見た目よりは温かかった。目前で揺れる湖に翳しても、向こう側の水飛沫が鮮明に透けて見えるのでは?と思わせる程白い手の甲。その白さはどこか浮世離れしている。そんな手に私の手の甲を誤ってぶつけた。顔を洗っているのだから邪魔をするなと文句を言われ、つい口先を尖らせ拗ねる。少年の声だった。声変わりは、まだしていない。

「ハンター試験、受けるの?」
「まぁな、ゴンにあんだけ押されたら行かない訳にもいかないし。お前はもう受かってんだからやる事つったらゴンと修行だろ?」
「……まぁ、そうだけど…、そうなんだけども…」
「なんだよ、歯切れ悪いな」

銀髪が揺れ、私を怪訝な目で睨む。タオルで拭かれている最中の為口元は見えなかったが、目元が私に続きの言葉を吐けと促してくる。

「また、試験終わったら実家に帰っちゃうんじゃないかってちょっと心配で」
「へー、それマジで言ってる?」
「何があるかなんて私達には分からないじゃない」
「あーつまり、いきなり俺の親父がハンター試験に乱入して俺を連れ戻しにくるかも?とかそういう類の例え話かよ?やめろよなぁ、テンション下がるだろデミニー。有り得ねぇから」


そうなんだけど、そうじゃない。キルアなら分かりそうなものだが。そもそもゾルディック家公認でキルアは今、このGIでゲームに勤しんでいる。今更ワケもなしに実家へと連れ戻される可能性は低いことは承知の上。危惧することではない。そう言いたいのだろうが、そうではないのだ。
胸元を抑えて揺れる心を平常に戻そうとした。

「……キルアの家族云々じゃなくて……可能性の話でもなくて問題は私、のこころ、かな。わたしの、トラウマの話」

あの時、私じゃキルアを守れなかったから。


呆れた、そんな意味を含んだため息が零された。思わず肩がびくつく。横目をチラリと向ければ湖が透けて見えてしまいそうなほど真っ白な顔と目が合う。既に付着していた水滴は綺麗に拭われていて、タオルはお役御免だと地面に落とされていた。


「付いて来たいならくれば、ゴンには俺から適当に理由つけといてやるからさ」
「……!!……キルアが優しい……もっと甘やかして!」
「ばーか、やだよ。今日のは可愛かったからまぁ特別。それに俺はいつだって優しい」

ふふ、と思わず笑を零した。キルアが地面に置いたタオルを手に取り、修行中のビスケとゴンの元へと戻った。もしもキルアがお父さんに連れ戻されそうになったら、私が守ってあげるね?と会話を回せば、お前じゃ勝てねーだろと言われ、今度はキルアが砕けたように笑っていた。