遊園地に来たのは物心も付かないほど小さかった頃以来だ。それもメリーゴーランドとジェットコースターだけの子供向けの小さな遊園地。喧嘩の耐えなかった両親が最後に連れてきてくれた大事な思い出だ。懐かしいな、なんて目を細める。そんな小さな遊園地と比べるなんて烏滸がましい程、ここトロピカルランドはアトラクションも豊富で見ているだけでわくわくと好奇心が刺激された。行き交う人の波に揉まれながらも快斗くん次はあれ乗ろう!と繋がれた手をぐいぐい引っ張る私は、宛らロボットに感動する低学年の男の子の様に目をキラキラ輝かせているんだろうことくらい簡単に想像がつく。こんな機会滅多にないのだからしっかり堪能しときたい。そんな急がなくてもアトラクションは逃げねぇって!と言いつつ、顔が緩んでいる快斗くんもどうやら浮かれている様だ。
「うわぁすごい人...あれ、警察官もいるみたい」
「あぁ...呑気に遊びにきたってわけではなさそうだぜ」
ミステリーコースター乗ろうぜ!と言った快斗くんに連れられて怪奇と幻想の島に来た私達の目に映ったのは、人の群れを抑え込みながら慌ただしく動き回る警官隊。ジェットコースターのレールや地面に散っている血痕の量を見る限り、快斗くんの言うように只事ではなさそうだ。工藤くんのいるところに事件あり、事件あるところに工藤くんあり。どちらにしてもこんな騒動黙ってみている彼ではない。今にも犯人はあなただ!と自信満々に指を突きつけている幻聴が聞こえてきそうだ。
「これじゃあ当分は乗れないね」
「だな。じゃ、お化け屋敷でも行こうぜ」
「えっ...」
工藤新一が来てるんだってよ!あの高校生探偵が事件推理してるんだって!風に乗って聞こえてきた声にほらやっぱりと顔を引きつらせる。今すぐにでも背を向けてここから立ち去りたいのは山々だけれど、次の行き先を聞いて思わず体が固まった。興味本意で集まる人の流れに逆らって歩き出した快斗くんの手を慌てて引っ張る。幽霊とかお化けとか非科学的なものは全くもって信じていないけれど、お化け屋敷だけは駄目だ。とんでもない醜態を晒す羽目になる。なんだよ、こえーのか?なんてニヤつく快斗くんにちょっと疲れたから休憩しよう?なんて口から出任せもいいところ。私の様子がどんなに可笑しくても無理に聞き出すことはせず、すんなりと受け入れてくれるのを知った上で言う私は卑怯者だ。
「飲み物買ってくっから大人しく待っとけよ!」
「うん、ごめんね」
「いいって気にすんな。それより知らない奴に声かけられても着いてくんじゃねーぞ!」
「そんな人なんていないよ」
ビシッと私に指を向けて釘を指す快斗くんに思わず苦笑する。人ごみに紛れながらも絶対着いてくんじゃねーからな!としつこく言い続ける快斗くんを見送ってベンチに腰掛けた。内心で子供じゃないのだからと後ろ姿に舌を出したのは内緒だ。
快斗くんに多少の後ろめたさは感じるも、蘭ちゃんが雷や怪談が苦手だったり、園子ちゃんがイケメンに弱い様に私にだって苦手なものの一つや二つ...三つくらいはある。特に暗い場所は昔から苦手だった。どんなに心を静めようとしても自分の身体じゃないみたいに思う様に動かなくなる。未だ向き合えない過去に関係がある為、それだけはなんとしてもバレるわけにはいかないのだ。誰かに助けてと泣いて縋るのは簡単だけれど、弱い私はきっと自分の足で立てなくなる。そして重みになっていつか捨てられてしまう。そんな経験はもう二度としたくない。今まで自分を守る為に人との間に壁を作り、距離を置いて生きてきたけれど、蘭ちゃん達や快斗くんと出会えた事で安らげる居場所を見つけた。今度はこの関係を壊さないよう想いを隠し、弱味を見せず、自ら重い仮面を被る。蘭ちゃんの様に健気で強くありたいと渇望する私は、今はまだ全てに目を伏せて虚勢を張っていたいと嘆いた。
「どうした?気分でも悪ぃのか?」
「あ...、ううん、大丈夫!」
突然掛けられた声に身体がビクッと跳ねた。快斗くんに声をかけられるまで気づかないなんてとんだ失態だ。折角こんなに賑やかな遊園地に連れてきてもらっているというのにやってしまったと胸中で頭を抱える。ぼんやりしていた自分を啖呵して、訝しげに見下ろす快斗くんに慌てて笑顔を浮かべた。次はどこ行こうか?お化け屋敷以外でね!そう言って快斗くんに笑いかける私の仮面は当分外れそうにない。