(診断メーカーで出たお題を書いています。)

・マーリンへの愛の言葉:大切なものを見つけた日に、そっと目を伏せて「だって、どうしても諦められない」(僕から君へ、あいの言葉

※マーリンと夢主が兄弟
※近親愛



切にしていたピアスを失くしてしまった。
 穴を開ける勇気は無くて、胸元に、細身のネックレスチェーンを通して下げていた、大切なピアス。兄上様とお揃いの、ピアス。
 落とした事に気が付いたのは、自室に戻った時。常の癖、自分を落ち着けようとピアスを握ろうとした手が空を握った瞬間。呼吸が止まって、茫然と立ち尽くした後、必死に其の日自分が立ち寄った場所を思い返して探し回ってみたが、其の日はとうとう見つからなかった。



 そうして一日、二日、三日……一週間、と只悪戯に時間ばかりが過ぎていく。
 一人で探すには限界があって、けれども、劣等感の塊のような私は誰かに頼る事も出来ず、只一人で闇雲にカルデア内部を、空いた時間を見つけてはピアスを探して歩き回っていた。
 そうするうちに、兄上様が私に声をかけた。
「お前はこのところ随分と必死だね」
 ……ええ、そうです、兄上様。……私はとても珍しく必死になっているのです。
 こんなに必死になったのはきっと私がまだ円卓の輪の隅へいる事を許されていた時分くらいなものではないだろうか。あの日々の私は、只管、兄上様の顔に自分が泥を塗る事が無いようにと必死だった。ともすれば兄上様に、追い越せはせずとも追い付き、周りに認められたくて必死だった。無論、そんな事が到底私如きに出来るはずもなく、夢は夢のまま、私は無情な現実へ引き戻されてしまったわけだけれど。
「ピアスの一つや二つ、新しいものを買えば好いじゃないか」
 ……いいえ、いいえ、兄上様、あれは私にとって一等大切な品なのです。……あれでなくてはいけないのです。
「何故?」
 兄上様が不思議そうに眼を瞬かせ、小首を傾げる。
 答えは当の昔から決まりきっているのだけれど、私は答える事が出来ず、黙って俯く。
 そうしていると、兄上様はややあって仕方がないなと柔らかに笑い、私に握った手を差し出してきた。
 なんだろうかと恐る恐る両手をその下に差し伸べると、兄上様が手を開く。

 はらり、

 手の上に失くしたはずのピアスが落ちてくる。
 目を零れ落ちんばかりに見開いているであろう私を見下ろしながら、兄上様が言う。
「一寸した悪戯のつもりだったのだけれどもね。よもや、お前がここまで必死になるとはこの兄をしても予想外だったよ」
 替えの利く物だろうに。
 兄上様はやはり不思議そうにしている。
 私は目を伏せて、重たい口を開いた。
「……だって、どうしても諦められないのです」
「ただの物なのに」
「……それでも、どうしても。……兄上様にとっては、只の物であったとしても」
「そうかい」
「……はい」
「つくづく、お前は人間寄りなのだね。素敵な事だよ」
「……そうでしょうか。……いいえ、そうですね、素敵な事です」
 兄上様は覚えていないのだろう。このピアスがなんであったのか。あるいは覚えていても大した事ではないと記憶していらっしゃるのか。
 私がこうしてたった一つの物に執着している事が、私が兄上様とは反対に人間寄りであるから、ということであるならば、私はやはり、この悍ましい身を呪うしかない様にも思う。
 けれども人間を愛す兄上様は言うのだ。
 それは素敵な事だと。
 だから私も言うのだ。
 それは素敵な事だと。
 人に似た感性を持ったが故に抱く劣情、執着、あらゆる醜悪な、到底兄上様に見せられないような感情。私はとても人間が素晴らしい生き物には思えない。思えないけれど、思うのだ。兄上様が其れを愛す限り、ずっと。
 私は兄上様を、ずっと、慕っているから。



 私は一つだけ、自分が人間寄りで良かったと思う事がある。
 私は兄上様を愛し続ける限り苦しみ、其の苦しみと醜悪な感情への羞恥で己を罰することができるのだ。
 兄上様への気持ちをどうしたって諦めきれない私には、とても似合いの罰だ。
 だって、どうしても諦められない。
 手の上で輝くピアスを必死に探し続けた様に。

 どうしても。

19.1.1

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