※ユウ成り代わり
※名前変換無し



の名前は、ユウゼドリアマナトナデナラドナ=フィオレントナグリア。覚え辛いだろうから、ユウで良いヨ」
「ユウ……なに?」
「ユウゼドリアマナトナデナラドナ=フィオレントナグリア。……やっぱり長いし覚え辛いヨネ」
「……失礼を承知で言うと、とっても覚え辛い」
「だよネエ」
 正直に断言してくれたプリンセスに同意する。
 自分の名前だから憶えられただけで、一般的な名前と比較するまでも無く、私の名前は兎も角長い。一族代々の伝統或る由緒正しい名前らしいのだが、聞く人が聞けば一体何の呪いをかけられているんだとでも尋ねられそうな勢いだ。勿論呪いでも何でもない。きちんと親が(と云うよりも一族の皆が)考えてくれた名前だ。……伝統に則って。
「……何が吃驚って私の名前は此れでも短い方ッテ事なんだヨネ」
「短いの!?」
「此れでもネ。短いヨ。……参考までに叔父と叔母の名前を教えてあげようカ?」
いらない。聞いても理解出来ない世界が広がりそうなだけだもの」
「懸命ダネ」
 其処で一度会話が途切れる。
 プリンセスは何か話したい事がありそうだが、如何切り出したものか、と悩んでいるらしい様子。ならプリンセスから何か言ってくるまでは私は黙っていた方がいいかな、と再び床の上に腰を下ろす。
 広げ並べた商品を一つ一つ手に取り、検品していく。
 此処にあるのは全て商品だ。求める人が居るのなら、価格交渉をして売り払う。其れが私が一族の中で変わっていると言われる所以の一つなのだろう事は自覚しているけれど、もう気にしない事にしている。
「……貴方は行商人なの?」
「見ての通りダヨ」
「でも私、貴方とは初めて会うわ」
「そうダネ、私とプリンセスとは初対面だカラ」
「………………」
「プリンセス?」
「貴方、」
「ハイ」
「如何やって王宮に入り込んだの?」
「ちゃんと表から入って来たヨ? 不法侵入とか、魔法を使ッテー、トカじゃないヨ?」
「お父様かお母様に招かれたの?」
「ウウン、私を呼んだのはマイセンダヨ」
「……………………」
 プリンセスが頭を抱えてしまった。
 頭を抱えている理由は分かるから、私からは余計な事は云わない。
 如何にもプリンセスはマイセンとミハエルの二人を不審に思い、何もかもが信用できないと考えているらしい。二人はある日突然王宮にやってきて誰に不審がられる事も摘み出される事も無く当たり前の様に客人と云う立場に収まり、当たり前の様に王宮内で生活しているのだから、不審と云えば不審だろう。此処が王宮内の人間全員頭の中お花畑の様な国であったなら話は少し違ったかもしれないが、此処は悪党だらけの国ギルカタールの王都。しかも心臓ともいえる王宮内部。得体の知れない人間に警戒こそすれど、一切警戒しないと云うのは不自然を通り越して気味が悪いだろう。なまじ王宮内部で生活しているプリンセスは、常日頃から其処で勤めている人々の人となりを見てきている訳だし、違和感と不自然さと不審感は割増しになる事請け合いだ。
 私は事情が分かってるから何も気にする事無く当たり前の様に受け止められているけれど。
「……ユウ……なんとかさんは、マイセンと仲は良いの?」
「ユウで良いヨ。マイセンと私は同じ学び舎に通っていた同級ナンダ。仲は……悪くは無いんじゃないカナ? 良くも無いだろうケレド。『普通』って感じカナ」
「そう、じゃあお言葉に甘えてユウって呼ばせてもらうけれど……ぶっちゃけマイセンって何者?」
「マイセンはプリンセスに何て説明しタノ?」
「王族と悪魔」
「ソウ。其れで、プリンセスは如何思うノ?」
「大嘘でしょ。……細かな所作は卒が無いから、そこそこ良い家の出なんだろうって事は、まあ信じられるけれども。王族なんて早々いない事位、箱入り王女だって知ってるわ。ましてや、悪魔なんて!」
 有り得ない。
 プリンセスは拳を軽く握り、苛立ちを隠そうともせず吐き捨てる。
 揶揄われている。
 莫迦にされている。
 そんな憤りが言外に聞こえて来る。
 プリンセスを納得させるのは簡単だ。簡単だけれど、其れをして仕舞うと私はプリンセスに嘘を吐く事になる。意味も無く嘘吐きには為りたくない。
 此の場にはいない、今は自称『金貸し』のコンビを少し恨んだ。
 マイセンは軽薄そうな態度が言葉を軽くしてしまっているし、ミハエルは常にマイセンマイセンとしか云わない電波系オーラを放っているから、二人の言葉を疑ってしまうのも当然と云えば当然。
 只、あの二人は、本当の事を云わない時は有っても、嘘を吐く事は無い。……いやミハエルはあるのかな? あるかな。でもあれはミハエル自身が自覚せず勘違いしてるからっていうのがあるし、其れって嘘と云えるんだろうか。少なくともミハエルの中では其れが真実な訳で――おっと、脱線しそうになった。
 プリンセスが今か今かと私の言葉を待っている。
 其れに対して何と返そうか悩むこと数十秒。
「プリンセスにとっては信じられナイ事だらけだと思うケレド、少なくとも、マイセンは嘘は吐かないンダヨ。あんなダケド。あんなダケド
「……つまり?」
「ウウン、プリンセスに納得して貰エル答えじゃナイって事は分かってるンダケド、意味も無く嘘を吐きたくも無いカラ、私はこう答えるしかナイ。マイセンは本当にプリンスで、ミハエルは本物の悪魔ダヨ、ッテネ」
「……貴方迄然う云うの」
 至極がっかりした様な、残念然うなプリンセスの表情に申し訳ないとは思うものの、他に返せる言葉が無い。
「ごめんネ」
 悪い事をした訳では無いのだけれど、自然と謝罪の言葉が口をついて出た。私の悪い癖だ。自分が悪く無くとも条件反射で謝罪が飛び出す。其の所為で面倒事に発展した事もあるので何度か直そうとは試みるものの、一向に治る気配が無い。最早一回死んで生まれ直した方が早いんじゃないかと思った事もあったがミハエル曰く其れは無駄らしい。何でも魂レベルでそんな感じらしい。何故魂にまで謝罪根性が刻まれているのだろうか。簡単に口に出して仕舞える謝罪は云えば云う程言葉がどんどん軽くなっていっている気がしてならない。
「……なんで貴方が謝るのよ。いえ揶揄われてるのは気分が悪いから謝るのは良いけれど……、」
 半眼で私を見ていたプリンセスは、途中で「はっ」とした様子で言葉を区切る。
 何故だか不安にも似た何とも言えない予感がして、私は手を止めてプリンセスを見る。
「……若しかしてマイセンに弱みでも握られてるの?」
「ウン? イヤ、マイセンに握られる様な弱みは無いと思ったケド」
 記憶の中を浚ってみるが思い当たるものは何も無い。
「じゃあ単に私を一緒になって揶揄っているだけ?」
「私にプリンセスを揶揄う理由が無いヨ」
「でも、」
「プリンセス、」
 王族の言葉を遮るなんて不敬も良い所だろうけれど、此れ以上は完全に堂々巡りになってしまうから此処で此の話を終わらせるしか無い。
「プリンセスは私達の言葉が信じられナイ。デモ、私はマイセンとミハエルの事については二人が語った以上の話は出来ナイ。どうして?ってプリンセスが尋ねても、其れが真実で、私には嘘を吐く理由が無いカラとしか答えられナインダ。プリンセスがどれほど納得出来ない、嘘にしか聞こえない話であろうとネ。だから此の話は此処で御仕舞にしないカイ。堂々巡りになってしまうヨ」
「……私は単に不審人物の正体が知りたいだけよ」
 拗ねた様に唇を尖らせ、そっぽを向いて仕舞うプリンセス。其の顔に浮かぶ自己嫌悪の色から、内心自分が子供っぽいとかなんとか思っているのかな、なんて勝手に想像してみる。あくまで想像、事実は不明、口には決して出さない。
「ウーン……ミハエルは、鳥渡難しいケレド……然うダネ、マイセンなら調べようがある、カ、ナア?」
「ほんとっ?」
「私を信じる信じないはさておいて、マイセンの事を知りたいナラ、ルーンビナスの王族を調べると良いヨ」
「……」
「マイセンは、ルーンビナス王弟の子息、正真正銘のプリンスだカラネ。私が嘘を言っているニセヨ、真実を言っているにセヨ、調べれば直ぐに真実は明るみになると思うヨ」
「……其れで嘘だったら不敬罪通り越すのだけれど?」
「別に、イイヨ。嘘は言ってないカラネ。罪にはナラナイ。賭けても良いヨ?」
「幾ら?」
 賭け、と云う言葉にプリンセスが慎重な顔つきで尋ねて来る。
 此のプリンセスを乗り気にさせる方法……ふむ。
「じゃあ、若し私の言っている事が嘘だったラ、君が王との賭けに負けた時、助けてアゲル。具体的には1000万Gを肩代わりしてアゲル」
「……そんな手持ちがあるようには見えないし、貴方が取引が終わる前に逃亡する可能性もあるわよね?」
「手持ちはアルヨ。後で見せてあげル」
「逃亡の可能性は、」
「疑う様なら誓約書でも何でも書いてあげるケド」
「……誓約書くらいなら工面出来るかしらね」
「ア、其処は確り用意するンダネ」
 当たり前でしょう、と云うプリンセス。
 私の事信じてないしね、当たり前か。
 公的な誓約書で来るのか、其れとも特殊な加工がされた魔法道具(マジックアイテム)でも持ってくるのか。何でも良いけれどもね。再三云うけれど、私は嘘は吐いていないから。
「其の辺はプリンセスにお任せするヨ。時に、一応賭けだから聞くケレド、プリンセスが負けた場合はドウスルノ?」
「……貴方からの要求は何かしら、ユウ?」
「ンー……」
 正直信用して貰えれば其れで十二分過ぎるし、其れでなくても好きな人と結婚できない彼女を少し可哀想に思う気持ちもあるので、勝っても負けても手助けはしてあげても良いと思っている。
 と、なるとー……。
「ジャア、然うダネ、権力には興味が無いケレド、プリンセスが負けたら、プリンセス、私と婚約してくれるカイ?」
「――――は?」
「正直私が賭けるものに釣り合いそうなモノが其れ位しか浮かばなかったンダヨ」
 プリンセスが用意できなかった1000万Gの肩代わり。
 其れに見合う対価。
 1000万Gはプリンセスの未来に付けられた現段階での価格とも云える。自分の未来を『買い取れる』か『否』か。此の賭けの本質は、其処だろう。となれば貰うに最も相応しいのは『プリンセスの未来』。
 ……なんて言ってみるけれど、本気で結婚する気はない。あくまで『婚約』だ。其れにプリンセスがちゃんと気が付いているか如何かは別だけれど。
 あふあふと開いた口が塞がらないと目を見開いているプリンセスに、私は笑いかけた。
「其れで、プリンセス。此の賭け、伸るか反るか、どうする?」

勝率0%の取引

(結末はもう既に決まっているからネ)

19.2.15

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