「それはデイダラが望んだことなのか?」

そう問うてみれば、デイダラの所有物を燃やした後、抜け殻のような顔をした女の自殺願望が止むと思った。幾度となく他人の血飛沫が全身に掛かる様を目にしたことはあるが、女自身の血で真っ赤に染め上がるところはまだない。どちらかと言えば、器用に任務をこなし、ずる賢く人を殺す女だ。どうすれば自分が怪我をせずに済むか知っている。傷とは無縁の女だと思っていた。それも、我を忘れ自虐に走る姿を見れば、誤想に過ぎなかったと過去の自分の洞察力を悔いた。

そんな女に芸術というものを上乗せし、自殺にまで追い込んだデイダラはどんな奴だったのだろうかと、夜空を見上げる。いや、天国より地獄がお似合いだ。下を見るべきだった、と天を仰ぐのをやめた。女も下を向いて未だに嗚咽を止めないのだから、きっとデイダラは地獄にいるのだろう。よもや己の信念やら趣味趣向で、他人を惨殺してきたあの男の芸術を背負うなど、同じ狂人にしか果たせないことではないかと哀れみの目で女を見る。


これから俺の駒として使えるかどうか、判断して見極めなければならない。女の評価を一旦リセットした。


「気が済んだのか?」

口に爆発物を咥えていた顔がいきなり地面から逸らされる。声はかけたが俺の方は見なかった。海を、眺めていた。火遁の印を胸で結んだままいつまで経っても口から炎を吹き出しはしない。爆弾も形を保ち静寂を保っていた。

怖気づいたか。そう、解釈をした瞬間、女は突然微笑んだ。瞬間胸が空気を含んで練り込まれた炎で膨らむ。俺はまた判断を見誤った。女の命への重みは思ったより軽かったのだ。急いで神威を発動させる。まだ殺すわけにはいかない。女からは貰わなければならないものがある。アレは、まだ使える。

炎が空気を燃やす。この夜の静けさに、デイダラの忍術のような轟く爆発音が響くことはなかった。


「………なんで、どうしてなのデイダラ」


この世に既にいない者の名を未だに呼ぶか。既視感がある。そういった奴を誰よりもうんとよく知っている。俺が一番近くで見てきた奴だ。

「コレを見るといい」

いくら呼んでも振り向きはしなかった、虚ろな目が俺を、いや。俺の手元を見る。女が海に放り投げた際、神威で一着抜き取ったデイダラの衣服を。

「あぁ、誰よあなた。…トビか」
「オビトだ」
「どっちでもいい…」

折角怪訝な表情を向けられ、此方もこれ以上騙すのは無理かと判断し素顔を見せたというのに、全く興味を持たれない。それどころか、初めて見ただろうこの顔と一緒に、衣服を燃やそうと火遁のオンパレードだ。

「トビ、早く死んでちょうだい。なんとなくだけれど、貴方のその顔気に障るわ」
「鏡を見てるようで、か?」
「何訳の分からないことを」

残念なことに、攻撃を避けるのは得意だ。女からは自分の攻撃が体をすり抜けているように見えているだろう。大袈裟に避け、演技をする必要がなくなった。地に着く足は一歩も動かずに、向かってくる炎を全て流した。

「本気でかかって来なければ俺からコレを取ることは出来ん、茶番は止めろ」
「は?さっきから意味の分からない話をしないで、本気に決まっているじゃない」


あぁ、この女。本気で狂っていたか。


「何故死に急いでるかは知らんが俺に付いてくれば、もう一度デイダラと会えるぞ」

さて、この言葉をどう思うだろうか。そして、俺と似ているお前はどう捉えどう行動をする?

試すように片腕を伸ばし、手を取るよう促す。芸術など、どうでもいいではないか。好きな人に比べれば、取るに足らん存在だろう、…と。