彼女は決まって気分が酷く落ち込んでいると事務所に転がりこんできた。ガユスやギギナの事情もお構いなしに、だ。
もちろん、彼女が来るときが必ず落ち込んでいると決まっているわけではないが、落ち込んでいないときはきちんとこちらの都合を聞いてくる程度の常識は備えていた。要するに、アポなしで突然来訪するときは決まって気落ちしている時だった。
「今度は何があったんだよ?」
「別に、何も?」
そういって笑う彼女。それがお決まりのやり取り。
心配かけさせまいとしているかのような殊勝な態度に見えるが実際は違う。彼女の瞳が訴える。もっと突っ込んだことを聞いてほしい、心配してほしい、優しくしてほしい、構ってほしい、甘やかしてほしい、と。
瞳で訴える卑しん坊。
だからガユスもギギナも求められるままに彼女を甘やかしてやる。全部が全部彼女の欲求に沿うものではないが、少なくとも二人にしては珍しく甘やかしてやっている分類に入る構い方をする。
ガユスは手料理を振る舞ってやったり、くだらない世間話に花を咲かせたり、咒式について教えてやったり。後は金をちらつかせられてちょっとしたサービス(といっても膝枕だとか肩を貸すだとか頭をなでるだとか、そんな類の可愛らしいものだ。)をしたり。
ギギナは渡りに船とばかりに夜の誘いをして彼女を抱きつぶす。金はかからないし、商売女と違って無駄に喘いだりもしないので都合が良いのだという。身長差があって多少面倒は感じるものの、それは他の女であっても大して変わらないから気にしないことにしているらしい。それ以外にも何かしら、彼女を夜の共にしたがる理由があるような気はするが、他人のベッド事情に首を突っ込むほどガユスは野暮ではないし、命知らずでもなかった。命は惜しい。というか抑々ギギナのベッド事情なんぞ知りたくもない、願い下げだ。
落ち込んでいる彼女は今ちょうどまさにギギナに誘われている。それに難色を示すでもなくあっさり頷いて見せるあたり、イケメンとは得だなあ、と思う。それから少し考えて、いや、そういうわけでもなさそうだな、と思い直した。
彼女はギギナがそうであるように、他人の美醜に重きを置いていない。勿論グロテスクな造形であれば、多少引いたりなんだりすることはあるが、それは殆ど反射的な反応のようなもので、その実、彼女自身はそこまで容姿というものに頓着していない。
仮にガユスとギギナが同時に誘ったとして、彼女がどちらを選ぶかは完全にランダムだ。10人中10人がギギナを選びそうな中、彼女は50%の確率でギギナを選ぶし、50%の確率でガユスを選び、ギギナを選ばない可能性がある。
彼女とはそんな人間だった。
一風どころではなく変わり者過ぎてひねくれているようにしか見えない、世間の常識の反対側ではなく斜め上あたりをあえて突き進もうとする、明るく見えて落ち込みやすく、卑しん坊で非常に面倒くさい人間。
だが、そんなぐちゃぐちゃな彼女の中身をガユスは(そしておそらくギギナも)なんだかんだで気に入っているのだ。そうでなければ、甘やかすはずがない。甘やかすメリットもないのだから。
18.12.17
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