快斗くんは贔屓目なんかではなく中身も容姿も全て揃ったほんとうに恰好いい男の子だ。 事実、ここ数時間の間に擦れ違う女の子たちが1度は振り向ききゃあきゃあと頬を赤らめては足早に立ち去っていく姿を何度も目にしている。もちろん私にだって快斗くんの笑顔は凶器になり得るし、きゃあきゃあ言いたくなる気持ちも分からなくもないけれど、そんな彼の隣に並び、笑いかけられ、ましてや彼が惹かれている対象がなんの取り柄もない自分だなんてあり得ない現実に、今はまだ戸惑いが大きい。快斗くんにはぜひ眼科を受診してもらいたいところだ。偶にちらちらとこちらを伺う視線に臆病な私の心臓が悲鳴をあげることはあったけれど、心躍らせるアトラクションやなにより快斗くんと過ごすのは時を忘れるほど愉しくて気がつけば日が落ちかけていた。

どちらからとも無くぽつりと呟いた帰ろうか、の一言でトロピカルランドの出口へと歩き出す。人通りも疎らな道に足を進めながらあーあ帰りたくねぇなぁと吐いた快斗くんに、絡めた手をぎゅと握られて少しだけ痛かった。あんなにも行くことを渋っていたのに、帰る頃には名残惜しくて後ろ髪をひかれているのだから我ながら現金なやつだな、なんて失笑する。

「快斗くん、ひとつ聞いてもいい?」
「おーどうした?」
「快斗くんは幼馴染み...青子ちゃんを何十年もずっと見てきて好きにはならなかったの?」
「あー...好きか嫌いかっつたらそりゃあ好きだけどよ、あいつは俺にとったら家族みてーなもんだぜ?どっちかっつーと友愛とか家族愛にちけぇな」
「可愛いなぁとか思ったことないの?」
「ば...ッ、バーロー!あいつにんなこと死んでも思うかよ!」

未練たらたらの私は流れていく景色を脳裏に刻んでおこうと目を配りながら、ずっと抱えていた疑問を快斗くんに投げかけてみた。顔を真っ赤に全身で否定する快斗くんにこれは思ったことあるんだなとくすくす笑う。へぇそっかぁ青子ちゃんそんなに可愛いんだぁなんて意地悪く笑う私にそんなんじゃねーよ!なんて声を張り上げる快斗くんは全然説得力がない。夕陽に重なってますます赤くなり、眉を寄せて頬を膨らませる快斗くんが可愛くて、「はいはい、そういうことにしとくよ」なんてからかいながらするりと快斗くんの手から逃れて距離をあけるために走り出す。私ばかり快斗くんに翻弄されているのだから少しくらい困らせたって罰は当たらないはずだ。「お、おい!青子のことは本当になんともおもってねぇからな!」と言って追いかけてきた快斗くんのすこし不機嫌な顔を振り返っては慌てて速度をあげる。そのまま出口へと駆け出した私と運動神経抜群の快斗くんの距離なんてあっという間に縮められてあっさり捕まってしまったのは言うまでもなく、もう少しだけ体力付けようと年々衰えていく自分に落ち込んだ。

トロピカルランドの出口前、この線を超えれば敷地外だ。先に出た快斗くんの後ろ姿を見つめてよし!なんて意気込んでみても、なんだか少し物寂しいくてなかなか後一歩が踏み出せない。それほどトロピカルランドは愉しくて思い出の場所となった証拠だ。もう1度暗くなったトロピカルランドを振り返って見納めとばかりに焼き付けた。また蘭ちゃんと園子ちゃんとも来たいな、なんてイルミネーションでキラキラ光るトロピカルランドを一望する。本当は今日の事を誰にも言わないつもりだったけれど、あまりにも幸せで夢みたいな時間だったと今すぐにでも誰かに報告したくなった。事後報告だと園子ちゃんあたりがそれはもう、もの凄く五月蝿そうだ。「そーいう大事なことはすぐに報告しろって言ってるでしょーが!」ぎゃんぎゃんと騒ぐ園子ちゃんが簡単に想像できて笑ってしまった。あ、そうだ。写真でも撮って園子ちゃんに送ってあげよう。そういえば快斗くんと写真を一度も撮ってないなと鞄を漁るも見当たらない携帯電話にだんだん血の気が引いていくのが分かった。遂にはひっくり返す勢いで鞄を探る私にどうした?と心配した快斗くんが引き返してくる姿が目の端に映ったけれど応える余裕はない。最後に携帯触ったのいつだっけ、全然記憶がない...!身体に手を当てるも、ずっしりとした重みのないポケットに泣きそうになった。

「ごめんなさい、携帯無くしたみたいだから私ちょっと探してくる!」
「まじかよ...俺も一緒に探す!」
「大丈夫、快斗くんはもう外に出ちゃったし気にしないで先に帰ってて」
「オメーひとり置いて帰れるわけねぇだろ!」
「本当に大丈夫だから。今日はありがとう、楽しかった」

とりあえず落ち着こうと深く息を吐いて、思ったより近くにいた快斗くんに事情を伝える。着いてきてくれると申し出てくれた優しい快斗くんを制して、前は急げとばかりに踵を返した。夜のトロピカルランドは少し薄暗いけれど、外灯やイルミネーションのおかげか道ははっきりとしていて躓く恐れもなさそうだ。出口へと向かう人の波を避けながら駆けていた私は、少し遠くなった快斗くんにまた携帯見つかったら連絡するね!と手を振って彼と通った道筋を今度はひとりで引き返す。これ以上快斗くんに迷惑を掛けたくはない。寄った場所は全部手当り次第に探してみようと一先ず1番近いトイレに足を急がせた。