自己を正当化することで自分自身を守ろうとするのは極めて正常なことだ。
だが、彼女はそんな自分自身を嫌悪している。
どろどろとした自己嫌悪の沼に絶賛沈んでいる最中であるらしい入り浸りに、さてどう声をかけるべきかと俺は思案する。
そもそも何があったのかすら分からない。落ち込むと突然、呼んでもいないのにふらりと現れるのは常のことではあるが。
ソファを占拠し、持参した羊さん枕を抱きしめてごろごろ転がっているだけの入り浸りは、ギギナと比較する必要もないほどおとなしくいい子にしてくれてはいるが、特に何かするわけでもなくタダでスペースだけ取られるというのはいただけない。
これがまた、ジヴみたいな美人だとかギギナ級の超絶美人であったのなら話が別であったかもしれないが、彼女は極めて平凡な顔をしている。美人かと問われれば否。笑えば愛嬌のある可愛い顔をしているが、それは平均的レベルの話であり、飛び抜けて、というほどではない。つまるところ目の保養としては不十分。失格。
うだうだへこんでいる彼女を見て、ギギナも鬱陶しそうな顔をしている。
「退け、皮下脂肪の塊よ」
「……」
「さらに脂肪を蓄えて丸丸肥えた家畜にでもなるつもりか?」
「……」
「此処は事務所だ。夕食の皿に並べられるのを待ちたいのであれば肉屋か養豚場にでも行くがいい」
「……」
「もっともそんな脂肪だらけで喰うところもなさそうな貴様の肉なぞ、熱したら解けて油だらけの到底食えたものではない液状に変化しそうではあるがな」
「……」
ざくざくと自動剣振り器ことギギナが、女性に対して失礼極まりない言葉を並べ立てているものの、聞いているのかいないのか、身じろぎはすれど返事は全くしない。ギギナも大概だが、彼女の方も随分と図太い神経をしている。
やがて痺れを切らしたギギナが屠竜刀ネレトーを構える。おいおいお前まさかそいつで斬るつもりじゃないだろうな、と思いつつ俺には相棒の暴挙を止めてやる義理がない。彼女のことを決して嫌っているわけでもなんでもないが、助けてやるだけの情を傾けているわけではないし、まあそれにギギナも何だかんだで彼女のことはそれなりに気に入っているはずだから、まさか本気ではあるまいとたかをくくっていたらものの見事に予想を裏切ってくださりやがったギギナ君は全力でネレトーを彼女へ振り下ろそうとした!
この距離じゃヨルガで防ぐだなんて無理だ。咒式を紡ぐよりネレトーが彼女を室温になったバターを斬るがごとく切断する方が絶対に早い。ましてや相手はあのギギナだ。無理だな。せめて痛みなく安らかに眠れよと心の中で唱えながら顔を隠すように領収書に視線を落とす。
が、いつまで経ってもグロテスクな切断音は聞こえてこない。
不思議に思って顔を上げれば、驚くべきことに彼女から生えている得体のしれない骨触手(通常の触手とは言い難く、硬質で、宛ら背骨から延びる肋骨のように細かくかつ鋭利な先端を無数に伸ばしている様から便宜上そう呼称する)がギギナのネレトーを絡め取っていた。
「貴様っ……!」
「……」
彼女はギギナには見向きもしない。骨触手がにょきにょきと増殖して、ほんの僅かばかりギギナが見せた隙を見逃さずにギギナまでからめ捕る。
「ファースト、そのままギギナを夕方まで拘束してくれたら今日の飯を食う権利をやるぞ」
そんな絶好の機会を俺が逃すはずもなく、なんだかんだで彼女が気に入っている俺の手料理という餌を吊るしてギギナを物理的におとなしくさせるための交渉を試みる。
声は返って来なかったが、代わりに気だるげにあげられた片手がぐ、と握り拳を作り、そのまま親指だけ上向きに立てられた。
交渉成立。
ついでに、少しばかり時間が余れば彼女の抱え込んでいる何がしを酒の肴代わりにしてやってもいいかな、という珍しい慈悲の心が片隅にそっと生まれる。
ともあれ、俺はこの機を逃すまいと、まずは領収書とじっくり格闘することにした。ギギナが拘束されている分、クーリングオフ含め諸々実にスムーズに事が運んだため、夕飯をちょっとばかし豪勢にしてやったのはまた別の話。
18.11.28
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