※とうらぶ×FGO
※小烏(not 小烏丸)成代/捏造
ぼんやりと、あの子が縁側で空を見ている。
此処の所激戦連戦続きだったようで、カルデア(あちら)の者は皆、つかの間の休暇を与えられたらしかった。
さりとて、折角の休暇にも何かしたいことがあるわけでもないらしい様子で、あの子は手持無沙汰に空を見ている。見ている、というよりは、虚ろな視線を向けている、といった方が正しいのかもしれない。あの子の視線は空を見てはいない。かといってどこか別の場所を見ているのかと云えば、そういうわけでもない。
ただ、ぼんやりと。がらんどうの視線を空に投げだしているだけ。無機物めいた瞳は、見ているだけでぞくりと肌が泡立つような気さえする。さながら、実に精巧に、人間に似る様作られた人形の、その瞳を覗き見た時の怖気のような。
近づきがたい、冷えた空気。
けれど、これは機会(チャンス)だと、脳裏で自分が囁いた。
「名前、」
だから僕はその囁きにしたがって、あの子に声をかける。
「っ?!」
ぎょっとしたように身をすくめ、はじかれたように僕に視線が向けられた。
「……ぁ、……髭切さま、……こんにち、は」
何かを言いかけて慌てて言葉をひっこめ、それから喘ぐように他人行儀な挨拶をあの子は投げてよこした。額からじわりと浮き出る冷や汗と、うつむいたままあげられない顔が、あの子が僕をどう思っているのかを如実に物語っている。
一歩、あの子へ距離を詰める。
肩が震えるのが見えた。
もう一歩。
今にも逃げ出してしまいたいのを堪えているのが手に取るように分かる。
さらに、もう一歩。
荒い息を努めて落ち着けようとしているのが、聞こえてくる呼吸音から伝わる。
「名前、」
手を伸ばす。
びくり、とあの子が肩を震わす。
「名前、」
震える肩に手を乗せる。そのまま這わすように肩を撫でれば、小さく怯えて身じろいだ。
けれど、逃げはしない。あるいは、逃げられないのか。どちらでも構わなかった。
「名前、」
耳に吐息と共に言葉を吹き込みながら、背に両腕を回して抱きしめる。
腕の中で可哀想なくらいに震える子が、酷く、いとおしい物のように思われる。
「……ひげ、き、り、さま」
ひゅーひゅーと酷く乱れた荒い呼吸の合間を縫うように、名前が応える。
「名前、」
黒い髪へ顔をうずめ、柔い頬に頬ずりする。
名前が身を固くする。
「名前、」
「、っ」
耳に舌を這わせ、甘く上唇と下唇で食む。
抵抗しようとしたのか、中途半端に名前の両腕が持ち上がるのを視界の端にとらえたが、ただ上がっただけで、掴んでくる様子はない。
それを良い事に、名前を抱きしめたまま床の上に倒れこむ。
「ひ、ひげきり、さまっ……!」
悲鳴のような切迫した声が名前の口からこぼれたが、それはひどくか細く、誰かに助けを求めるには遠く及ばない。
「別に、」
名前を床に寝かせ、上体を起こしてその顔を覗き込む。
「兄と呼んでも、かまわないよ? 僕はもう怒っていないからね」
そう笑い掛ければ、名前はひどく怯えたように自分を見つめ返してきた。
自分がこの子に与えた傷は、相当根が深いようだった。
それでも、止めてやるつもりは毛頭ないのだけれど。
19.1.21
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