※小林多喜二成り代わり
※森鴎外がとばっちり
※文豪殺害(死!ネタ)有り
転生した文豪を殺したのなら、何が残るのだろうか、と思った。興味本位だった。
魂の宿った書物とインク。温みのない人工物の子宮から生まれた人造人間(ホムンクルス)。それが俺たちだと思っている。
実際のところ、どうなのかはまだ知らない。この図書館で絶筆した文豪はまだいないから。
試しに司書である彼女にも聞いてはみたが、知らないのか秘匿とされているのか、俺の知りたいことは知れなかった。
そもそも書物から文豪を転生させるときだって、俺たちはときには潜書して宿る魂を引っ張ってくることもあるけれど、そこから先、何をどうして人間の形をした何かが生まれてくるのかは全くわかっていないのだ。種も仕掛けもわからない、得体のしれない錬金術(マジック)。得体のしれないものをこそ解き明かしたいという極めて人間らしい恐怖心という大義名分を引っ提げて、俺は行動に移った。
死体が残ったら面倒だな、という理由から、軍医であった森先生を狙った。
「最近頭痛がひどい」と訴え、「一度診察してほしい」と頼めば簡単に二人きりになれた。
森先生が油断していたのと、図書館に来た時期の違いから生まれていた錬度の差で、殺すのはとても簡単だった。
俺たちの体は画面越しに見ている分にはとても頑丈そうに思えたのだけれど、ちゃんと急所を狙えば死ぬらしかった。
物言わぬ躯になった森先生を見下ろしながら、さて俺はどうしようかと考える。
どうやら俺たちは、殺された場合はちゃんと死体は残るらしかった。それとも時間経過で消えるのかしら。わからない。
このまま見つかってもいいけれど、それだけではつまらない気もしていた。この生には大分飽きが来ているし、ちょっとくらい、スリリングなことがあってもよいのではないだろうか。そう考えた結果、森先生を選んだのだ。遺体が残った場合、検死をされればすぐに自分の仕業だと割れるに決まっているから。この図書館に生まれ落ちた文豪たちの武器は、特徴的なものと一般的なものとでわかれていた。俺は特徴的すぎる方だった。
それに、殺されたら死体が残るという発見もある。これをもとに司書さんも大いに研究に励んでくれればいいんじゃないだろうかな、なんて思ったりもした。
ので、俺は適当にそれらしい密室構築をすることにした。
凶器が刃物であることはすぐにバレるだろうが、刃を獲物とした文豪は多いし、まともな検死ができる森先生が死んでしまったのだから、すぐに俺の武器だとは断定されはしないだろう。刺し殺したんじゃなく、斬り殺したのだし。
それから、図書館から支給されている連絡および暇つぶし用のスマートフォンを用いて密室トリックなんかを検索してみる。ビニール袋でサムターン式の鍵は閉められるらしい。ちょうど惰性でために貯めていたビニール袋はあるから、使わない手はないだろう。
あとは、アリバイ。
森先生の部屋を直接訪問したから目撃されている可能性は低いかもしれないが、それでもないに越したことはない。誰か見ていたら間違いなく、俺が森先生と二人きりになる時間があったことがバレてしまうのだから。まあ仮に俺の犯行可能だとわかったところで、動機が分からない、となるだろうけれど。
ああいっそ、死体をなくせないだろうか。
森先生の傍に落ちている本が目に映った。森先生が転生した直後からずっと持っている本だ。司書は、俺たち自身であるから大切にするように、と言っていたことを思い出す。潜書で傷ついた時も、司書がこの本を補修してくれることで、体の傷が癒えるのだ。
ふと、気になることがあった。
部屋の鍵をかけ、明かりを消し、俺は慎重な手つきで森先生の本を拾い上げる。そのままいつもの要領で、その本に潜書してみた。
存外あっさりと潜り込めた世界は、この世界に徐々に定着しつつあった森先生そのものであった。
肉体を殺せば死体が残る。
なら、俺たち自身である本がどうにかなってしまったのなら、どうなるのだろう?
俺は興味の赴くままに、浸食者たちの真似事を始めた。
どうせ森先生はもう死んでいるのだ。
死人には文句を言う口もない。
それならば“私”は当に死んでいることになるのだろうか。
ふとそんなことを考えて、変な笑いが込み上げてきた。
19.1.4
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