本日は中秋の名月とのことでトイ☆ガンガンのお月見に誘われていた。
仲良くさせてもらっているためか、事あるごとに様々な行事に誘ってもらえて有り難いやら申し訳ないやらだ。だが、仲間に入れてもらえることは素直に嬉しいものがあった。
場所は月城荘の庭。簡易フィールドに入らずにある水道の横。レジャーシートを敷き、団子にスナック菓子やらおつまみ、それに大人組の三人はお酒を持ち寄り、わいわいと酒盛りをしているようだった。
花より団子ならぬ、月よりお酒、だろうか。
お酒の飲めない組である蛍と私はと言うと、ジュースを飲みながら、学校にいる時のように課題や鼎のこと等いつものような話で盛り上がる。
空を見上げると綺麗に輝く丸い月。
晴れてくれてよかったなぁと思いながら団子を口に運んだ。
「名前ちゃん」
ふと私の名前を呼ばれてそちらを向いた。
聞こえた声は雪村さんで、当たり前にそこにいたのも雪村さんだ。
どうかしたのだろうか?
小首を傾げると、雪村さんは来い来いと手を招き私を呼んだ。
「なにか用ですか?」
小走りで、サバゲー用の障害物として立てられている板に凭れる雪村さんの元へ駆け寄った。
ちょっと名前ちゃんとも話したくて。大丈夫?
そう掛けられた言葉が嬉しくて、私も話したかったという言葉は隠して、頷いた。
皆から身を隠すように、彼はフィールド内へと入って行くので私もそれに続く。
適当な場所に来ると、彼はまた板に凭れ掛かる。
私もその横に同じように凭れ掛かった。
話したくて。そう言われ、何かあるのだろうかとちょっとドキドキとしていたのだが、普段のようにただ学校生活はどう? やらなんやら、日常会話のようなものだった。
それでも、一緒に過ごせるこの時間は楽しいし嬉しかった。
ふと、雪村さんが顔を上げる。視線は月を指していた。
「晴れてよかったね」
はい、私もそう思ってました。笑みを浮かべ言葉を返す。
「……月が綺麗だね」
一瞬、何を言われたのかと思った。
いや、私が、何を考えているのか。
「そう、ですね」
動揺を隠して私は返す。
彼は、その意味を知っているのだろうか。いや、知らないのかもしれない。
私にその言葉を掛ける意味なんて、きっと無い。
そう必死に思ってはみても、やはり彼に恋をする私は少し期待してしまっているのだ。
彼の視線は、未だ天高く浮かぶ丸いお月様に向かっていた。
***
「そう、ですね」
掛けられた言葉は、少したどたどしかった。
一世一代の勇気を振り絞って! と、いうわけではないが、それなりに勇気の要る言葉だった。
なんとか口に出せた言葉は彼女に届いただろうか。
彼女の心に、届いただろうか。
ちろりと横目で名前ちゃんを見ると、月明かりに照らされるその顔は、微かに頬を染めていた気がした。
柄にもない言葉だ。
直接でもない、素直でもない言葉。それ自体はとても俺らしいものなのだが、いかんせん、ロマンチック過ぎるものだった。
貴女といると、月が綺麗ですね。
かの有名な夏目漱石の言葉。
I LOVE YOUを日本語で伝えるとしたら、という言葉。
同じ創作家ではあれど、SM専門のエロ漫画家である俺が使うには少し、申し訳のない言葉。
だが、それでも、心から想う彼女に使うなら。そう思って、声に乗せた言葉だった。
流石に前半の言葉はあからさまだろうかと、伏せてしまったが。
彼女は意味を知っているだろうか。
染まる頬は、そうであると、いうことなのだろうか。
ああ、やはり曖昧なことはすべきではなかったのかもしれないと、多少の後悔が残った。あと、やっぱり恥ずかしかった。
「私は、満月でなくても、普段の月も綺麗だと思いますよ」
綺麗に放たれる彼女の声が、耳に届いた。