私には中学校から想い続けている人がいる。最初はただ純粋に探偵を目指している彼が眩しくて、無愛想で人見知りな私には無い、人を惹き付ける魅力を持って友達の輪に囲まれている姿が羨ましいだけだった。それが些細なことで好きになるんだからなんて単純。男の人に追いかけられて恐怖で震えていた私の手をとって引っ張ってくれた彼に、そのまま心まで連れ去られてしまったのだ。
それからだ、羨ましいという感情が毛利蘭に向いたのは。見つめるだけしか出来ない私と違って幼馴染みという立場の彼女は簡単にそのハードルを超えてしまう。可愛くて誰にでも優しい毛利さんは、こんな私にも笑顔を向けてくれて、その度に敵わないなんて分かりきっていたことなのに惨めになる馬鹿な自分が嫌になる。そして私はありがとう、も言えない意気地無しな自分に卒業もできないまま高校生になった。

幸か不幸か、同じクラスになった毛利さんは常にひとりで行動している私に同情したのか移動教室、お昼休憩等気付けば隣にいることが多くなった。必然的に毛利さんと親友の鈴木さんも一緒にいることが増え、いつの間にか私の周りは美女に囲まれるというパラダイス。なんてことだ、と戸惑っていたのは最初だけで優しい毛利さんと裏表なく接してくれる鈴木さんの側はぬるま湯に浸かっているみたいに心地よくて、大切な友人になるのにそう時間はかからなかった。物心ついた時から人の顔色を伺って、感情に敏感な私は蘭ちゃんを大切だと自覚したと同時にこの想いにさよならをする決意をした。2人がお互いに思いあっている事には目をつぶり耳を塞ぎ気づかないフリをしていたけれど、純粋に幸せになって欲しいと思えたことは進歩である。どろどろといつまでも醜い感情を蘭ちゃんに向ける訳にもいかず、引きづっていた所で実らない恋なのは百も承知。徐々に薄れていくだろうなと思っていた恋心も、蘭ちゃんと居て楽しそうな顔をする工藤くんの笑顔にときめいては全然蓋をできていな、なんて苦笑する。2年生にもなって未だに話しかけれない臆病な私はそれでも、大切な友人達の幸せそうな姿を見るのが何よりも好きなのだ。

そんな私にも最近彼氏ができた。帰宅途中で江古田高校に通う黒羽くんという青年に駅で呼び止めれ、顔を真っ赤に染めて好きだと伝えられた時は何処かにドッキリの立て札が無いか探したものである。どっからどう見ても園子ちゃんが喜びそうな容姿をしている彼がはじめましての私を好きだなんてそんな冗談やめてほしい。眉間に皺を寄せた私に対して、それでも彼は私を抱き寄せてまじで好きなんだと言った。彼から伝わる震えが冗談じゃないことを訴えていて、彼の突然の奇行に唖然として脱力した手から鞄がぽとりと落ちる。飛ばしていた意識をどうにか引っ張って、ごめんなさい好きな人がいるのと伝えた私にそんなの忘れさせてやると言ってくれた黒羽くん。利用してくれたって構わないと強い眼光で射抜いてきた彼のあまいあまい言葉に、忘れたいと願っていた弱い私は抗うこともできずにこくりと頷いていた。何より工藤くんによく似た彼は心臓に悪すぎる。工藤くんに想われているのかと錯覚してしまいそうになるほど似ている。それでも彼は黒羽快斗くんで、例え本当は罰ゲームだとしてもこんな私を好きだと伝えてくれた彼に身を委ねて見たいと思った。彼だったら本当に忘れさせてくれるかも、そんな狡い私の答えを聞いてくしゃりと破顔した黒羽くんに心臓が高鳴ったのは彼を重ねたからではない。彼はこんな無邪気に笑わない。私に笑いかけてはくれない。尻尾が見えると錯覚してしまうほど喜びを露わにぎゅうぎゅう抱きしめてくる黒羽くんに、これから宜しくねと笑った。