※とうらぶ×FGO
※小烏(not 小烏丸)成代/捏造



わったな、と思う。
 いや、実の所変わった訳ではなく、単に自分があの子のそういった一面を一切知る事無くその関係を断ってしまっただけなのだろう。
 知らなかった。
 あんな風に、柔らかく笑う事を。
 知らなかった。
 あんな風に、穏やかな声で話す事を。
 知らなかった。
 知らない事ばかりだった。
 「僕の事を知ったつもりで語るな」とその時の激情に駆られて切り捨ててしまったけれど、相手の事を知らないのは何もあの子に限った話ではなく、自分だってそうだった。あの子の事を何一つ知らないまま、知ろうとしないまま、あの子との縁を断絶してしまったのはほかならぬ自分自身だった。
「名前さん!」
 明るい声音で、淡い紫の髪をした少女があの子を呼ぶ。
「はい、如何なさいましたか、マシュ様」
 あの子が穏やかで、柔らかな声でその呼びかけに応じる。
 二人はそのまま談笑しながら肩を並べ、緩やかに遠ざかっていく。



 もしも。
 もしも、あの時、僕が激情に駆られず、辛抱強くあの子との関係を続けていたのなら。
 あの少女のように、あの子と穏やかに笑いあい、肩を並べ、語り合えるような日が、或いはあったのだろうか。
 何もかもが今さらなことは分かっている。分かっていても、想像せずにはいられない。
「兄者?」
「……なんだい、弟丸?」
「……膝丸だ、兄者。いや、そうではなく……どうか、したのか?」
「いいや、何も? どうもしないとも」
「そうか……」
 心配そうに語りかけてきた弟は、それ以上、何も言及して来ない。
 踏み込んでよいか迷っているのか、あるいは踏み込むべきではない領域だと遠慮しているのか。いずれにせよありがたい気遣いだった。踏み込まれても、自分に返せる言葉はない。何せ、いまさらどうしようもない、取り返しもつかない話なのだから。
「……僕の弟は、お前だけだからね。膝丸」
 だから、返事の代わりに、自分に言い聞かせるようにそうつぶやいた。
 そう、僕の弟は、膝丸ただ一人。
「ああ。……ん? 兄者、今……!?」
「そういえばそろそろ昼餉の時間か。通りでお腹も空くわけだ。そろそろ広間へ行こうか肘丸。くいっぱぐれてしまう」
「膝丸だ、兄者ぁ!」
 背後で嘆くような声を上げる弟をそのままに、広間へ向かって歩き出した。

19.1.20

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