烈風と第五師団の日常
※第五師団副師団長視点
俺の名はロイ。騎士団に入団する際、ファミリーネームは捨てた。
今は光栄にも第五師団副師団長の座を勤めている。
我等が第五師団の師団長であるシンク様は、幼いながらも非常に有能で、それ故に多忙なお方だ。
第五師団に顔を出せない時は殆ど論師守護役の衣装を身に纏い論師様のお側に居るし、論師様直下情報部の人たちに指示を出したり逆に報告を受けたりといくつもの仕事を兼任している。
この多忙なシンク様の負担を減らすために、俺ができることは無いだろうか。
そう思った俺は、一日じっくりとシンク様の観察をすることにした。
朝。
シンク様は朝食を食べる前に必ず第五師団の執務室へと足を運んでくる。
だから俺はそれまでに書類を纏めておくのだが、小隊長達と数人がかりで三時間かかっていた書類の山を、シンク様は一時間もあれば終わらせてしまう。
書類が少ない日は僅か30分ほどで終わらせてしまうこともあり、シンク様の中では朝の軽い仕事として認識されているようだ。
この時師団服を着ているか守護役の服を着ているかで、今日一日シンク様がどちらの仕事をなさるのかが解る。
頻度的には師団服の方が多いが、やはりそれでも一日一回は論師様の元へと顔を出している。
今日は団服を着ているので、第五師団の方の仕事をしてくれるのだろう。
30枚近くあった1時間もかからずに終わらせたシンク様は俺に必要事項の確認や伝達事項が無いか確認を取った後、朝食を取りに行ってしまった。
ちなみに朝食は余程のことが無い限り、論師様と共に取っておられるそうだ。
師団に来たころはお弁当を持ってきていたのだが、マルクトとの外交があって以来シンク様は可能な限り論師様とご一緒になるよう努力されている。
論師様が誘拐され体調を崩されたと噂で聞いたから、きっと心配なのだろう。
そうして朝食を食べ終えたシンク様は、腹ごなしだと言って俺たちに稽古を付けてくださる。
腹ごなしという名目ではあるが、実質訓練を兼ねた交流に近い。
合間合間に連携がなっていないと叱られたり、回復が遅いと叱られたり、譜術の詠唱時間が短くなったと褒められたりと俺達のことをよく見てアドバイスを下さるからだ。
事実、俺も先日武器の動きが早くなったと褒められた。
しかし連携をとってシンク様に挑んでみても、今のところ一度も勝てた覚えが無い。
前衛がシンク様を抑えて後衛がダメージを叩き込もうと頑張っているのだが、シンク様は素早いため抑えることが難しく無詠唱の譜術を使用されればすぐに連携がかき乱されてしまうのだ。
それでも不屈の精神でシンク様に挑むのは、稽古の合間にシンク様が与えてくださるアドバイスが的確であることと、同時にシンク様を負かす隊が結成されているからである。
それを聞いた時はなんてモノを結成しているんだと絶叫しそうになったが、シンク様は怒ることなく面白そうだからやってみろと仰った。
なので今日も今日とて前衛二名、後衛三名、回復一名でパーティーを組んでシンク様に突っかかっている。
ずいぶん火力過多なパーティだな。
「崩襲脚!」
「三散華!」
「脇ががら空きだよ!」
前衛が技を使ってシンク様を抑えようとするが、案の定あっさりと避けられたシンク様に注意されつつ拳を叩き込まれもう一人を巻き込みながら吹っ飛んでいる。
回復役は治癒術を詠唱し始め後衛達が譜術の詠唱をしているが、シンク様は前衛の攻撃を避けたかと思うと地面に手を付き、フレアトーネードを発動させた。
「こいつをくらいなっ!」
一気に火に包まれた後衛達に回復役が頑張るが、いかんせん追いついていない。
吹き飛ばされた前衛が起き上がり、シンク様に飛び掛るが裏拳を喰らって終わった。
一人だけフレアトーネードを逃れていたらしい譜術師がエナジーブラストを発動させたが、マジックガードでそれを防いだシンク様は素早く距離を詰め、拳骨を落としたために稽古は終わった。
「全く…自分が攻撃している間でも油断するんじゃないよ。避けられたら無防備になるだろ」
「はい、すみません…」
「それと後衛、同時詠唱で威力を底上げするつもりだったんだろうけど、固まりすぎ。
それぞれ一定の距離を取るか、一人は譜術障壁を張れるよう詠唱は止めておくかしないと今回みたいに一網打尽にされるからね」
「はい…」
「最後のエナジーブラストを唱えたのは何で?」
「あ、はい。自分ひとり残ってしまったため、せめて詠唱時間が短い譜術で一太刀入れたいと」
「それは良い判断だ。最初からそうするともっと良い。
相手が素早かったり力量がわからなかった場合、詠唱時間の短い譜術を選んで出方を見るのは基本だからね」
「は、はい!」
「それと回復だけど、あらかじめファーストエイドを詠唱しておいていつでも発動できるようにしておいても良いと思う。
この人数で回復が一人だと間に合わないのは解ったろ?」
「はい!次はそうしてみます!」
稽古が終わり、それぞれシンク様にアドバイスをいただいてから、シンク様は俺の元へやってきた。
ある程度身体を動かしたから執務室へ戻るのだろう。
俺と一緒に執務室へと戻ったシンク様は、更に追加で届けられた書類を捌き始めた。
ついでに俺にも書類が渡され、どういうことだと見ればシンク様にそれぞれの師団に届けるよう指示を出される。重要度は高くないが、それぞれの師団に通達しておく必要があるそうだ。
なのでさっさと行ってさっさと帰って来ようと走って行こうとしたら、何故かシンク様に止められた。
「あのさ、前から言いたかったんだけど、何でわざわざロイが行くわけ?」
「は?いえ、申し付けられたのは自分ですので」
「そこら辺の第五師団員使えば良いだろ?何でも自分でやろうとするのはロイの美徳だろうけど、それじゃちょっと困るんだよ」
困る、と言われて俺は正直戸惑った。
他の団員を使うまでもないし、自分が行った方が早い。
そう思っていたのだが、何か間違っていたのだろうか。
「僕もロイも軍人だ。だからいつ死ぬかなんて解らない。
僕の業務は僕が死んでもロイが引き継げるけど、ロイが死んだら誰が引き継ぐのさ?
ロイ一人が全部やってたら、他の人員が仕事に関して完全に知識が無い状態になるんだよ」
ため息混じりに言われ、俺は思ってもみなかったことを言われて衝撃を受けた。
自分の死後なんて考えたくないが、確かにシンク様の言う通りなのだ。
俺もシンク様も軍人、他の職業よりも圧倒的に死の確率が高い職であり、常に最悪の事態を考えて行動しなければならない立場にある。
「そういった意味でもある程度業務は分散しておいたほうが良いんだよ。
それとロイは副師団長だ。僕が不在がちな分、師団員達もロイを頼るだろう。
そのロイがいつもバタバタしてたら師団員たちもロイに話しかけづらいだろ?」
「あ…」
「ロイがあっち行ったりこっち行ったりしてたら話しかけられないけど、指示を出すだけならそんなことはない。出し終わるのを待ってから話しかければ良いんだからね。
副師団長って地位持ってるんだから、ガンガン部下を使って良いんだよ。
勿論副師団長じゃないとできない業務とかもあるわけだから、そこは行ってくれて良いんだけど」
「申し訳ありません…軽率でした」
「いや、ロイの自分が動こうとする姿勢は美徳だって思ってるのは本当だから。
ただ僕が不在の間は師団を預けてるわけだから…」
「はい。肝に銘じておきます。では、コチラの書類を各師団に届けるよう指示しておきます」
「そうだね。宜しく。それと神託の盾傭兵団の依頼がそろそろ振り分けられてる筈だからそっちの書類も取ってきてくれる?」
「はっ」
敬礼をして執務室を出た後、適当な師団員を捕まえて書類を届けるよう指示する。
そして神託の盾傭兵団の部署に行けば、シンク様の仰るとおり第五師団に振り分けられた依頼書が複数あった。
依頼人の個人情報が記載されているためにこれは師団長か副師団長、もしくは委任状を持った師団員しか受け取れないので、俺かシンク様が受け取るしかないものだ。
まぁ取りに来なかった場合傭兵団の受付嬢が届けに来てくれるのだが。
依頼書の入った封筒を片手に、執務室へと戻る間俺は自分の浅はかさに落ち込んでいた。
騎士団に入った以上死は覚悟していたつもりだったが、やはりどこか甘かったらしい。
とぼとぼと歩いて執務室へと戻ると、シンク様は珈琲を飲みながら傭兵団に登録している師団員一覧に目を通していた。
「お帰り。じゃ、さっさと割り振っちゃおうか」
「はっ」
神託の盾傭兵団は普通傭兵に依頼するであろう内容を神託の盾が受け付けるという事業の一つだ。
普通に師団員をやっているよりも金回りが良いため仕事を請けたがる師団員は多いが、傭兵団に登録しなければ仕事を受け付けることはできない。
また、登録するにも保険の加入や面接、実力テストや研修などいくつか条件が設けられている。
傭兵団に登録されたメンバーの中から最適と思われる人員を割り振るのは師団長の仕事の一つであり、シンク様は午前中のうちにこの仕事を終わらせてしまうことが多い。
シンク様と仕事の割り振りを済ませた後、シンク様は昼食を取るために部屋を出て行ってしまった。
昼食を取り、一時間半ほどの休憩を取った後またココに戻られるので、俺もその間に休憩と昼食を取る。
そしてまた執務室へと戻ってきたシンク様は、今度は俺を引き連れて外の修練場へと向かった。
ただし今度は午前中のような稽古ではない。
小隊同士で模擬戦を行ったり、先程仕事を割り振ったメンバーにそれを伝えたり、また信者からの嘆願として届けられた仕事を割り振ったりと仕事的な意味合いが大きい。
コレは日によって様々な内容があるが、今日は仕事の割り振りと模擬戦だ。
各小隊同士が力をぶつけ合い、シンク様と俺がそれを見て成長具合と力のバランスを図る。
一気に全ての小隊をぶつけるわけではないが第五師団は基本人数が多いため、コレは結構に時間を取られる。
今日も全ての対戦を見終える頃にはレムが傾きかけており、自然とその場で解散となった。
「ロイ」
「は」
「明日は論師の守護役として仕事がある。だから明日の業務は頼んだよ。
何か問題があったら伝令を走らせて」
「はっ!」
「僕みたいな小僧に言われるのは癪かもしれないけどね……お前には期待してる」
「……シンク様」
顔を見ないまま言われた言葉に嬉しさや恥ずかしさが湧き上がり、俺は深々と頭を下げた。
癪なものか。シンク様の力量は俺が一番よく知っているのだ。
例え子供だろうと、そこを見間違えるほど愚かになったつもりは無い。
そんな風に胸中を喜びで満たしていたのだが、続いてシンク様が零した言葉に今度は一気に顔が青くなるのが自分でも解った。
「お前の力は誰かを補佐するものじゃなく、人を引っ張っていく方が適していることは僕も解ってる。閣下にもお前が力を最大限発揮できる地位に移動できるよう進言しておくつも」
「それは第五師団から出て行けということですか!?」
「は?いや、そういうつもりじゃ…ない、けど……そうなる、のか?」
シンク様の言葉を最後まで聞くこともなく、思わず食いつき気味に問いかければ、珍しく呆気に取られたらしいシンク様が俺を振り返った。
俺は感情的になったことを後悔するも、他の師団に移動するなど冗談ではない。
「俺はシンク様の副官です。俺なんかがその役目をまっとうできているか不安になるときはあれど、今の地位が嫌だと思ったことなど一度もありません!」
「…うーん、第三師団の師団長に推薦しようと思ってたんだけどね。そんなにイヤ?」
「イヤです!」
キッパリと断言すれば、シンク様は唇を開けてぽかんとしたあと、突然噴出しそのまま笑い始めた。
その場にしゃがみ込んで腹を抱えているシンク様にどうしたものかと悩んでいると、残っていた師団員達も何事かと周囲に集まり始める。
シンク様になんと言われようと、俺は引く気は無かった。
それに俺は自分が師団長になれる器だと思っていない。今だって身に余る地位だと思っているのに、それ以上上の地位など冗談ではない。
「昇進するの、そんなに嫌なんだ?そんな事言われるとは思わなかったよ」
未だにくすくすと笑いながら言われ、俺はようやく同時に昇進を蹴ったに等しいことに気付く。
昇進すれば給料だってアップするし、待遇改善もある。
その事実にぐらりと心が揺れたが、やはりシンク様を補佐したいと言う気持ちの方が勝り、未だに笑みを零しながらもなんとか立ち上がったシンク様に敬礼を取った。
「不肖ロイ、これからもシンク様の副官として精進を重ねたいと思います!」
「……そう、解った。お前の気持ちを尊重するよ。実際、今も凄く助かってるからね。これからも宜しく」
なんだどうしたと集まってくる師団員達に囲まれながら、シンク様が片手を上げる。
助かっているという言葉に俺でも役に立てているのだと嬉しくなる。
シンク様は俺から視線を外して集まってきた師団員達に向かって声を張り上げた。
「いつまで遊んでるのさ!さっさと戻って身体を休めな!」
「師団長、何の話だったんですか!?」
「副師団長移動しちゃうんですか!?」
「するわけないだろ!とっとと移動しないなら走れるようにイグニートプリズンで鎧に火つけるよ!」
「ぎゃああああ!」
「逃げろ!師団長なら本気でやるぞ!!」
「師団長!鎧に火はつかないと思います!」
「兜の房と腰巻にはつくだろ?」
「やべぇ、走れお前ら!!」
完全にふざけている師団員達が走って帰るのに苦笑しつつ、シンク様はそれを見送っている。
そして誰も居なくなったのを確認して、ようやく自分も修練場を後にするのだ。
俺の一日の業務はコレで終わるが、シンク様はこの後また論師様の元へと足を運ぶ。
今日一日シンク様を観察していたが、やはり俺が負担を減らすことはあまりできなさそうだった。
ただ一つだけ、これからは簡単な仕事は師団員達に任せようと思う。
俺が死んだ時というのも勿論あるが、俺が走っている間にまた仕事を手伝えればもっと仕事が速く終わると思うのだ。
「それではシンク様、俺も失礼致します」
「うん、お疲れ。明日は頼んだよ」
「はっ!」
愛用のハルバートを背負い、修練場の利用記録を書いているシンク様に頭を下げて鎧を脱ぐために第五師団の更衣室へと向かう。
我等が師団長は、実に有能なお方である。
烈風と第五師団の日常
とろろ様リクエスト、言論でシンクと第五師団の日常。
…と、いうことでしたが、何だか副官とシンクの日常になった気がしなくもない。
シンクはこんな感じで第五師団の面々と交流してます。
守護役の仕事があるときはロイさんに仕事を任せているシンクですが、そうでない時は団員達とも結構気安いです。
午前中の稽古なんかは交流の意味合いのが強い感じ。
とろろ様、こんな感じでいかがでしょうか?
リクエストに応えられているか解りませんが50,000打感謝の一品として捧げさせて頂きます。
フリリクありがとうございました!
清花
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