2

グランドオーダー、模索開始

「……少しだったのになあ」

 苦い笑みを浮かべて落ちていく彼の姿を見ていた。
 伸ばした手は届かない。
 彼を守る盾も、もういない。
 最期に彼が残した音の無い言葉が、鼓膜を通していない筈なのに耳にこびりついて離れない。
 彼は言った。

 ――泣かないで

 と。
 私は泣いていない。
 両の瞳からは一滴も塩辛い雫は零れない。
 この胸の内には何もない。空っぽ。ただ虚無ばかりが詰め込まれている。
 主を喪い、何もかもが崩れ落ちていく其の只中、足から力が抜けて、座り込んだ。
 どうしようか。
 どうすればいいんだろうか。
 彼はいない。
 彼女もいない。
 彼と彼女を此処まで支え続けてきた彼らも、もういない。
 世界は極小の代償と引き換えに守られた。
 彼らは後の世で英雄として讃えられるだろう。

 彼らの功績を、知る者が、覚えている者が、いればの話だが。

 座り込んだままの私に、近づくものがあった。
 カランッ……と乾いた金属音を立て、足元に金の杯が転がされる。

「まだ、」
「……」

 私はゆるゆると顔を上げる。

「まだ、終わっていない」

 私の膝に前足を乗せ、其れは凛とした決意に満ちた瞳で私を見上げる。

「君がいる」

 其れは私を見上げ、懇願する。

「どうか、此の幕引きに抗う決意を」

 抗う。
 どうやって。
 私は余りにも無力なのに。

「君は確かに弱いかもしれない。けれど、無力ではない。だから、お願いだ、」

 ――私はこんな終わりは見たくない。

「――――――」

 ――ああ、
   それは、

 立ち上がる。彼を抱き上げ、落ちてくる瓦礫を避け、よろめく足を、確かに前へと進める。
 少しずつ、足の動きが早くなる。
 気が付けば、私は全力で疾走していた。

 ――それは、

 空の玉座が視界に映る。
 其の玉座に抱かれた十の輝きが見える。

 ――それは、

 少しばかり乱暴に、其れを掴み取る。

「私も同じだよ、キャスパリーグ」

 そして、我々は此の結末を否定する。



 これは、我々の長い永い『我々にとって最良にして最善にして最高の結末を探し求める旅(グランドオーダー)』の始まり。

19.2.26