イオイ、いくらなんでもそりゃないだろギギナさーん?
 なんて思ったところで口に出さなければ伝わることはない。むしろ口に出しても伝わるか怪しい。
 あーあー、可哀想に。涙目なってる通り越して泣いちゃってるよ。
 首根っこをギギナの左腕で捕まれ、ギギナの右腕に捕まれたフォークに突き刺された肉や野菜を次々口にねじ込まれていく『ギギナのペット』。じたばたと首を掴んでいる手を引きはがそうと抵抗しているようだが、そこは流石のギギナ。あの剛腕には如何に怪物ペットであろうとも簡単には太刀打ちできないらしい。そもそも碌に飯すら食っていない弱った怪物なんて、ギギナにとっちゃ相手に不足しかないのだろうけれど。
 飯を食わないなら飯を食わせるしかない、と思い立ったギギナの行動は本当に早かった。
 珍しく食材を大量に購入してきたと思ったら飯を作れなんて横暴な要求。挙句食材の費用はツケだというのだから例によって例の如く悪態の吐き合いをしたのち、どうやらその食料がギギナのためではなく、ギギナが拾って来たペット――もとい名前はファーストという――のためだったことが判明し、そういうことならと俺は俺にしては珍しく素直さを総動員して丹精込めてご飯を作ったわけだが、その後が、これである。
 まあ確かにあのまま放っておいたら本当に食わないまま食べ物腐らせそうだし、それは作り手としてはもったいないやら悲しいやらあるからなんであれ食ってくれるのなら嬉しいのだが、その嬉しさもギギナのあまりにも強引な手段によって帳消しどころかマイナスへ振り切れそうな勢いだ。
 と、いうか。
「ちょっ、待て待て待て待てギギナ!? 首っ、首絞めあげてる! そのままじゃ餓死する前に窒息するぞ!?」
「む? ……ああ、どうやらそのようだな」
 そのようだな、じゃあない。
 涙でぐしゃぐしゃの顔はギギナの剛腕に締め上げられた結果酸素欠乏状態に陥っていたようで真っ青だ。今ファーストは間違いなくあの世行き片道切符を片手に握らされかけているに違いない。
「いいことを思いついた。素直に咀嚼し嚥下するなら腕の力を緩めてやる。そうでないならこのまま締め上げた状態で食事を続けるとしよう」
 いやそれいいことじゃないですし。
 食事じゃなくて最早ある種の拷問に近いところまで来てるんですが。
 そもそもファーストが死にたがりさんだったりしたらその取引は全く持って意味をなさないことをギギナは理解しているのだろうか。いやきっと理解していないに違いない。奴の中でファーストに提示されている選択肢は素直に食事をする『yes or はい』のみなのだ間違いなく。流石脳みそまで筋肉で出来ている筋肉だるま。
「……ぁ、……ぁ゛ぐ…、ま」
「ふむ、締め上げて続けたいようだ」
 ファースト、この男に比べたら悪魔の方がきっと何十倍も優しいと俺は思うぞ。連中は人間を堕落させて破滅させることが目的だからむしろ甘やかしの術に長けていると俺は見ている。
 目の前にいる俺以外の人類にとっては到底交流できなさそうなファースト曰くの『悪魔』は自分には甘いが他人を甘やかして言うことを聞かせるなんていう駆け引きめいた器用な真似は絶対できない。基本的に力でねじ伏せればいいと思っている。何せ脳みそまで筋肉だから。
「早く口を開け」
「ん゛、ぅ゛えっ……!」
 そして可哀想なことに、ギギナ主催ファーストに餌付け大会もしくは夕食という名の皮を被った拷問めいたその時間は、まだ始まったばかりなのだった。

19.1.14

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