季節外れの肝試し 後編


再度音楽の流れる音機関のスイッチを入れてから、僕達は会議室を後にした。
そのまま休憩室へと向かう道中、あらゆるメイクをして驚かそうとしてくる団員達と遭遇したのだが、ワンパターンすぎて最早飽きの域に入りつつある。
ホントうちの師団員って脳筋ばっかだな。

休憩室に着くと、片方のドアに入り口と書かれた張り紙がされていた。
もう片方のドアには出口と書かれていて、それを見たシオリがにやりと唇の端を吊り上げる。
あぁ、嫌な予感。

「シンク、出口に近づいている人は居ますか?」

「……居る、ね」

それを聞いたシオリは唇に人差し指を当てると、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
一体何をする気だと訝しげな顔をしている僕にランタンの光を消すように言いながら杖を寄越し、横髪や後ろ髪を前に持ってきて顔を隠す。
シオリがやろうとしていることを察し、僕は呆れながらもランタンの光を消した。

出口の前にスタンバイし、室内に居る団員達が出てくるのを待つ。
僕はその後ろに立ち、団員がシオリに攻撃した場合はいつでも庇えるように待機した。

「だから、くっつくんじゃねぇ!歩きにくいだろうが!」

「わ、わわわ私は貴方が怖くないようにという思いやりの元!!」

「怖がってるのはお前だろうが!!良いか、俺はこの程度の度胸試しなんざ屁でも」

怒鳴り声が耳に届くのと同時に、ドアが開かれた。
髪を染めたアッシュと、金魚の糞の如くアッシュにくっ付いているディストが現れ、シオリが笑い声を上げながら二人に抱きつく。



「「ぎゃああああーーーーー!!!」」



途端、劈くような悲鳴に僕は反射的に耳を塞いでいた。
音を立てて倒れてしまった二人の上に乗っかった状態でシオリは髪をかきあげ、きょとんとした顔で僕を見上げる。

「……気絶、しちゃいました」

「だね。全く、情けないったらありゃしない」

まさか目を回すとは思わなかったのだろう。
少しだけ申し訳無さそうな顔をしながら、僕に手を引かれて立ち上がるシオリ。

「まさかココまで驚かれるとは…」

「シオリみたいに耐性のある人間の方が珍しいんだよ」

手近に潜んでいるであろう師団員に二人の回収を任せ、改めて入り口から休憩室に入る。
この部屋では室内のあちこちから髪を引っ張られたり足をつかまれたり、手を引かれたりする。
反撃をすれば即失格なので、いきなり身体に触れられてもひたすらにもがくしかない…………予定だったのだが。

「おぉ!これは前の二つとは違いますね!ただ驚かすよりは好感が持てます!」

「あ、ありがとうございます…?」

腕を引かれたシオリは何故か興奮した面持ちで感想を述べ、腕を掴んだ師団員は何故かお礼を言っていた。
馬鹿か。

「この風は第三音素を使ってるのですか?」

「いや、扇いでるだけ」

「人力ですか。これは?この光ってるのはなんです?」

「そっちは第六音素を使ってるんだよ。ぼんやり光るようにするのにちょっと団員達が四苦八苦してたかな」

「良いですね!手形なんかにしたらもっと良かったと思います」

「あぁ、なるほど…手形にして壁中に貼り付けるとか」

「血痕よりインパクトがあると思いますよ」

椅子の下に隠してあった緑の玉を片手に、部屋の仕掛けについて語り合いながら僕とシオリは部屋を出た。
余談だが、全て終わった後団員達に何で驚いてくれないんですかと泣かれた。何故だ。

「後は懲罰室、ですか。王道ですね」

「王道なの?」

「はい。怨念とか一杯詰まってそうでしょう?」

納得したが、それは決してわくわくしながら言う台詞じゃないと思う。
そんなツッコミをしつつ懲罰室に向かう地下通路を歩いていると、ひんやりとした空気が流れ込んできた。
第四音素でも使っているのだろうか。

「雰囲気が出てますね」

作り物ではない笑みを浮かべながらシオリがすたすたと歩く。
突拍子も無くガタガタと牢の柵が揺れたが、それは完全にスルーである。
そんな中、途中の牢屋に誰かが入っていた。

ぼろい服を着た誰かは壁に向かって座り込み、何かぶつぶつと呟き続けている。
罰を受けずっとココに閉じ込められるとこうなる、らしい。

「シンク、玉が見当たりません」

「いや、少しはアレを気にかけてあげてよ」

ぶつぶつ言ってるだけだが、アレはアレで結構怖いものがあるんじゃないだろうか。
そう思うものの、シオリは玉を捜すためにさっさと先に進んでしまった。
そうして辿りついた懲罰室の最奥、団員達は密かに拷問部屋と呼んでいる部屋。
器具が並べられた部屋はそれだけでも迫力があり、怖がりな人間はこれだけでも気絶してしまうのではないだろうか。

「あ、シンク、玉ありました」

「……シオリってさ、一体どんな仕掛けなら驚くわけ?」

「さぁ?」

「さぁ、って…」

僕が感心している間に、シオリはさっさと玉を見つけていたらしい。
そんな中、なにやらずるずると何かを引きずるような音が背後から近づいてきた。
何事かと振り返れば、先程牢屋に入っていた男が両足を引きずりながら室内に入ってくる。

相変わらず言葉にならない言葉を呟きながら、時間をかけてゆっくりと此方に近付いてくる。
そして僕とシオリの目の前に立ったかと思うと、そのまま固まり、

「……あの、逃げてくださると嬉しいんですが」

そんなことを言われた。

「あぁ、逃げればよかったんですね!」

「はい。ゆっくり追いかけられる恐怖というのがコンセプトなので…」

「それはすみません。では私たちは玉を見つけたので次に行きますね。頑張ってください」

「あ、はい。ありがとうございます」

シオリに応援され、ちょっと照れくさそうにしながら元の位置に戻っていく団員を見送りながら僕はため息をついた。
この調子じゃ他の団員もあんまり怖がってないんじゃないか?

ちっとも怖がらないシオリを見てそう思いながらも懲罰室を出て、ゴールに向かう廊下を歩く。
ちなみにゴールは最初に待機していた広間なのだが、一体どれだけ景品が残っているのやら。

頭の中で景品一覧を反芻しながら歩いていると、廊下の先にピンクと金色のコンビが見えた。
アレはもしや…アリエッタとリグレットだろうか?

「二人ともまだゴールしてなかったわけ?」

そう声をかけるのと同時に、二人が誰かと対峙しているのに気付いた。
相手はぼろぼろになった入院着に身を包み、片足を引きずりながら何か呟いている。
髪はざんばらだし、俯いているために表情は見えない。

先程の懲罰室に居た男を思い出し、同じ内容かと思ったが段々と呟きが明瞭になって耳に届き始めた。

「…して…かえ……かえし……かえして、返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返して返してよぉおおおおおぉぉぉおおお!!」

明瞭になった言葉を壊れた音機関のように繰り返し、最後には絶叫。
アリエッタとリグレットに掴みかからんばかりの勢いに二人は半泣きになりながら持っていた玉を投げつけ、僕と#カナコ#に気付くことなくパニックになりながら元来た道を走っていった。
僕は周囲に人の気配が無いことを確認し、腹を抱えてその場に蹲り肩を震わせているシオリにため息をついてから、壊れた音機関を演じた人物に向き直る。

「……何してんのさ、オリジナル」

「あれ?ばれた?」

「解るに決まってるだろ…あんたベルケントに居たんじゃなかったの?」

「あはは、ベルケントも大概暇でね。シオリに誘われたから急遽特別出演で参加してみたんだよ。で、シオリはどうしたわけ?」

髪をかきあげて笑うオリジナルにため息をつきつつ、僕はシオリに周囲に人が居ないことを告げた。
途端、シオリは噴出しオリジナルを見て爆笑し始める。

「……なんで笑ってるわけ?」

「シオリ、全然怖がってくれないんだよね。だからじゃない?」

最早返事も適当だ。
爆笑しているシオリを何とか落ち着かせ、もう少し楽しむというオリジナルに別れを告げて、僕達はようやくゴールに辿りついた。

「うおおおおぉぉおおお!論師様!!ご無事でしたか!」

「師団長!!よくぞ論師様をお守りくださいました!!」

「お怪我はありませんか!?」

「すげぇ、論師様達が無事帰還されたぞ!!」

何か男泣きしてる団員達に迎えられながら、僕等はヴァンの元へと歩み寄った。
玉を景品に交換するためだ。

「あれ?全然減って無いじゃん」

「うむ、お前達が初の攻略組だからな」

「……は?」

「お前達以外、誰も攻略しとらんのだ」

背中で手を組んだヴァンの言葉に、僕は呆気に取られてしまった。

それから最後の組が辿りつくまで待ったものの、僕等以外に全ての玉を集められた組は居なかった。
正確に言うと懲罰室までクリアした組は結構いたのだが、最後のオリジナルの気迫に負けてそこでリタイアする組が続出したらしい。
なのでありがたく僕は有給を貰い、シオリはエンゲーブ産の果物盛り合わせを貰っていた。

最終的に一番度胸があるのは論師だという結果になり、団員達の尊敬の視線を集めながらお開きになった肝試し大会。
そんな中、何やら背後で喚く声が聞こえて僕とシオリは何事かと振り返る。

「いーや、俺は間違いなく見たんだ!ドアを開けた瞬間、長い髪を振り乱しながら笑い声を上げて飛びついてきた白い女を!感触だって残ってるんだぞ!!」

「私だって見ましたよ!ほんっとーに居たんです!!あの黒すぎる髪と柔らかい感触…アレは決して幻覚などではありません!!」

「だから、そんな仕掛けはありませんって。夢でも見たんじゃないですか?」

「…………」

「…………」

喚くアッシュとディストに、そんな仕掛けは存在しないと言う第五師団員。
思わず無言になりながらシオリを見れば口元を抑えながら肩を震わせている。
頼むからこんなところで爆笑してくれるなよと視線を送ればそっと目をそらされた。

「まさか…本物が出たのか!?」

「ば、ばばばば馬鹿なことを言わないで下さい!!本物の幽霊なんて居る筈が無いでしょう!!」

この後、夜の休憩室には本物の幽霊が出ると噂が立ち、それを聞く度にシオリが噴出しそうになるというなんともはた迷惑なオチがついたのだった。






季節外れの胆試し大会






ちょっと長くなりましたが、言論IF〜季節外れの胆試し大会〜でした。
怖い…のか?コレ。書いてる私は結構楽しかったんですけどね。
コレを書いてる間ずっと『結ンデ開イテ羅刹ト骸』という曲を聞いていたのでタイトルに拝借しようか迷いましたが、マイペースな論師のおかげでイメージから外れたのでこちらで。

ちなみに管理人はホラーが大の苦手です。
それなのに学生時代無理矢理参加させられたことがあります。
学祭のお化け屋敷でしたが友人1は何故か爆笑を繰り返し、友人2は携帯のカメラを連写するのするので恐怖も消え、調子に乗った私は論師の如く長い髪を使って脅かし役を驚かせてしこたま怒られたという過去があります。


清花

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