※天橋幸弥と腹違いの兄弟
「
COSMO……?」
「そそそ、本郷弘樹の息子なんじゃないかーって今先輩が嗅ぎまわってる駆け出し声優くん」
「はあ」
「……なーんか反応鈍くなーい? 無関係なことじゃないじゃん! 思っきり関係あることじゃん!」
「はあ、まあ、そうなんですけれども……要は私と腹違いってことですしね」
「そーだよそーだよ!」
「……そうですね〜」
「……むー、やっぱ反応にぶーい!」
友人の不満げな声は右から左に聞き流し、手元のカップに視線を落とす。
黒々とした珈琲の水面に自分が映っていた。
ブラックコーヒーの苦みと酸味がどうにも苦手で、いつもは砂糖とミルクをたっぷり混ぜ込んでから口を付けている。そうしている内にこの店の顔馴染みの常連となり、自分でやらずとも店の人間が気を使って砂糖とミルクを混ぜてくれるようになったのだが、今日は偶々、対応してくれた店員が最近入ったばかりの新人であったようで、砂糖とミルクの入っていない、混じりけのない黒々とした液体が出された。
別段怒ってはいない。抑々人の好意を半ば当たり前のように享受していた自分が悪いのだから。
ただ、まだ手馴れていないらしい店員がポーションを持ってくるのを完全に失念していたため、自分の手で混ぜ合わせることもできず、結果として淹れたてのそれはまだ、手つかずのままになっていた。店もそこそこにぎわいを見せ始め、あの店員は忙しそうに店内を駆けまわったり、時折先輩アルバイターに注意されたりしている。あの分では砂糖とミルクを持ってくることはすっかり、記憶の端っこに追いやられているかもしれない。様子を見てもう一度声をかけてみようかな、と考えながら視線を友人に戻す。
「ところで、」
「ん?」
「それって極秘情報なんですよね」
「一応?」
「ここで大声で言って大丈夫ですか?」
「あ」
途端にさあと顔を青ざめさせ、挙動不審になって周囲の様子を気にし始める友人の表情の変化を眺める。
恐らく、他の客には聞こえていないだろう。友人のこういった一面も考慮して、かなり奥まった、あまり人が寄り付かなさそうな場所を陣取っている。
テンパっている友人をぼんやり観察しながら、名前は物思いにふける。
「……天橋幸弥、か」
会った事も無いどころか、今し方存在を知ったばかりの弟(仮)。
どんな顔をしていて、どんな声で話すのか。
気になりは、する。
するが、気にしても仕方がないし、知った所でどうなるというのか。余計な詮索はしても仕方がない。有名すぎる父親を持ったことで身につまされたことは山とある。だから今回も、存在を記憶に留めておく程度にしておこうと決める。
それでも、胸の内に沸いたもやもやとしたものは簡単には消えなくて、それを飲み干すように普段は口を付けないブラックコーヒーを喉奥へ流し込んだ。熱く、苦く、酸味のある液体は、嫌に口の中でねばねばとしつこく残り、胸の内の不確かな何かが、より存在感を増したような気がした。
18.11.27
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