※ダビデ成代
※近親愛



のねえ、僕、好きな人がいたんだよ」
 唐突なその告白に、正直、どう反応して良いのか分からなかった。
 だから僕は「そうなんだ」と当たり障りなく返した様に思う。
 それを気にした風も無く、彼は「うん」とこっくり頷いて、続きを話し始める。
「その人が生まれた瞬間、“ああ、この人が世界で一等愛おしいなあ”って思ったんだ」
「生まれた瞬間……!? え、いや、その、ええ、随分と歳の差があったんじゃ……」
「あはは、そりゃ、もう。親と子」
「うえええ……」
 親子くらい歳の離れた相手に恋とは、これ如何に。しかも生まれた時に一目ぼれ。
 つまるところ以前の僕――ソロモン王――に恋をしていたと言われているようなものなわけで。
 きっと当時の僕がそんな独白を受けたなら「ああ、うん、そうなんだ」で終わってしまった話だったのだろうけれど、『僕(ロマニ・アーキマン)』と『以前の僕(ソロモン)』は、もう殆ど別人に近いようなもの。感じ方だって大きく違う。
「君の事だから告白、」
「は、してないねえ」
「へ、してないの?」
「してないよ。したって意味が無いって分かってたから」
「意味が無い?」
「そう、意味が無い。言ったところで『ああ、うん、そうなんだ?』で終わらせられるような相手だったからねえ」
「……」
 一瞬どきり、と心臓が高鳴る。
 正しくつい先ほど考えていたセリフ、ニュアンスは少し違うかもしれないが、一語一句違える事の無いそれに。
 もしかして?
 いや、まさか。
 ぐるぐると渦巻き始める疑念。
 ファーストは笑って話を続ける。
「一世一代の告白をしても、意味が無いって分かってたから。なにせ僕は、その子がこれからどうなっていくのか、全部、知ってたから」
 ファーストが、穏やかな瞳で僕を見つめる。彼の瞳に映る僕は、大層顔色が悪い事だろう。
「だから、ね」
 ファーストが椅子から腰を上げ、僕の目の前まで距離を詰めてくる。
 椅子に座ったまま(正確には立ち上がる機会を完全に逃した)僕は身をのけぞらせる。ぎしり、と椅子が鳴く。
「せめて、この子が、ほんの一欠けらでも幸福を知ることができますように。そのためなら僕は、どんなことでもしますし、どんな代償であっても必ず支払いますから、……って。その子が生まれた時、僕は神様にお願いしたんだ」
 そのお願いが叶ったのかは分からないし、僕は一体どんな対価を支払えばいいのかも、よくわかってないんだけれどねえ。
 なんてのんきに微笑むファーストの顔が近づいてきて、額に柔らかな口づけを一つ落とされる。
「知っているかな、ロマニくん。額への口づけは祝福の意味があるそうだ。素敵なことだねえ」
 他人事のように笑いながら、くるり、とファーストが踵を返して部屋から出て行こうとする。
 その背中に、
「それで君の、」
「うん?」
「君の恋は、どうなったんだい」
 何を思ったのか、そんな問いを投げかけた。
「ああ、」
 彼は一つ頷いて、笑った。
「ちゃんと弔いは済ませたとも」

君が生まれた日

(初恋の命日)

19.2.10

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