君と年の瀬〜後編〜
シンクとだべっているうちに時間も過ぎ、あっという間に日が落ちる。
つけっぱなしにしているテレビからは年末特集が延々と流れ続け、芸人などが来年の抱負などを語っている。
しかしいつまでもこんな風に無為に時間を過ごしているわけにもいかない。
私は晩御飯の準備をするために立ち上がり、シンクは一度家に帰ってシャワーを浴びてくると言い出した。
「? 着替えだけ持って来てうちで入れば良いじゃん」
「……いや、でも」
「どうせまたちゃんと髪乾かさずにこっち来るんでしょう?風邪引くよ。
それくらいならこっちで入っちゃえばいいんだよ」
どうせシンク達が使っているシャンプーなどもこっちの浴室にも置いてあるのだ。
今更遠慮することでも無いだろうと提案したのだが、何故かシンクは目をそらしている。
「あのさ、僕男なんだけど」
「? 知ってるよ。女には見え……いや、女装すればいけるか?」
「喧嘩売ってる?」
「いや、マジで。レインやってたもん」
「…………」
私の発言にシンクは微妙そうな顔をした後、ため息をついてから着替え取ってくると言って二階へ向かって行った。
「部屋入るからね」
「どーぞー!」
つまり私の部屋の窓を経由して自分の部屋へと行くつもりなのだろう。
実に便利なショートカットルートだ。
いつものことなのでシンクに部屋に入られることも何の抵抗も無い。
昔は私もやっていた。今は流石にやらないが。
そうして私が晩ご飯の準備をしている間にシンクもシャワーを浴びて、さっぱりした顔でリビングへと戻ってくる。
いつもは逆立っている髪も、シャワーを浴びれば重力に従って降ろされている。
案の定ちゃんと髪を拭いて出てこなかったシンクにタオルを投げつけてから、天ぷらを盛ったお蕎麦をテーブルへと運んだ。
「何の天ぷら?」
「イカと海老とカボチャ。昼間スーパーで調達した奴」
「揚げたんじゃないんだ?」
「昼も夜も揚げ物は面倒」
お互い席に着いていただきますと言ってから蕎麦を食べる。
コレを食べると今年ももう終わりなんだなぁと実感するから不思議だ。
「今年も終わりだねぇ」
「そうだね。熱っ」
「気をつけなよ。天ぷらにお蕎麦のつけるのは確かに美味しいけど」
イカの天ぷらをはふはふと食べるシンクに笑みを浮かべつつ、ちゅるちゅるとお蕎麦を啜る。
「レインたち帰ってこないね」
「下手すると一緒に向こうで年越しするのかもね」
「シンクと二人で年越しかぁ」
「なんか文句あるわけ?」
「いや、ないけどさ。去年もそうだったよね」
「そういえばそうだね」
「ンでもって帰って来たイオン達が何故かがっかりしてたんだよね」
「……そんなこともあったね」
箸をもっていたシンクがサッと視線をそらす。
あの後暫くの間シンクのあだ名がヘタレになっていたが、一体何がへたれているというのか。
お蕎麦を食べ終わっておなかを満たした私はシンクに洗い物を頼み、そのままお風呂に行くことにした。
シンクが居るので湯船にお湯を溜めず、シャワーを浴びるだけに留める。
ドライヤーで髪を乾かしてからパジャマの上に半纏を羽織ってリビングへと戻れば、シンクは洗い物をとっくに終え、ソファに寝転がりながら携帯を弄っていた。
「あ、シャワー浴びてきたんだ?」
「うん。イオン達から連絡でもきた?」
「イオンはアリエッタの家に、フローリアンはアッシュの家に、レインは部活動員達で集まって泊りだってさ」
「じゃあマジでシンク一人じゃん。どうする?うちに泊まってく?」
一人は寂しいだろうと冷蔵庫からお茶を取り出しながらそう提案すれば、何故かシンクがソファから落ちた。
結構大きい音がしたが、大丈夫だろうか。
頭を抑えたシンクは暫く身悶えた後、あのね、と何故か改まった様子で私の方に歩み寄ってくる。
「もう一回言うよ?僕、男なんだけど?」
「うん、知ってるよ」
電気のついていないキッチンでお茶を飲みながら言えば、シンクは何故か眉間に皺を寄せる。
そんな顔をされる意味が解らずに首を傾げると、何故か壁際に追い詰められて逃げ道を塞がれた。
「知ってても、解ってないだろ。
女のシオリが男の僕を泊まっていけば、なんて簡単に言うってことは、さ。
ある意味誘ってるって思われても仕方ないんだよ?」
壁に手をついたシンクに閉じ込められ、私はシンクに言われた言葉の意味を改めて考える。
そして誘っているという言葉の意味にようやく気付き、シンクが言わんとしていることを遅まきながらも察すれば、顔に熱が集中するのがわかった。
見なくとも判る。私の顔は今、真っ赤なのだろう。
「あ、いや、そういう意味じゃ……」
「じゃあ何さ。僕が何とも思わないとでも?」
シンクの胸を押してどいてくれと主張してみるも、何故かシンクは私に密着してくる。
身長が同じくらいだから自然と顔も近付いてくるわけで、密着されれば心臓がドキドキと煩いのがばれてしまうんじゃないかと動揺が隠せなかった。
「あの、シンク、近い……から」
「シオリは、鈍感すぎる」
「う、ごめん……」
謝りつつもシンクを見れば、こっちをじっと見ているシンクが居る。
心臓はまるで激しい運動をしたときのようにその鼓動を早めていたけれど、嫌ではなかった。
そうして見詰め合っているうち、次第にゆっくりと近付いてくるシンクの顔にぎゅっと目を瞑る。
キスをされるのだろうか。
そう思った瞬間、パシャリと音がして反射的に目を開けた。
「あ、暗いからちゃんと写ってないな……フラッシュつければ良かった」
「でも怪しくて良い感じだよ。僕にもその写真ちょうだい!」
「あ、では僕にも下さい」
目の前には、ぽかんとしたシンク。
そしてその背後には、カウンター越しに居るイオンとレインとフローリアン。
イオンにいたっては携帯をコチラに向けていたから、多分先程のパシャリという音は多分カメラの音で……。
「ただいま、シオリ。二人だけじゃ寂しいかなと思って帰ってきちゃった」
わざとらしいほどの満面の笑みでイオンに言われ、私は一気に脱力した。
へなへなとその場に座り込む私とは反対に、シンクはわなわなと震えている。
レインは申し訳無さそうにしているものの笑顔は崩していないし、フローリアンもにこにこと笑っていて、多分楽しんでいるのは間違いない。
「アンタ達帰ってこないって言ったじゃないかーー!!」
シンクの怒声が響き渡る。
そのことに苦笑しつつ、未だに高鳴った鼓動の名残とでも言うように、少しだけ早鐘を打っている胸をそっと押さえた。
あ、駄目だ。
もうシンクのこと普通に見れない。
きっとこれから意識しちゃう。
そんな事を考えつつ、イオンを追いかけ始めるシンクを視線だけで追う。
まだ頬が熱を持っている気がして、直視は出来なかった。
すると座り込んだままだった私の元にレインが歩み寄ってきて、手を差し伸べてくれたので彼の手を借りて何とか立ち上がる。
「お邪魔でしたか?」
ふふ、と微笑みながら言われ、私はふるふると横に首をふった。
どうせなら、まずは好きだと言われたい。だからきっと、コレでよかったのだ。
時計を見れば時刻は11時。もうすぐ今年も終わる。
今年中はもう無理だけど、来年はシンクとの関係もまた変わるに違いない。
だってあのドキドキに嫌だなんて気持ちは一つも無かった。
そうなれば私の気持ちの答えなんて一つしかない。
「皆もうお蕎麦食べた?」
「僕食べてきた!アッシュと一緒に食べたの、おいしかったんだぁ」
「アリエッタと食べてきたよ、って、ちょ、蹴るな空手部!!」
「煩い放送部!!」
「僕美術部、レインは天文学部!!」
「別に自己紹介じゃないんだから……レインは食べてきた?」
「はい。星を見ながら、みんなと一緒に」
「そっか。シンク!それ以上暴れるようなら家からたたき出すわよ!」
「げっ」
一気に賑やかになった室内で笑いながら思う。
来年はきっと、もっと良い年になるに違いない。
言論IF〜君と年の瀬〜
ずっとやってみたかった言論現パロ。
年越しでした。お正月じゃなく年末ですが。
シンク達は四つ子という設定です。
無理がある?それが許されるのが二次創作さ!!
ふ、と目を覚ましてまず感じたのは身体の軋みだ。
ギシギシ言う身体を無理矢理起こせば、どうやら自分は執務室の机で突っ伏して眠ってしまったようだと悟る。
何だか随分と懐かしい夢を見た気がする。
詳しい内容は覚えていないが、シンク達と一緒に地球に居たような、そんな夢だ。
しかし夢の内容は指の間を零れるようにするすると記憶から抜けていく。
なので気を取り直すように部屋を見渡せばシンクもまたソファに座ったまま眠ってしまっていて、ころりとペンが落ちている辺り仮眠しているわけでは無い様子。
執務机から立ちあがり、軽く揺らしてやればシンクはすぐに目を覚ました。
「ん?あ、あ……ごめん、寝てた」
「うん。私も寝てた。今日はもう終わろうか」
「そうだね。年の瀬だし、いい加減仕事納めを……って、あー。もう年変わってるじゃん」
シンクが時計に目を移しながら言った言葉を聞き、私も改めて時計を見る。
時計の針は12時13分を刺していて、なるほど、私達は眠ったまま年を越えてしまったらしい。
「ホントだね。まあ寝よう、うん。年越えようがなんだろうが仕事は待ってくれないんだし、明日も仕事なのは変わらないしね」
「それもそうだね。じゃあ僕部屋に戻るね」
「うん。ゆっくり休んで。あ、そうだシンク」
「なに?」
首を動かしてこりをほぐしながらも書類を纏めようとしていたシンクを引き止める。
いや、本当なら引き止めるほどのことでもないのかもしれないが、何となくそうしたかったのだ。
「あけましておめでとう。今年も宜しくね」
「……あ、うん、よろしく」
オールドラントに年越しを丁寧に祝う習慣は無い。
そのせいかちょっと呆気に取られているシンクにくすくすと笑う。
新年早々可愛い顔が見れたことにちょっとだけ気分が良い。
さあ、今年も楽しい年にしようじゃないか。
2015.12.31
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