まだ小さかったデイダラが、うちはイタチを殺すと豪語している所を見た時、心底安心していた。里を抜け暁という居場所が出来ようと、そこでも命を狙われていたのだから、寧ろ早く殺して欲しいとどこかで思っていたやもしれない。

路頭に彷徨っていた。イタチは私の生を決して許しはしない。アジトで顔を合わす度に目敏く隙を狙ってきては、殺意を丸出しにしてきた。何故、こんなことをするのかと尋ねてもまともな答えは返ってこなかった。私の母と父を殺し一族を根絶やしにしただけでは足りないのか、と無性に怒りと悲しみが湧き上がっていた。怒りより、悲しみが酷かったかもしれない。木の葉の里で話す彼は、とても温厚で頭の良い人だった。しかし、今となってはいくつ手傷を負わされたか数えきれないほどだ。次第に、私は戦いが上手くなっていく。人も簡単に殺せるようになった。皮肉な話、イタチに命を狙われるようになってから、任務を遂行するのが早く容易になった。

アジトには居れないのだから、どこかに居場所は無いかと帰りもせずにブラブラと土をたくさん踏み歩いた。おちおちと眠っていられる場所が一つも見つからない。そもそも写輪眼を狙う者は少なくないうえに、父と母を失い、同じうちは一族に命を狙われる始末。もう、私のこの両の手二つではどうにもならないところまで、物事が深刻化していた。拠り所はただ一つ、海のみだった。海に映った時の自分の姿だけは、広大で自由で、何一つ捉われる物が無い程に青くなれた気がした。海に、なれた気がした。その一瞬だけが僅かな救いだった。一日の平均睡眠時間は、4時間にも満たなかった。

だから、デイダラがいつかうちはイタチを殺してくれるのではないかと、心の奥底で期待をしていた。傍に居るだけで安心させてくれる彼は、いつか寝場所をくれるかもしれないと願いにも近かったかもしれない。故に、デイダラは私の青だった。本人に自覚がなくとも、救われていた。一緒に居る時だけが、ゆっくりと恐怖を忘れ寝むれる仮初の時間だった。


岩に腰掛け、かつて愛した海を眺める。デイダラと出会う前のようには愛してあげられなかった。心は揺れ動かず、隣に腰掛け語り掛けようとも、思い出すのはあの青い瞳。手入れの行き届いていない長くて明るい髪。出会った当初よりも一段と低くなった声。どんなに広大で、どんなに艶やかで美しく包容力があっては波を荒げて私の目を引いてきたとしても、もうデイダラには勝てなかった。

片目を瞑り、真っ赤に染まる瞳を凪いだ海に映した。3つの黒点が中心へ集まりドンドンと面積を伸ばす。丸を三つ程作り、中には逆三角形をした黒線が描かれる。これが私の万華鏡写輪眼。もう、生涯使う事も、こうして己で見る必要もなくなるだろう。いざ手放すとなると途端に恐怖にかられる。いくら嫌おうが、私はこの目によって生かされてきたのだ。失えば、確実に遠くない未来殺されるだろう。顔が割れている。だが、その前に死んでしまえば、何の問題も無い。デイダラに、会いに行けばよいのだ。


頬に伝る涙が赤くとも、それ以来瞳が赤く変化すことはなかった。黒かった。


この選択が、間違いかどうかという話ではない。睡眠もご飯の食べ方も、どうやって最愛の海を愛していたかも全てを忘れさせられ、奪われた。もう彼無しには生きてはいけなかったのかもしれない。例え、デイダラの内側にいようがいまいが、私の世界はデイダラがいなければ完成しないのだから。彼が死んで、芸術として完成したように、私の全てはデイダラだけだった。

失って初めて気づく。あの時の約束など、本当はどうでもよかったのだ。デイダラに、また会えるなら。