予鈴と共に人体デッサンが始まる教室へと入った。ギリギリの入室だった為モデルの近くや光の具合を考慮した、つまりは良席は既に人が座っている状態。仕方無しに空いた席に腰掛け、自分の書きやすいように板と紙を数センチずつズラしていく。それでもモデルが見やすいかと聞かれたらNoだ。隣に座ったミサキが魂を取り戻した私を見てホッとしたらしく笑みを向けてくる。片手を顔の前にだし小声で素直に謝っては、デッサンの準備をした。
教室内はとても静かだ。鉛筆が磨り減っていく音が四方八方から響く。モデルはお立ち台に立ったまま微動だにせず裸体を生徒に晒し続けている。今日は女性がモデルだったらしい20代後半から30代前半であろう女性は無表情のまま顎を上げ天井を見ていた。今日のポーズは一段と煽りが利いてるな、とBの薄目の鉛筆を紙に滑らせ全体の形を取ったところだった。ーー此処より断然描きやすそうな席だなと、羨望の眼差しをモデルの奥側の座席に向けた瞬間、私はまたあの艶やかな金髪を目にした。
(横顔…髪で隠れていて上手く見えないけど綺麗だな)
真剣な面持ちで作品に取り組む姿は先生からも高評価を得ていた。何よりも芸術となれば造形科と言えど絵すらもこなしてしまうデイダラ君に憧れる者は少なく無い。それに加え、端正な顔立ちに彼の長髪はよく似合う。するりと指通りが良さそうな髪を心の手櫛でそっと梳いた。すると、私の右手が持つ鉛筆は不思議と大まかに取ったアタリを改変していく。真剣な表情に、鉛筆を指に持ち、肩幅に開かれた脚。モデルさんを射貫くような鋭い眼。
私の赤く染まった頬も私の持つ鉛筆もモデルさんに興味を示さなかった。紙に載っていたはずの女性がドンドンと年頃の男の子に変化していく。色は付いていないけれどこの絵の男の子はきっと金髪で、今さっき乙女の唇を奪ったデイダラ君によく似ている。頭が占領されていた。胸がトクン、と疼く。紙の上に載った自分で描くデイダラ君にさえ、私は心拍を幾つも上昇させる。
(どうするのよ……コレ最後は生徒全員に見せて講評するのよ)
ピピピ!ピピピ!
休憩時間だ。同じポーズを取り続けるモデルさんの負担を減らす為に小まめに自由時間が設けられている。音と共に一斉に席を立つ者、鉛筆を進める者それぞれだが、私は作品に布を掛けて外の空気を吸いに教室から出ていった。ちっともドキドキする気持ちが収まらないのだ。冷静さを取り戻さなければならない、そう思って冷たい風に火照った頬を当てた。