デイダラと初めて出逢った海に駆け付けていた。本気で走ってきた為体が暑い。よく一緒に見ていた、明るい太陽を反射する海は眠る様に満月を映している。デイダラの様な荒波をしていて、強風のする浜辺。決して、静かな海ではなかった。

すぐ後ろで、小波を掻き消す大声を掛けてくる男がいた。海に向かう途中、振払うことに失敗。大変邪魔なのでアジトに置いてこようとしたがそれも失敗に終わった。それ故に若干…いや、かなり私はイラついている。海まで結構距離があるというのに、一体どういうつもりだこの男は。ここは私とデイダラの思い出の場所。それなのに後ろを引っ付きむしの様についてきやがって。この場所を知られてしまった事が大変勿体無いことのように感じた。


「ちょっと!!なにやってるんですかデミニー先輩!いくらなんでもここまでしなくたっていいじゃないですか!」


仮面の奥が喋る。口から話しているのか目から話しているのか、素顔を見た試しが無い為見当がつかなかった。本来人というのは口から息を吐き、言葉も吐く生き物だが、この男に関しては人間かどうかも危うい。胡散臭い生き物だ。いつも気丈な声色で会話に参加し、人を食ったような態度しか露わにしない。直属の先輩であるデイダラの前でもだ。そこしれない恐怖をこの仮面の生き物から感じていた。未知というのは気味が悪い。

「あなたに関係ないでしょう、トビ。デイダラを見捨てた貴方に」

己の耳で聞いても恐ろしく冷めた声色だった。仮面の気丈な声とメリハリがついて上等ではないか、と私に反省の色はない。少しは人の悲しみを思い知ればいい、そして本性を露わにしてみろ。と、目一杯、それこそ子供のような態度で仮面に反論する。デイダラの私物にまみれた腕を掴まれ、大袈裟に引っ張り挙げられる。勿論振り払った。

私とデイダラは仲が良かった。彼の作品も、衣服も、所有物全て。デイダラが不在の今、所有権は私に有る。本人からも了承済みだ。アジトに残る私物を全て引き取り、初めてデイダラと出会った場所に捨て燃やすのだ、そう話せば仮面が引き留めてきたのだ。そしてここまで追い掛けもしてきた。


「やだなぁ、アレは僕がいくら止めようとしても無理ですよ!逃げるので精一杯だったんですから!」

「…貴方の…その人を食ったような態度が死ぬ程嫌いよ。こんな時くらい一人にしてちょうだい」
「…それは駄目です。だって、今一人にしたら、ソレ。全部無くなっちゃいますよね?」

「なに?欲しいの?なんで?」
「別に欲しくなんかないですけど」


此処まで神経を逆撫でする男がいるだろうか。いくら仮面をしていて片目でしか外側が見えないからと、この腫れて赤くなった瞼が目に映らない事はないだろう。眉間に皺が寄る。今の私にはデイダラが残していった作品と使っていた衣服に毛布。それしか残されていないのだ。一時だけでいい。独り占めさせてくれ。思いに浸らせてくれ。仮面が居たらそれが出来ないのだと何故分からない。


「デイダラと約束したのよ。彼の所有物全てを爆破して、本当の意味で全て芸術として散らせるって」


デイダラの名を出すだけで一滴、また一滴と涙が零れる。抑えようのない悲しみだった。一層の事雨でも降っていてくれたら、この涙も洗い流され、目の前の仮面の男のように秘密のベールで脆い部分が隠されたというのに。私だけ泣きじゃくり、もう一方は何も感情を顕にしないというのがどうしようも無く理不尽で腹立たしい。


「それじゃデミニーさんの気持ちはどうするんですか、さっきから泣いてばかりじゃないっすか。本気で振り払えば僕の手なんて引きちぎってでもソレと一緒に燃やせるでしょうに」


下唇を噛んでギリっと仮面に空いた右目の穴を睨みつける。正論を求めてはいなかった。本来デイダラが居なくなった今、彼の残した遺物はこれだけなのだ。数少ない爆破されなかった製作途中の物に失敗作の粘土。それに、寝間着やら彼が使っていた家具の数々。大袈裟に言えば、今はこれがデイダラそのものと言ってもいいだろう。もう、物しか私には残されていないのだ。デイダラの体温に触れたいと望んでも触れる事は二度とない。爆発して無くしてしまいたいなど、思うはずがないだろう。いつまでも大事に胸の中で抱きしめていたいくらいだ。


「分かったわよ、ほら、デイダラみたいに腕の一本や二本千切ってあげる」
「う、うわぁ!!ちょ、マジでやりますぅ!?普通!!!」


大袈裟に私の攻撃を避ける仮面を他所に、今の内だと海に遺物を放り投げた。落ちる前に全てを一瞬で燃やし尽くす。印は私が得意としてる火遁。火力は最大。出来るだけ派手に、持ち主本人の生き様に似るように燃やした。破片が海に落ちていく。
私は、暗く遠く先を見る事の出来ない、海夜の寒さに身震いをした。暖まる為にもう一度火遁を大きく、出来るだけ派手に海面へとぶちかました。