「結局さ、デイダラって女の人に興味は一切ない感じなの?」
「……まだその話続けるのかよ、デミニーには関係ねーだろ。ほっとけ、うん」
恥ずかしがってなのか、この話題を振るのはNGになってしまった。一緒に任務をこなした数日後、蠍には「女に興味があるかもしれない。まぁ、相方がゲイじゃないならそれで良い」との返答を貰った。どうやら思っていたより己を慕うデイダラに、もしかしたら好意を寄せられているのではないかと心配してとのことだった。が、それは飛躍しすぎじゃないのか。ゲイに仕立て上げられたデイダラが可哀想だし、私まで勘違いしてしまったじゃないか。
ゲイじゃないと組んでいる蠍が言うのだからそうなのだろうが、一度問題になると頭から離れないという原理でまだ私は思考を巡らせていた。所謂好き者という部類に私は属しているのだろう。この間のあの怒ったような反応と睨みを効かせた目つきだけでは、恋愛対象が女と断定するには早いのではないか。聞くところによると芸術家というのは同性愛者が多いらしい。別に蠍の言葉を鵜呑みにしている訳では無いのだが、この間のデイダラとの任務中に言われた、私の胸じゃ下半身は反応しないとの発言が何故だか妙に引っかかっていた。
「デイダラ君さ、風呂嫌いなんだって?」
「やることが多すぎて入る時間が無いだけだ」
「創作活動ってヤツ?蠍に風呂に入れるように頼まれたんだけどさ」
「はぁ?」
「一緒に入ろっか」
「は!?!?旦那の野郎また余計な事を…」
駄目押しが欲しいのだろう、二人で風呂に入る事を蠍から望まれていた。正直な話、今年16歳になる身長も私と大して変わらない、筋肉もまだ付き途中のデイダラを異性として見ていないのは私の方だ。例え恋愛対象が女だったとしても、デイダラからすれば私は女というより年上のお姉さんのはずだ。もしも、の事は無いだろう。無防備に放り出されている舌の生えた手を握り、問題ないだろうと脱衣所へと向かった。しかし地に付いた足が前になかなか進まない。デイダラがその場に踏ん張っては握る手を振りほどこうとするのだ。握力を込め無理矢理前へと前進する。互いの掌に挟まれた舌が苦しそうに蠢き、涎をつけてきた。
「せっかく綺麗で長い金髪なのに手入れしないのは勿体無いって前々から思ってたんだよね。髪洗ってあげるよ」
「結構だ、ヤメロ、今すぐ俺の部屋から出てけ」
「なんで?」
「俺は…オイラは創作活動で忙しいんだ!!つか、馬鹿にするのもいい加減にしろ!うん」
ズルズルと歩こうとしないデイダラを、部屋に完備されている脱衣所に引きずり込めば素早く衣服を脱がせた。
「何日お風呂入って無かったの…、結構匂うよ。忍だからって衛生面に気を使わなくていいことにはならないからね」
「オイ、ヤメロ、マジで、人の話をー…」
体術は私の方が上のようだ。難なく衣服を脱がし終えれば浴室へと背中を押した。その後に私も全ての服を脱ぎ終え、タオルを胸に巻きデイダラのいる浴室へと足を踏み入れた。
「………」
「デイダラ?」
「…」
「ねぇ、こっちむいてよ。ていうか、湯につかるのは体洗ってからなのに…もう入ったの?」
「ヤメロ近づくな」
「無理よ、私もさっと体流したら湯につかるからね!」
言った通り浴槽に溜まる湯を手で掬い、軽く体を洗い流した後にデイダラの浸かる浴槽に侵入する。一気に体積でお湯が減り、タイルで出来た床へと零れる。浴槽の大きさは端によっても互いの体がブツかる程度で、のびのびとは出来ないが二人で温まるには申し分ない広さだった。デイダラの背中に背中を付けて顎まで浸かる為腰を沈めた。
「蠍ね、デイダラがゲイなんじゃないかーって心配してたんだって。だからあんな変なこと言ったらしいよ」
「それは嘘だな」
「…どうして言い切れるの?」
「だって旦那オイラの好きな奴知ってるしな、うん」
話の内容に身を乗り出しながら振り向き、デイダラの背中に両手を添えて身体のバランスを取った。矢張り恥ずかしいのか、デイダラの方は顔どころか目線をもこちらに送ることは一切ない。
「え…!デイダラって好きな人いるの、初耳…」
「誰にも言ってなかったし当たり前だろ」
「ふーん、じゃなんで蠍はあんな意地の悪い嘘を私についたの?デイダラがゲイじゃないのが分かってたって事は女が好きなんでしょ?」
「本当に分からないのか?思ってたよりデミニーって、馬鹿だな。うん」
その言いように特にカチンと来ることも無かったが、反論はやめておいた。要らない茶々を挟むより、話の続きが一刻も早く聞きたい。蠍は性悪な所があるから気紛れで嘘をついたのだろうとしか、私の頭では考えられなかったのだ。真実はデイダラの口から聞くしかない。そう考え、暫く人差し指を顎に当て黙り込んではデイダラに視線を向けていた。
「………………分からないわ、教えて…降参」
「教えたら風呂場からでてけよ、いいな?そもそも身体も髪も一人で洗えンだよ」
「うん、分かった」
「サソリの旦那は性格が悪い」
「知ってる、だから気まぐれで嘘ついたとしか思えなかったの」
「っは、そうかよ。ここでオイラの好きな奴の話に戻る」
「……?」
余りに話が読めなく、小首を傾げた。
「好きだつってんだよ、デミニーの事が」
え?っと言葉が漏れたのが先だったか、もう分かったろ?と諭しながら私の腕を握り、浴室から追い出したのが先だったか、余りのことに記憶が飛んでしまっていた。布一枚で遮られる浴室と脱衣場。バシャリと、背を向けた浴室から音が鳴る。浴槽に溜まった湯を何もなかったかのように頭から被り、体を洗い流す音だった。布越しに動く黒い影を追うようにして、私は振り返る。そして呆然と黒い影を眺めた。
「なによソレ」
「バーカ」
「私間抜けじゃん」
「そうだな」
「…えっと、…これからはさ、もっとデイダラを男として見る、…というか、恋愛対象として見てみる」
「…頼むからそうしろ、今回みたいな事は願い下げだ。次は無ェからな。もしもが来たら俺が男だって体で分からせてやる」
「うん、分かった。ごめん」
「ハイハイ」
そうして、私はデイダラの事を考えるだけで、少しばかり変な熱を胸に宿すようになった。湯船の中で触れた体温を、執拗に思い出すようにもなったのだった。