大木議員が亡くなったその翌々日に原さんが殺害された。発見したのは少年探偵団であり、なんでも大木さん殺害事件について単独で調査をしようと、元々招かれていた原さんの自宅へ事情聴取をしにお邪魔した際、仰向けで倒れていた原さんの死体を見つけたそうだ。これは哀ちゃんからため息と共に教えてもらった事であり、同行していない私は詳細を知らない。こんなことなら誘われた時に着いていけば良かったかな、なんても悔恨も後の祭り。今更悔やんだところでどうしようもないのだと解しているけれど、自分の不甲斐なさが定評と化して歯痒さばかりが沈着する。まあ居たところで、自分の役の立たさなが浮き彫りになり益々惨めに拍車がかかるだけなんだろうけれど。それでもやっぱり重く伸し掛る疎外感。それはなにも少年探偵団の一員として活動出来なかったことだけでなく、大半は哀ちゃんの慰めにも、ましてや彼女が悩んでいたのに気付いていて尚、相談すらされず乗れなかった自分自身の無力さ故。ここ数日、脚の痛みで歩くこともままならず鎮痛剤とベッドにお世話になっていた馬鹿さ加減に自己嫌悪で泣きそうだ。明美さんから彼女を任された。それだけじゃない。哀ちゃんは大切な友人であり、同じ境遇で事実を共有する仲間でもあり、唯一「私」を見てくれる姉妹のような近しい関係だと自負していた。彼女が頼り、それで心が軽くなるなら誰でもいいと本気で願っていたけれど友人として何も出来やしなかった虚しさは心根に深く痛みを作る。「おめーに言わなかったのは心配かけたくなかったからだよ」そう小さな名探偵は推理してくれたけれど、彼女から真相を聞きたかったなんて我が儘と彼女の寂しさを紛らわせもしなかった自分の存在が嫌でも身に染みた。コナンくんによれば、博士の目を掻い潜り夜な夜な明美さんの自宅へ電話をしていた哀ちゃんは、留守番に録音されている姉の声だけでも聞いていたかったようで、それだけ彼女の心が弱っていたのだと思う。どれだけフォローを貰っても、やっぱり下唇に血を滲ませる私は、だめだなぁなんて女々しさに自嘲の笑みを浮かべるのだった。
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警察の助言も耳には入れず、ツインタワービルのオープンパーティーを強行した常盤美緒さん。そんな彼女に招待を受けた毛利さん、蘭ちゃん園子ちゃん、コナンくん、そして少年探偵団と阿笠博士は気合いの込めた余所行きの私服を身に纏い、数々の著名人で賑わうオープンパーティーに参加していた。斯く言う私も招待を受けたひとりであり、膝の包帯を隠すため淡い黄色の膝下丈のワンピースに白色のゆったりとしたカーディガンを身に付けた、いつもより格段気を使った装いでお言葉に甘えている。バレッタで髪の毛を一纏めに上げたからか項を擽る空調に少し薄着すぎたかな、なんて心配もこの人混みでは杞憂だったようですぐに場内は熱気に包まれた。フォアグラやキャビア、ハモ等滅多にお目にかかれない高級食材がテーブルに並ぶ。立食形式のそれらに舌鼓を打っていた私はステージ上に素敵なドレスで着飾った常盤さんが姿を見せた事でそっと箸を下ろした。
「皆様、この度は私共TOKIWAのツインタワービルオープンパーティーにご列席下さいまして誠に有難うございます。ここでちょっと余興にゲームを行いたいと思います。私の今は亡き父、常盤金成の名に因んで、そしてTOKIWAグループ三十周年に肖って、時間、それも30秒を当てるゲームです」
ピタリ賞、もしくは最も近い秒数を当てれば真っ赤なマスタングコンバーチブルの外車を、もし2人当たればじゃんけんで負けた方にマウンテンバイクを景品として贈呈するというなんとも豪華な催しに会場が一気に騒然と化す。30秒を当てるゲーム、どこかで耳にしたななんて小首を傾げた私の視界にきょろきょろと辺りを見渡している歩美ちゃんの姿が映り込んであ、そっかと手を打った。そうだ、光彦くんが考えたゲームと同じだ。キャンプの帰り道、ツインタワービルに向かう途中の車内で光彦くんが暇潰しにと発案したゲーム。その時私は睡魔と戦っていて参加しなかったけれど確か歩美ちゃんが30秒ぴったり当てていた。遠目から見る限り、光彦くんや元太くんもその時のことを思い出したのだろう。ガッツポーズをしている姿が微笑ましい。そんな二人とは相反して、不安気な面持ちでなにかを探すように視線を配る歩美ちゃんの様子にどうしたのかな、なんて訝しみつつもいつの間にか隣にいたコナンくんに顔を向ける。
「コナンくんはゲーム、する?」
「いや、車もマウンテンバイクも今の俺には必要ねーからな」
「そっか、コナンくんにはスケボーがあるもんね」
「貴女は私達に構わず楽しんできたら?」
「んー、でも私にも必要無いものだから」
「んな簡単に当たっかよ。それにほら、呼ばれてんぜ」
そう言ったコナンくんの視線を追って顔を向けた先には小走りでこちらに近寄ってくる光彦くんの姿。目前までくるや否や「コナンくんも灰原さんもみょうじさんも参加しないんですか?」なんて息付く間もなく問いかけられる。俺と灰原は参加しねーけどみょうじはするってよ。参加するなんて一言も言っていないのに、勝手に断を下したコナンくんの強引さに慌ててばっと視線を向けた。なにか反論しないと。そう開いた唇は、音を出すこと無く閉じられる。「じゃあ、みょうじさん行きましょう!」光彦くんに手を取られ、歩く足がなんだか浮いたように覚束無い。ちらりと振り向いた先、哀ちゃんと楽しそうに話すコナンくんの姿に狡いなぁなんて眉を下げる。あんな表情見せられたら文句のひとつも言えないよ。まるで悪戯が成功した子供の様な、屈託のない笑み。そんな笑顔を向けられたら選択肢なんて無いも同然。ああ、私のばかやろう。彼の新たな表情に呆気なく翻弄される自分の単純さが恨めしい。これで30秒当てられなかったらコナンくんのせいだ。なんてどきどきと煩い心拍を誤魔化すために内心で悪態をつきながらも、少年探偵団と共にステージに一番近い位置へと参列する。
「ねぇなまえちゃん、コナンくん見なかった?」
「あ、コナンくんなら...」
「お嬢ちゃん達、参加するなら腕時計や携帯電話とか、時間が確認出来るものを持ってればをここに入れてくれるかい?」
未だ不安げな表情の歩美ちゃん。そんな歩美ちゃんの問いにああ探してたのはコナンくんだったんだ、なんて解してもコナンくんを探していた理由は分からなくて内心で小首を傾げる。それでも彼女の縋るような眼差しに気押されて、応えようと発した言葉はカンニング防止の為に腕時計を預かりに来たスタッフにより遮られてしまった。至極、残念そうな歩美ちゃんを置いて開始を告げた30秒当てゲーム。観念したのか目をつぶった歩美ちゃんを真似て私も瞼を下ろしたけれど、元々参加する気も30秒を当てる気も無いわけで。いち、に、さん。習うように心の中で喉を転がしては見たものの隣にいる歩美ちゃんも光彦くんも口に出して数えておりなんだかごちゃごちゃになってしまう。小さな指を一本一本折ってまで真剣に取り組む彼らの可愛いらしい姿にくすりとひとつ吐息を零せば30秒なんてあっという間だった。なんだおっちゃんかよ、そう子供たちの不満気に吐き出された溜息と会場の拍手を一身に受けたのは眠りの小五郎として知名度が高い彼で、にやつきながら壇上に並んだ姿に意外だと目を瞬いたのは仕方がない、と思う。どこか誇らしげに胸をはっている毛利さんに凄いな、なんて純粋な感心と湧き上がる少量の呆れにどう表情を作ればいいのか。歩美ちゃんにも頑張って欲しかったな、と思ったのは私だけではなかったようで「どうしたんだよ、歩美ぃ」「残念ですね〜」と双方から声が上がる。しょんぼりと肩を落とした歩美ちゃんに「まあまあ、楽しめたし、ね?」その小さな肩を優しく撫でれば、ゆっくりとこちらを伺い見た大きな瞳と交じ合い、「あれ?」可愛らしい声音と共に逸れて頭部へと注がれる。
「なまえちゃん、髪の毛、とれかかってるよ?」
「え、あれ、ほんとだ。なんでだろう」
「この人の多さですからね、ぶつかったのかもしれませんよ」
撫でるように触れれば、ほどけた束の髪が耳元で微かな音を奏でた。「歩美が付け直してあげようか?」嬉嬉として掛けられた言葉にやんわりと首を振る。残念そうな歩美ちゃんには悪いが彼女の手を煩わせるほどでもない。「近くにトイレがありましたよ」当然のように私に着いて歩き出したふたりに慌てて断りを入れて、指で指し示した光彦くんの言葉に甘えることにした私はそっと会場を後にした。