うん」
との忠告を貰った。二つ返事をして頷き、カバンを置いて上着を脱ぎ、デイダラ君の前作業を暫くの間黙って眺める。いくらか準備が終わればポーズの指摘を貰う。用意されたソファに靴を脱いで座った。
「オイ、…何やってんだ?全部脱げよ」
「え?」
「服。全部脱げ」
あんぐりと開いた口が塞がらないとはこの事だろうか。余りの発言に呆気にとられ茫然としていると、デイダラ君が私の学生服に手を掛けてくる。着ているワイシャツのボタンを外そうと、首元に伸びた腕を勢いよく振り払った。
「待って、何してるの?」
「学生服来た女をモチーフにしろってか、30路のオヤジでもねェし。いいから脱げって。なんで嫌がるんだよ」
「そりゃ、なんでって、私達…」
「なんだよ?」
なんて言いにくい事を女に言わせる気だこの男は。同年代の男女が裸で同じ空間に居ていいはずがないだろう。健全さの欠片も無い。いくら惚れてる相手の為と言えど私にも女としての羞恥や防衛本能はある。
「男と女、まだ高校三年生の18歳なの。そりゃ!…いくらなんでもいきなり裸になれって言われたら…」
「俺に裸見られるのが嫌か?襲われるって心配してんなら平気だ。オイラは芸術を前にしてそんな色欲に捉われたりしねぇ」
「芸術に色々掛け過ぎ、芸術馬鹿だ…」
「馬鹿とはなんだ、良く言われるけどよ」
徐々にデイダラ君の顔が迫ってくる。逃げようと後退ろうもソファの背凭れに埋もれ余計に逃げ場を無くすだけだった。焦る私を他所に一度振り払った筈の手がまた衣服のボタンへと手を掛けた。
「お前を…デミニーを作品にしたいんだ。ピンッときたのがデミニーだったんだよ。頼む、他の奴じゃ駄目な気がすんだ、うん」
初めて、デイダラ君と触れ合った時とほぼ変わらない近さだ。蒼い瞳に私の姿が反射で映されているのが伝わる程近い。緊張と驚きで瞳孔が開いていて、口元は微かに開いたまぬけな表情をしていた。食い入るようにデイダラ君の瞳を見つめる。彼の綺麗にカーブをし、上を向く睫毛が私の眉毛を掠め擽った。
下の方でボタンが一つ一つ外されていく音が耳に入る。止めに入らなかった。臍までボタンが外されれば肩からスルリと滑り落ちていくシャツ。今日は水色の、デイダラ君の瞳に似た可愛い下着を着てきたことに胸をなでおろす。
「……下着も…?」
「おう」
スカートのジッパーもいつの間にか下されパンツを光に晒していた。目前に迫るデイダラ君の表情や金髪の奥に見える瞳から目が離せず眺めていたら、その内にどんどん纏っていた筈のものが落ちていく。
私が寒くないようにと、デイダラ君が暖房をつけた。
「下着も脱がせていいか?」
「…駄目って言ってもまた良いって言うまで頼み込んできそう…」
言うと苦笑い気味に無言で頷かれる。抱きしめるように前から回された腕が背中にあるホックを外す。デイダラ君の作業着に露わになった胸を押し付ける形になった。
「まだ寒いから…パンツは後でがいいな」
「おう」
「……なにか云う事無いの?」
「…?デミニーって思ったより柔らかいな」
「…なにそれ。思ったよりデイダラ君ってやり手なのかなぁ…ちょっとショック」
「は?どういう意味だそれ」
片手で胸を抑えて、くだらない会話で羞恥を紛らわそうとする。デイダラ君はというとこれからモデルになる私から一切目線を外さずにジックリと眺める。思わず背を向けてしまう。そしてソファや地面に落ちた下着や衣服を拾い、畳んで机の上に改めて置く。見つからない程度に深呼吸をした。これから、好きな相手に生まれたままの姿を長い時間身動きもせずに露わにすることになる。体を隠すものは何一つとしてない。そもそもが羞恥に弱い私が赤面せずモデルが務まるのかどうか不安だった。モゾモゾと太腿を擦らせ無駄に縮こまってしまう。
「あまり見ないでよ」
「…見ないでどうやって作品にすんだよ。オラ、手退けろ」
「っ…!ひゃぁ、だ、だめ…!!」
電車の中では温かく感じたデイダラ君の指先も、体の中心に当たれば冷たい。胸を隠していた片腕を強引に引きはがされる時に手の甲が乳頭を掠める。思わずビクリと肩を震わせ、いやらしい声を上げてしまう。そんな私をデイダラ君が驚いた目で見つめていた。
「……感じたのか…?」
「…っ、む、無理。わたし、やっぱりモデルなんて出来なっ」
「…お前さ…俺の事男として見てんの?」
「なにいって…!!」
「電車の中で好きだなんだ言ってたしよ…隠されると余計に男の情欲を煽るってもんだぜ…、もういいからソコ座ってポーズ取れよ」
ほぼ半泣きだった。そして何も言い返せなかった。恥ずかしくて堪らない。暖房で部屋は暖まっている筈なのに体は興奮していた。寒さで敏感になっているという言い訳は使えない。部屋に入ってすぐに頼まれていたポーズを取る。ソファの上に座り脚を少し開いて、片腕を肘置きに置き頬杖を付くポーズだ。
私の胸は虚無感で包まれていた。当初モデルを頼まれた時は胸が舞い上がる程嬉しかったはずだというのに、女の私が情欲を露わにして、男のデイダラ君が全く興奮状態に無いというのが、不服だった。
定位置についたデイダラ君が振り向き私を見る、足から頭のてっぺんまでジックリと穴が開くほど眺めた後だった。突然沸騰したような真っ赤な顔、そして血相を変えてまたもや私に近寄ってくるデイダラ君。
「…?どうしたの?ポーズ違った?」
返事はない。そしてどこか怒ってる様にも見えた。元々不機嫌面なのが相まってそう見せるのだろうか。ソファに座る私に近寄ってくる。
「…パンツ、濡れてる……」