「ねぇ、見て。海が綺麗よ、まるで光沢みたい」

広大な海を人差し指一本だけで指さす。

「そうだな、つってもまだ冬だ。寒ィだろうからあんま長居するのは得策じゃねーぜ」

「…手繋ぐ?」
「いやだ」
「ケチ」

手は繋ぎたくねーが、指先なら構わないぜ、うん。と小指を絡めてきた。
寒いから手を繋ごうと言ったのに指の中でも一番小さい面積の小指で温まる訳がないじゃないかと、思ったのだが。案外、時間が経つにつれてそれは心地いいものへと変化していった。小さな疑問も、寒さの中にあるデイダラの僅かな体温でどうでもいいものへと変化を遂げる。

「私と一緒にさ、生きてみる気はないの?」
「オイラがか?」
「この場に他の誰が居るの?」

繋がる小指を目前まで上げてじっくりと眺めた。

「オイラは忍だ」

彼は言う。芸術は儚く散ってこそだと。そして更にこう続ける。己も芸術そのものなのだと。

「長生きしようなんて端から思ってねーよ、いいか?オイラの芸術はー」

いつもの長い語りはこの海と空の広大さに溶けて消えた。風音と右耳から入ってくる低音の声が心地よかった。

デイダラは、彼は。もしかしたら死ぬことを悟っていて、私に優しくは接してくれないのかもしれない。こうして小指でしか温もりを伝えたがらないのは、死に行く定めを理解しているからかもしれない。鋭い海に似た眼は、決して私を映さなかった。ただただ、静けさの中にある海の飛沫がザワザワと私の胸にまで浸食してくる。

「バカ」
「あ?なんだって」
「好きって言ったのよ、バカ」
「あっそう」