「
あ、ジョーカー、」
「……あァ?」
「の、黒い方」
思わず指差しかけた手を引っ込めて、代わりにそう付け加える。目の前の人形めいた整った美貌が、不愉快を隠そうともせず歪んだ。
歪む表情さえもその美しい顔をもってすれば様になっていて、一定水準以上の美しさというのは何をしていても様になってしまうものなのだな、と変な感心が生まれた。
「けっ、てめえまであいつを白だっつーのか。見る目がねぇな」
「ダイイチインショウ? ……てきな話だよ。中身がちがうことは分かってる」
「ほぉ?」
「ジョーカーたちは、たんじゅんに白と黒では分けられない」
そう。
そっくりな見た目に反して、いや、瓜二つであるからこそなおのこと、ジョーカーたちは白と黒なんてものでは分けられない。
同じ分だけ遠く。遠い分だけ近く。いつかどこかで読んだ、誰かの推理を思い出す。
即ち、彼らの正体を。
「ちったあ賢いじゃねえか、ガキ」
「だんな様のお顔に、ドロはぬれないから」
「……ッチ。訂正、てめえは馬鹿だ、ガキ」
「む、」
感心したような言葉は、しかしぼくの言葉で台無しにしてしまったらしい。
意外そうに微かに見開かれた瞳が再び歪み、舌打ちと共にやはり馬鹿だと烙印を押しなおされた。
それに、思わずむっとしてしまう。馬鹿とはなんだ、馬鹿とは。アリスよりは、馬鹿ではない……と、思いたいが、どうだろう。
「お前の“旦那様”はいねえんだ、気にしてたって意味ねえだろうが」
「いなくても、いるよ」
「いねえよ」
「いるよ。ぼくがいると思うかぎり。わすれないかぎり」
「……めんどくせえやつだな。お前も、あいつも」
「ジョーカーも、ぞんがいにめんどうだと、思うよ」
「あ゛?」
「やさしい人でいたいのに、たいへんだね。お役目のある人は」
「……」
虚を突かれたような顔を一瞬だけ見せたけれど、すぐにジョーカーは唇をかみしめ、何かを堪えるような顔になる。どこか、辛そうに見えるのは気のせいだろうか。気のせいでは、きっとない。彼だってアリスが大好きだから。
この世界はみんな、アリスが大好きだ。ここはアリスが愛されるための世界だから。アリスの行動一つで歪んでしまうものがあるかもしれなくとも、それが結果としてアリスを傷つけることになったとしても、それでもこの世界は間違いなく、アリスのための世界なのだ。
彼女は、この世界のヒロインなのだから。
「……ケッ、優しくなんかねえよ、俺様は。気持ち悪ぃ」
19.1.6
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