※第六特異点・神聖円卓領域キャメロットのネタバレ有り
ベディヴィエールは円卓に於いて、何の取り柄も持たぬ騎士だった。
他の盟友たちの様に華やかな功績も、飛びぬけた才能も持たぬ、持たざる騎士。
ごく普通の、騎士。
其れがベディヴィエールだった。
キャメロット城内、夜という事もあり昼の活気はやや鳴りを潜め静かな其の廊下を、ベディヴィエールは歩く。向かう先は既に決まっている。昼とは異なり聊か大きく響く足音を気にしてか、少しばかり足運びは慎重になってこそいたが、その足取りに迷いはない。
目的のその場所まで歩みを進めれば、確かに其処に、彼はいた。
「今晩は、ベディヴィエール卿」
振るっていた模造刀をゆっくりと降ろし、彼――ファーストはベディヴィエールへ視線を寄越した。
「今晩は、ファースト卿。……こんな真夜中に訓練を?」
「……貴殿(あなたさま)には既に見られてしまった後故、開き直っておりますが……他の方々にこの様な姿を見られるのは恥ずかしいのです。其れから、私の事は呼び捨てて下さって構いません。只の、一人の騎士に過ぎぬのですから」
「呼び方は性分ですので、慣れて下されば。其れよりも、訓練をされることは決して恥じ入ることではないかと思うのですが……」
「……単なる、個人の問題ですよ」
ともすれば冷徹とも、鉄仮面とも受け取られる硬い表情、其の口元に微かな苦笑を浮かべる。
「そうですか……」
「はい。……人並みに他人を妬んでしまう気持ちもあるが故の、意地のようなものでもありますが。要するに、私は子供なのです」
「そんなことは無いと思いますけれども、」
「貴殿はお優しい方ですから。でも、事実、そうなのです。誰がどう言おうと、私から見た私は、そういう人間なのです」
どこまでも自分に厳しいファーストの言葉に、ベディヴィエールは小さく肩をすくめる。
彼の気持ちの全てとは言わないまで、ほんの一かけらくらいは、ベディヴィエールも分かっている気でいた。
華やかな功績を持つ騎士たちと共に円卓に名を連ねるという重圧。自分という存在に果たして価値があるのかという耐えぬ疑問。同じでありながら根本から異なっている強大な存在が傍にいる、というのは即ちそういう事だ。こればかりは、周囲が何をどう言っても、本人の中で折り合いをつけられねばどうにもならない問題だろう。
幸いにして、ベディヴィエールは全てとまではいかないまでも、ある程度の折り合いをつけられるきっかけは得られていたので、ファースト程ではないだろうが。
「……それでも、私は貴方を素晴らしい騎士だと思います。……その、嫌みではなく、純粋に」
「……ありがとうございます。其れでも、私は私の望む騎士からは、まだ遥か遠い場所にいるのです」
「……貴方の目指す騎士、ですか?」
「はい」
「それは……?」
「 ―――――― 」
あの時、彼は常は浮かべぬ寂し気な微笑みと共に、なんと答えたのだったか。
1500年という遥かな時間はあらゆる思い出や記憶を其の向こう側へと浚って逝ってしまった。
今のベディヴィエールに遺されているのは、只、王の為に果たすべき最期の忠節のみ。
其れだけが。
罪が固く強く熱く焼け付いたこの身を動かす唯一つの誓いだった。
少なくとも、ベディヴィエールの意識の中では、そうだった。
そして、今、最期の瞬間。
その肉体が崩れ落ちる、今際の際に。
(ああ……!!)
ベディヴィエールは、思い出す。
あの時、ファースト(かれ)が言った言葉を。
そしてベディヴィエールは、思い知る。
あの時の、ファースト(かれ)の言葉の真意を。
「……! 先輩、あれは……!」
遠く、遥か遠き未来からやって来た騎士の後輩が声を上げる。
「……成程、独りでは、無かったのか」
近く、眼前の獅子王が、何処か納得した様な声で呟く。
『ベディヴィエール卿、』
ベディヴィエールの消滅の間際に、ようやっと姿を現した彼が問う。
『私は、少しは貴殿のお役に立てましたでしょうか?』
ベディヴィエールは円卓に於いて、何の取り柄も持たぬ騎士だった。
他の盟友たちの様に華やかな功績も、飛びぬけた才能も持たぬ、持たざる騎士。
ごく普通の、騎士。
其れがベディヴィエールだった。
そんなベディヴィエールの傍に、
――願わくば片腕として、仕えたい。
と。
そう願った物好きな騎士がいた。
随分と長い事、いいや、長すぎたが故に忘れてしまっていたけれども。
(そう、か。貴方は、ずっと、傍に……)
自分の事に必死で、気が付く事すら出来ずにいたけれど。
(……ずっと、私の『右腕(かたうで)』として、傍にいてくださったのですね)
きっと『右腕』となる前から、ずっと、ベディヴィエールが気が付けなかっただけで、傍にいたのだろう。
彼の存在に初めから気が付いていた筈の魔術師(マーリン)は、何故彼の存在を教えてはくれなかったのか。
けれども教えられていたらベディヴィエールは此処まで己を奮い立たせることはできなかったかもしれないから、これが、正しい選択であったのかもしれない。
それでも、そうであったとしても、
長年傍で支え続けてくれた彼に、何一つ返せぬまま、
此処で朽ち果ててしまうことを、
酷く、口惜しく思った。
――ありがとう。
と。
感謝すら、伝えられぬまま。
己が此処で朽ちて逝くことが、覚悟していた事なのに、酷く口惜しかった。
19.1.2
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