「出たよ!まーーーた、まーーたソレか。いつもいつも芸術芸術で、見に来る度御飯運んでくる度にコレ。はぁ、芸術家って本当特価型過ぎるよ、少しは生活力付けようって気は無いのかな?」

机の上は粘土で埋まり、足下も粘土で埋まる。ご飯を届けようにも両手が塞がれている状態でこの粘土の山を一ミリも傷つけずに突破するのは無理だろう。熱中するとお腹が空いてることも忘れ、作品へと打ち込む姿に差し入れを持ってくるのは、もはや日課である。

「今すぐこの山退けて!さもなくばゴミ箱に突っ込む!」

「………るっせぇ奴だな。出来るもんならやってみろよ、オラ」

ハイハイ、分かってますよ。とでも言いたいかの如く視線も顔もこちらに向けず未だに作りかけの作品に目を向けている。人が話した内容何てお構いなしだ。同じ時間に同じような会話を毎日繰り広げるとこうなるのは仕方がない事なのだろうか?サラサラで指解けの良さそうな金髪が今は疎ましく鋭く後ろから睨む。勿論その視線に本人は気付いていないが。
踏んで怒られるより倒してしまった方がマシだろう。床に置いていたデイダラが悪いのだ、と足を引きずるようにして床の上を進んだ。つま先にぶつかる作品は次々と横たわり中には形の崩れた物もあったが知った事ではない。私の優先すべき任務は鬼鮫に頼まれた夕飯の受け渡しだ。

「あっ!テメェ…何してんだよったくよ!!!」
「ふん、私を無視するデイダラが悪いんだからね!自業自得よ!」

そう言って机に向かうデイダラの横に立った時だった。首根っこを掴まれ軽々しく布団の上に投げられてしまう。手に持っていた味噌汁定食は奪われた後にだ。思いっ切りぶつけた背中がギリィと軋む。

「……いっいた、」
「自業自得だ」

なによ、ていうか布団に投げるってドアから一番遠いじゃない。どうするのよ、アンタの片づけが終わって飯食い終わるまで此処にいろってか?それで食べ終わった食器を私に片せと?それとも手袋でもつけて作品整理を私に手伝わせる気?くどくどと文句は山程出るが胸の内に秘めた。作品に熱中している最中にあまりしつこくするとガチギレする可能性がある。経験済みだ。そもそも、デイダラが悪いのは大前提なのだが…創作活動の邪魔をしたくないのも確かな気持ちだった。次から…この仕事断ろうかな…。と大きなため息を一つ吐き出す。
ストン、と力を抜きデイダラの枕の上に頬を置いた。僅かに香る若々しい匂いとデイダラの独特な香りに包まれる。部屋に食べ物を運んでくることはよくあるが、こうして布団の上に寝転がったのは初めてだ。良い匂いだな…、ほんのりと香るすっぱさの中に甘みがあるように感じたのは、私の思い過ごしだったと思いたい。その人の体臭を好むのは相性がいい証拠だと風の噂で聞いた事がある。そんな訳がない!!こんな生活力皆無の男…。検証しなければ、と。気づかれないことをいい事に枕に頬ずりをし毛布を被って拗ねたフリをする。匂いをもっと嗅いでも気づかれないようにする為だ。創作活動に熱中なデイダラが気づくことはほぼないだろうが念には念を…とその時、枕の下に硬い何かに頬をブツけた。

(…コレって)

手を差し込み引き抜いた後に見えたのは。

(…エロ本…は、はげしめな表紙だ…)

ペラペラと捲り次々にデイダラの性癖を暴いていく。大体が過激で大胆なポーズを取る全裸の女性の写真が内容を占めていた。私は唾を飲み込み一枚一枚目に焼き付けるようにしてページを進めていく。まさかこんな物が枕の下に置いてるとは思っていなかった。心の準備等関係無しに好奇心だけで手を進めてしまう。


バサッ


「あ…で、デイダラさん、ち、ちーす」

「デミニー…お前…」

剥がされた毛布を床に落とすデイダラ。私はというと気まずさからこの部屋をいちはやく出ていこうと、爪先立ちで床に足を置き、上半身を起こした。その時だ。デイダラの手によってもう一度布団へと背中を預けた。いや、押し倒された。私の股の間にデイダラの太腿が割り込んでくる。何が起きてるのか分からずに上に乗っかって見下ろしてくるデイダラを見上げた。目線が合う。


(………うそ、こわい………怒ってるのかな)